正反対の僕と彼女~2人の関係の行方~

梅谷シウア

#1 1.高校生活スタート~彼女は出会って早々~

僕、鎌ヶ谷かまがや晴人はるとは、この春から県立東成瀬高校に通う事になった。
 県立東成瀬高校は、県内の中でも偏差値が中の中くらいの学校で、不思議な事に進学校を名乗っている。周辺には私立高校やスポーツプラザがある。駅を挟んで反対側には商業施設や、企業の本社があったりする。養護学校の分教室もあったりして、生徒総数は1,000人弱程、駅から近いからというような理由で選んでいる生徒がとても多いとか、そういう高校だ。
 僕は、登校初日の朝に通勤ラッシュに巻き込まれ、最寄り駅で降り損ねて、戻ってくるという失敗をやらかしてしまった。
「ふぅ、ぎりぎりセーフか。危なかったぁ」
 晴人がクラス分け表から自分の名前を探して、教室に入って更に自分の席を探し着席した時にはチャイムが鳴る3分前だった。
「本当にギリギリだね。登校初日くらい早く来た方が良いと思うなぁ」
 隣の席の少女が独り言に反応したので、晴人は驚いた。そしてなんとか言葉を発する。
「えっ、まぁそうだよね」
「私は、いずみりんよ。趣味は料理とカラオケ。1年間よろしくね」
 どうやら、彼女が隣の席の泉さんらしい。
 まさか、この場で自己紹介をすることになるとは思っても見なかった、何も考えてないや。
「よろしく、泉さん。僕は鎌ヶ谷晴人です」
 晴人は、緊張しつつもなんとか噛まずに言えたと安堵しているが、イントネーションが変になったりしている。泉は見た目こそ派手な今時の女子高生というような格好をしていたが、まず間違いなく誰もが美少女だと思うような容姿の持ち主だった。そんな彼女に話しかけられ、女子とろくに話したことがない晴人が冷静でいられる訳が無かった。
「ところでなんで、晴人はこんな時間に来たの? 普通は、初登校の日くらい早く来るんじゃないの?」
 泉は、それが当たり前であるかのように、晴人を名前で呼び捨てた。まさか名前で呼び捨てされるなんて微塵も思っていなかった晴人は少し戸惑いながらも、失敗に触れないように注意しながらなんとか話をそらす事を試みる。
「それはちょっとやむにやまれぬ事情があってね。そんなことより登校時間ってどれくらいなの? 僕は45分くらいだけど」
「私は30分かかるかどうかだよ。ところでその事情ってのはなんなの?」
 しかし泉がそれを許してくれる様子も無く、渋々晴人は今朝の失敗を話す。
「いや、僕も早く来ようと思って少し早めに家を出たんだけどね。通勤ラッシュに時間が重なって駅で降り損ねて、3個程先の駅までいって戻って来る羽目になったからね」
「ふふっ、はははっ、何それ超傑作。しっかりしなよー」
 人生の中でもかなり酷い失敗を今日出会ってすぐの奴に笑われて晴人も笑うしか無かった。美少女なら大抵の事は許せるという友人を羨ましく思える程には精神的ダメージを負ってしまった。
「ふぅ、笑い疲れちゃったよ。さて、そろそろ体育館に行った方が良いのかな? 8時50分になったら並んで体育館に行くように書かれているけど」
「書いてるだけなんだね。教師と一緒に体育館に行くもんだと思ってたよ」
 高校入試に受かり、入学者説明会で1度体育館に行っているとはいえ事前に説明もなく入学式に参加するっていうのはどうなんだろう。

 *****

 入学式は1組から順に呼名をしていき、校長の話、教育委員会代表の話などだった。クラスの一部男子は生徒会長に見とれていたり、新入生代表の挨拶の堅苦しさに驚くこともあったりしたが、特に滞りなく式は終わった。
「さて、俺はこのクラス、1年3組の担任になった、高橋たかはしだ。1年間よろしくな。今日のLHRは自己紹介だけだから、出席番号1番からよろしくな」
 自己紹介いったい何を話そうか、なんて声がクラス中から聞こえ始めた。
「もう始めてくれていいんだぞ」
 LHRの時間的にも、今からだと1人1分でも時間が足りないし先生が焦るのも分からないでもなかった。新しい学校での自己紹介なんて長引くのは目に見えているのだし、無駄な事だとも思えたが、体裁上時間どうりに終わらせようとしておいた方が良いらしい。
「1番の甘木あまぎ佳奈かなです。趣味はボーリングです。これから1年間よろしく」
「2番の泉凛です。趣味は料理とカラオケです。1年間よろしくね」
 泉さんが自己紹介したときにクラス内が少しばかり、ざわついた。美少女で、趣味が料理という家庭的な部分も高ポイントだったらしい。その後も自己紹介は順調に進み、ぼーっとしていた晴人の番が回ってきた。
「8番の鎌ヶ谷晴人です。えっと、よろしくお願いします」
 特に何も考えてなく、これといった趣味がない晴人は名前だけの自己紹介になった。
「晴人、もう少し自己紹介の内要考えなよ。名前だけの自己紹介なんて晴人だけだよ」
「仕方ないじゃん。他に何か言おうとも思ったんだけど、何も思いつかなかったんだから」
 そんなこんなで、泉と晴人が晴人の自己紹介の話について小声で喋っている間にチャイムは鳴り、その数分後には全員の自己紹介が終わり解散になった。
 晴人が教室から出て行く時には、泉の席にクラスの生徒が10人くらい集まって、泉と話していた。外には部活の勧誘をしている先輩達が、1人でも多くの新入生を確保しようと部活の紹介に熱を入れていた。
「はぁ、これじゃあ帰るのにも一苦労じゃないか」
 どうにか先輩達に捕まらずに帰る方法を考えていた晴人だが、何かが思いつくはずも無く、諦めて外に出ようとした時に1人の先輩が晴人に話しかけた。
「おや、君にこの学校の雰囲気は合わなかったかな? 随分とお疲れのようだけど」
 突然話しかけられ、驚いた晴人だが、気を使わせないように、平然と振る舞おうとする。
「そういう訳じゃないんですけど、勧誘に捕まりたくな……って姉さんか」
 知らない上級生に話しかけられたと思い、カタカタの敬語で振る舞っていた晴人だが、上級生の正体が2つ上の自分の姉の結華ゆいかだと分かると安堵から溜息を漏らした。
「酷い、はるくんが私の顔見て溜息ついた。それにゆいねえって呼んでくれない。もしかして、倦怠期? もっとコミュニケーションしなくちゃね」
 両親が幼い頃から共働きで、今ではそろって海外に行っている為、普通の姉弟よりかは仲が良い鎌ヶ谷家では今でも家の中では昔からのあだ名で呼び合ったりしているのだ。
「はぁあ。ゆいねえ、倦怠期はカップルがなるやつだからね。それより何の用?」
「はるくん1人だし、一緒に帰ろっかなーってね。制服デートってやつだよ」
「一緒に帰るのは良いけど、制服デートとかじゃないからね」
 これが普段通りの鎌ヶ谷家の会話だから何とも言いがたいものだと思いながら、晴人はブラコンを軽く拗らせた姉、結華と一緒に2人が暮らしているアパートに帰っていった。結華が晴人の腕を自分の腕と無理矢理組ませながら、それを誰が見てるとも知らずに。

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