丘の上で

　私の祖父には妹がいた。彼女は祖父の反対を押し切って、評判の悪い男と結婚し、その年の社交界でのウワサを全てさらうほどだった。祖父は妹を心配し、マグドナルド一族のある一家に妹とその子どもを守るよう命令したのだ。

　彼女は祖父の心配など必要なかったと、幸せに暮らしたそうだ。しかし彼女の娘であるレディ・エリザベスだけは悩みの種だった。レディ・エリザベスは天使のように美しい顔を持っていたが、心は悪魔に近かった。ワガママで思いやりを知らない女性だったそうだ。

私の父はそんな従姉妹と仲良くできず、ある大ゲンカをしたときから、死ぬまで仲違いしたままだった。彼女がマルグスの亡命貴族であるルフェール子爵と結婚したとき、彼女は自分の子どもにもミュルディスの守護を求めた。
　父は仕えていたマクドナルド一族に話を聞いた。まだ仕えたいか、尋ねたそうだ。一家の長は、もうこき使われるのはごめんだと、父に言ったそうだ。だから父は、レディ・エリザベスの願いを断った。

　そこから彼女の幸福だった人生は、坂道を転がり始めた。

　実はルフェール子爵は、マルグスに妻子がいたのだ。レディ・エリザベスとの婚姻は無効になり、ルフェール子爵は逃げるように祖国に帰ってしまった。レディ・エリザベスは置いていかれてしまったのだ。彼女は両親の遺産に頼って生きるしかなくなり、社交界が好きだった彼女は恥をかいたと、とても怒ったそうだ。

　父はそんな彼女に家を買ったり、生活費を援助したり、経済的援助を始めた。なぜ仲の悪い従姉妹を助けたのか。それは彼女に幼い息子がいたからだ。父は彼女を嫌っていたが、その子どもに罪はないので助けることにしたそうだ。今まで私はこのことを知らなかった。図書室の司書であり、我が家のよき理解者であるサムに話を聞いて、そのことを知ったのだ。

　違っていてほしいが、もしレディ・エリザベスが犯人ならば、その息子に爵位を継がせるためだろう。

　レディ・エリザベスは、今もキングレイ家から援助されている。決して安くない金額が、半年に一度、彼女に支払われる。
　どうやって兄夫妻が呼ばれたのか、今となってはわからないが、様々なことが考えられる。

　考えれば考えるほど、彼女が犯人としか思えない。これは私の思い違いだと、誰かに言ってほしい。頼むから違っていてくれ……


　見渡しの良い丘で、一人待っているとき、マントのフードを被った、見るからに不審な男が現れた。彼はぶつぶつと何かを呟いている。

　語りかけたが、返事はない。彼の右手には、拳銃が握られている。
　もう一度、静止するよう命令する。しかし男は止まらない。私は男の足を撃ち、自供するよう問い詰めた。

　ここで私は思い出す。キングレイに傷つけられたミュルディスは、反撃の魔法を行使する権利があることを。
　グレイに言ったプランBを実行する。ポケットに入れていたカフスボタンを地面に落とす。そして相手に反撃の隙を見せるのだ。

　幸いなことか、不幸せなことか、おそらく私は今すぐに殺されない。

　長距離狙撃のできる銃と拳銃の二つを所持しているということは、彼は自分の腕に自信があるのだ。ならば先日の襲撃のとき、一発で殺されなかったということは、理由があるのだ。グレイ、お前ならわかるだろ？

　男が反撃に出た。左手で私の右腕に触れた。

　ああ、意識が飛ぶ。長引くケガは遠慮したいが、無理だろうな。だが、なぜ彼女が満足しなかったのか。それを知ることができるなら、捕まる価値はある。
　……またエヴァに心配をかけさせている。何をしたら、考える時間は嫌なほどあるだろうな。