正反対の僕と彼女~2人の関係の行方~

梅谷シウア

#1 18.終業式~彼女は……彼女が~

球技大会3日目は、決勝トーナメントを午前中に行い午後は終業式と言うスケジュールだ。
 1年3組の中で決勝トーナメントまで進んだのは、泉の女子バスケと、男子のサッカーだった。
「泉さ」
「みりんも決勝トーナメントまであるんだな」
 晴人に割って入るように、泉に話しかけたのはクラスの中でもイケメンと名高い、和歌浦わかうらはじめだった。
「まあ、頑張ったからね」
 泉は興味ここにあらずと言った感じで和歌浦に返す。そして逃げるようにバスケのメンバーの元へと向かう。
「んだよ、糞ビッチのくせに。次は地味男漁りか」
 晴人は、見てはいけない一面を見たような気になり、急いでその場を去る。当然だが行く当てがあるわけでもない晴人は、何時だかの渡り廊下にやってくる。競技が行われているのはグラウンドと体育館。そして、専用の通路が解放されているためこんな場所に人はいない。
「何やってんだろ、僕ってやつは」
 晴人の頭には先程和歌浦が吐き捨てた言葉が、のどに詰まった小骨のようにうっとおしく何度も繰り返されていた。
「お悩みのようだね、後輩君」
 晴人の溜め息を、待ってましたと言わんばかりに柱の陰から現れたのは、晴人の所属する読書同好会の会長茂原もばら美好みよしだった。
「どうしたんですか先輩? 何か同好会関係でやらかしました?」
「酷いね、君ってやつは。せっかく優しい、やさしい先輩が悩みを聞いてあげようっていうのに」
「優しい先輩は、逆らえない姉を使って後輩の自由を奪うんですか?」
 うっ、そこを突かれるとと言いたげな顔になるのを確認して、晴人は冗談ですよと言う。
「で、悩みってのは何なんだい?」
「大したことじゃないですよ」
「なら言うも言わないも変わらない。私に教えてよ」
「それもそうですね。端的に言えば仲良くしてくれてる女子と同じ中学の男子の言葉が妙に引っかかって」
「その子のイメージがってこと?」
「ええ、まあ」
 君はバカだな。そう言いながら茂原は笑う。
「君は彼の言葉と、その子と過ごした時間どっちを信じるんだい? 大体同じ中学ってだけじゃないか。彼の言葉に根拠はあるのかい?」
 いっ、いえそれは。と言う晴人の声は自信がなくとても細いものだった。
「君は自分の信じたいことを信じればいいんだ。人の言葉に惑わされるようじゃ人生棒に振るよ」
「そういうもんなんですかね?」
「そういうもんだよ」
 晴人はいったん考えるのをやめ、体育館へと入ると、階段を上りギャラリーを押しのけ、バスケのコートの見えるところまで向かう。
 周りもうるさいし、僕の声なんて聞こえないかもしれない。それでも約束したんだ。最終日くらいその約束を果たしたい。
 試合は急展開し周りからの声がさらに大きくなる。晴人はそんな中、必死に1年3組の女子チームを、泉を応援した。

 *****

 球技大会の表彰式では各部門と総合の順位が発表された。男子サッカーは1年3組が優勝、女子バスケは3位だった。それから終業式が始まるや否や晴人は、考え事を始めた。
 僕が何を信じる、か。泉さんとの最初の会話って、人生でも結構な失敗からだったなぁ。あんな始まりだったとはいえ仲良くしてもらったなぁ。ゆいねえと同じ部活に泉さんが入って、うちに来たりもしたっけ。あれはたしか体育際の打ち上げだっけ。他にもキャンプではバスが隣の席で僕の肩を枕代わりに寝てたっけ。あれは演技とか遊んでるとかそういうのじゃないんじゃないかな。過去に何があったかは分かんないけど、ゆいねえが気に入ってるしいい娘なんだろうな。なら僕は、僕から見た泉さんてどんな人だ? しっかりしてて、理想とか言われてる女の子だけど、弱いところもあって。駄目だ、僕にとっては一体何なんだろ。
「おーい、晴人? だいじょーぶ? 起きてるー?」
「ああ、ごめん。考え事してた」
 とっくに終業式は終わっていたらしく、ほとんどの生徒が教室に戻り始めたのに、戻らない晴人を心配して泉はやって来たらしい。
「ほら、早く教室もどろ。明日から夏休みだよ」
「そういえばそうだね。今年もゆいねえに振り回されるのか」
 はははと、泉は乾いた笑いをしてから、いたずら的な笑みを浮かべてこう言う。
「今年は私も振り回してあげようか?」
「ははは、それはそれで悪くないかもね」
 晴人が、自分の感情に気づくのはもう少し後の話。

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