最強師匠と勇者様

うさぎ

0話

とある晴れた日、雲一つない青い空の下に鉄の塊がぶつかり合う音が響いている。その鉄の塊を振るっているのは赤い瞳の少年と顎髭を生やした齢40にでも差し掛かろうとしている男性だ。
「おいおい、どうした少年。そんなんでどうするんだい、君は世界を救うんだろう」
全身に汗を滴らせ、顎が上がり肩で息をしている赤い瞳の少年に向けて、ニヤリとしながら言い放った顎髭の中年男性は一滴の汗すらかいてはいなかった。
「う、うるせえよ。今やっとウォーミングアップが終わったんだよ」
少年はそう言い放ち顎髭の中年に対して剣を構えた。
「少年、もう1時間も剣を合わせてるだろう。一旦休憩にしないか」
少し笑いながら中年はそう提案した。
「ちっ、わかったよ」
少年は少し拗ねたように視線を斜め下に移しながらも中年の言う事を受け止めたようだった。中年は休憩に茶菓子を用意しようと後ろを向いて歩き始めた。
「と、見せかけて、くらえ」
後ろを向いて歩き始めた中年の後頭部を目がけて少年は剣を振るった。この1時間の中で最高の踏み込みで強烈な威力を持った剣が中年の後頭部捉えようとしている。
「うん」
中年はその横顔を少年に見せてニヤッと笑った。
「いててっ」
中年の後頭部めがけて強烈な一撃を振りかざしていた少年はいつの間にか地面に寝転がっていたらしい。首に走った痛みで目が覚めた。
「良くやったよ少年。いい踏み込み、良い一撃だった。」
中年は椅子に座り紅茶を飲みながら、少年に向けて続けて言った。
「合格だよ。よくここまで頑張ったね。少年、1時間戦ってもあの強烈な一撃を放つ体力そして集中力、まあ若干狡いところもあるが、そこはご愛嬌だろう。」
少年は口を開けてぽかんとしていた。この言葉の後に中年が言った言葉は耳を右から左へと抜けていっているのであろう。中年から出た合格の一言はそれほどこの少年に対しては聞きたかった一言だった。
「少年、明日からは国のために、いや世界のために頑張らなくてはならないな」
そう言った中央の顔はとても優しい笑顔に満ちていた。

次の日
背中に剣を携え鎧を身にまとった少年が、中年の前に立っていた。
「よし、いい顔してるぞ。今までのことを生かしながら世界のために頑張るんだよ。少年いや、勇者様」
中年はそういいながら少年の頭を撫でていた。
「やめろよ、んじゃあ行ってくる」
無愛想な返事とは似つかわしくない照れた顔で勇者と呼ばれた少年は世界を救うための旅に向かっていった。

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