正反対の僕と彼女~2人の関係の行方~

梅谷シウア

#2 6.旅行~僕らの夏休み1~その4

浴衣に着替えた3人は、晴人と仁のところまで駆けてくると、浴衣を見せるように回ってみせる。
「………………」
「おーい、はるくん。おーい」
「……はっ。どうしたの、ゆいねえ?」
 呆気にとられていた晴人はようやく我に返った。
「どうしたのじゃないよ、はるくん。突然ぼーっとして」
「いや、まあ、うん。何の話だっけ?」
「浴衣似合ってる? って聞いたんだけど」
「ああ、そうだったね。似合ってるよ。ゆいねえも、習志野さんも……泉さんも」
「ねえ、なんで私のとき間があったのさ晴人」
 そう不満げに言いながら、泉は晴人に詰め寄る。
「いや、何でもないってば」
「嘘だー、目が泳いでるし」
「ただ目を奪われたっていうか、いや、何でもない」
「そっか」
 泉はその距離が、急に気まずくなって1歩ずれてみる。お互いちらちらと目が合っては顔ごと背ける。
「俺、なんかあれの近くにいるだけで疲れてきました」
「ほら、大河君あの雰囲気を壊してくるんだ。雰囲気クラッシャー投下!」
 結華に合わせて、習志野もボソッと投下と言い2人で仁の背中を押す。
「えっ、ちょ…………あー、なんだ、2人とも早く行こうぜ」
 無理やり2人の前に押し出された仁は、押してきた2人の方を見ては、晴人と泉の2人を見てを交互に繰り返してから、何とかそう言った。
「えっ、ああ、そうね」
「そうだね、もう露店とかやってそうだし」
 2人は仁の言葉にそう返し、曖昧な距離感のまま祭りの会場へと向かっていく。その後ろから結華が2人の間に割って入り、習志野も仁も、晴人と泉を囲うようにして寄ってきた。
「いや、姉さん近い。くっつかないでよ」
「まさか、嫌われた……はるくんに嫌われた…………」
 結華はこの世の終わりといったような感じで、顔を真っ青にしていく。
「いや、暑いし。それに何よりゆいねえの浴衣も見れないじゃん」
 晴人は非常手段だと言わんばかりにそう囁き、見事結華を離すことに成功する。
「そっ、それもそうね。早く行こはるくん」
 結華は晴人からかけられた言葉に、一瞬戸惑い声を裏返すが、すぐに仮面を被ったようにいつものごとく振る舞う。
「さっきのあれなんだったの?」
「えっ、ああ、ゆいねえのあれ?」
 先ほどの結華の様子を不思議そうに見ていた泉は、晴人の答えに強く頷く。
「えっ、いや、ゆいねえが大人しくなるように少しね」
「ふーん」
 晴人は泉に近づいていって、囁くようにこう言った。
「『すごく似合ってる浴衣姿が見られないじゃん。』こんなかんじだよ」
「なっ…………」
 しかし、最後に付け加えた台詞が聞こえなかった泉は、顔を赤く染め上げる。
 それから、晴人が誤解を解くまでの間は、甘い空気が流れ、解いてからはひどくぎこちない空気が2人の間にはあった。
 他の3人は2人の事を気にも留めず思い思いに、祭りを楽しんだ。
 そして帰り際、晴人と泉は先と同じように2人見つめあっていた。
「「あのさ」」
「泉さんからお先にどうぞ」
「いや、晴人からでいいってば」
 晴人はそっかと言ってから、覚悟を決めるように深呼吸をしてからこう言った。
「あの、泉さんさえよければなんだけど、今日の埋め合わせっていうか、しない? 夏休みの最後の週になるとは思うんだけど、うちの近くで花火大会があるから、その、今日はなんか楽しめなかっただろうし。いや、もちろん、嫌ならいいんだけどさ」
「へっ、ああ、そうね。じゃあ、せっかくだし行かせてもらおうかな」

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