異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第127話 窮地に陥るようです

 ダンジョンは階段から始まっていた。どうやら下に降りてからが本番のようだ。何度か来ているのだろう冒険者は、ここでは気を抜いて話をしている。

 奥に進むにつれて少しずつ狭くなっているのが何となく分かった。

 また奥には光も届かず、次第に仄暗くなっていき、壁や天井には星空のように小さな光が無数に広がっていくのが顕著になる。

「お星様みたいなのー!」

「はわぁ……きれい……」

 ゼロとリンがこの風景を見てそんな事を言った。言葉に出さないだけで他の皆も見惚れているのだろうな。現に俺も少し感動はしている。

「見とれるのもいいが、ちゃんと前見ないと階段を踏みはずっ……うわぁぁあ!!」

 俺が踏み外したっ!!あぁ!落ちる!落ちていく!

「うげっ!ぐえっ!あがっ!」

 そんな呻き声を上げて、周りの冒険者からの嘲笑を受けながら下へ下へと落ちていく。

「……ぅ……ぁ」

 ようやく下まで落ちきった俺は虫の息に達していた。

 多分だが、階段を降りる段階でここまで死にそうになったのは俺くらいだろう。

 骨は折れ、殴打した事で出血し、足は変な方向に曲がったが、概ね問題はない。バキボキと音を起てて絶賛回復中だ。

「……ター!マスター!大丈夫なのー!?」

「あわわわっ!血がっ、血が出てますっ!」

「全く……あなたは何かをする前には必ず何か問題を起こさないと気が済まないのかしら……」

「……あほ」

「主様の落ち方は壁に浮き上がっていた光達よりも美しいものでしたね」

「あはは!馬鹿だっ、馬鹿がここにいるっ!あーお腹痛い」

「あんたっていつもこんななの?」

 俺の後を追って皆が駆けつけてくれたのだが、助けることもせずに、言いたい事を言うだけ言って見てるだけ……。なんと白状な。

 回復魔法をかけるだけでもしてくれよ……。はぁ、自分に回復魔法使うか……。

 継続的に回復魔法を使うことにより自己再生の補助をして回復速度を上げた。それによって身体は元通りに戻った。

 俺はさも何も無かったかのように起き上がって一言。

「……女神は飯抜きな」

「なんで私だけっ!?」

「じゃあ皆も飯抜きにするか?」

 それにいち早く反応を示したのがミルだった。

「……メガミィ?」

 ミルがドスを効かせ、いつもより低い声を出す。さらに口は笑っているのに目が殺気立っている。また、黒いオーラを纏っているようにも見えなくない。というか俺にはそのオーラが見える。

 これを瞬時に理解した俺達は恐怖に支配された。

「女神が食材になるのと、女神だけがご飯食べれないのどっちがいい?」

「私だけがご飯を食べれない方でお願いします!」

 ミルの前に全力で土下座をする女神。これは仕方がない。今の俺だって土下座する勢いだ。

 ミルの食べ物の恨みは殺気を出すまでだったか。今度から気を付けよう。

「さて、冗談はここまでにして先に進むか」

「じょ、冗談かぁ。良かったぁ……」

 本気で怖がってた女神は気が抜け、その場にへたりこんでしまった。

 はぁ、しょうがない。おんぶしてやるか。

「女神、俺の背中に捕まれ。俺は早く先に行きたいんだ」

「わ、分かった」

「言っておくが、お前が歩けるようになったらすぐに降ろすからな。楽しようとするなよ」

「それくらい分かってるしっ」

 俺は女神をおんぶして、皆と一緒に先に進み始める。

 ここは第一階層とマップにある。ここは光などの整備が行き届いており、ただの洞窟のような感じだった。

 さらに冒険者が多くいるので比較的魔物や罠などは既に処理されている事が多く、宝箱なども空っぽだ。

 俺達は一階層にはないもないと言うことで早々に下の階層に降りる事を決めた。

 魔物に出くわすことなく、三十分程歩いただけで第二階層に続く階段についた。

 第二階層に降り立った俺達は雰囲気の違いを感じた。

 一階層は気が緩んでいてそれほど緊張感というものがなかったが、ここは神経が研ぎ澄まされており鋭利な刃物を突きつけられている感じがした。

 冒険者の数は感知のスキルを使うと、一階層から考えるて二割にも満たない数しかいなく、魔物はそこら中を徘徊している事が分かった。

「……この緊張感は久しく感じていなかったな。いいか皆、ここからは気を抜くなよ」

 皆もそれは分かっているようで、静かに頷いた。

「俺達がここに来た理由はレベルを上げる為だ。だからこれから魔物と出会ったら全て倒していくぞ」

 そして俺達は先に進み始めた。俺がマップを使い、第三階層に繋がる階段までのルートを進み、ジュリが罠感知で、罠を見つける。

 出会った魔物全てが地上にいた一般の魔物とはまるで違っていた。知性が高く、戦いに慣れている様な気がした。

 しかし、今までで倒してきたアースドラゴンやジャイアントアダマントタートルほどではないので、俺でなくても皆が倒していく。

 また倒した魔物はその場で消滅し、お金がドロップした。一体につき20G。少ないがないよりはマシだ。

 そうして時間をかけてゆっくりと進んでいき、もうそろそろ第三階層へ続く階段につくという頃だった。

「待って皆。ここに罠が……」

「皆下がれ!」

「……っ!」

 皆はその場から後ろに下がった。それは俺も同じだった。なせならば少し進んだ先の影に潜んだ魔物が俺達を狙っていたからだ。

 さっきまで俺達がいた所には細い針のようなものが幾つか刺さっていた。

 魔物は仕留められなかったと分かると、鼓膜が破れるかという程の奇声をあげ、俺達の前に姿を現した。

 その魔物は蠍型で、針は尻尾から射出していたようだ。恐らく毒が塗ってあるのだろう。毒々しい色の液体が滴っている。

「キシャアァァッッ!!」

 やばいな……。こいつがさっき叫んだせいでこっちに魔物が寄ってきている。

 早めにケリをつけなければ。

 俺は蠍を狙い氷魔法と雷魔法を放った。全て命中したのだが、蠍はビクともせずに動き始める。

「嘘だろ……。魔法が効かない。これは物理で殴るしか……。早くしないと魔物がこっちに来るというのに……!」

「鑑定して分かったのだけれど、この蠍、魔法無効の上に硬化のスキルを持ってるわ。レベルも今までのやつより高いし、恐らくこの階層の主と言ってもいいわね」

「という事は生半可な攻撃じゃダメだと言うことだな。じゃあ蠍に直接殴って……」

「その先に行っては駄目よ!何らかの罠が仕掛けられているわ!」

「あの蠍この罠を利用しているのか……?」

 蠍は俺達が罠にかからないと分かると、毒針を飛ばして直接攻撃をしてきた。

 俺達は射線上から逸れて、少しずつ後に下がっていく。

 すると俺達の背後に猛スピードで近付いてくる魔物が感知に引っかかった。

 それをどうにかしたいが、蠍は攻撃の手を緩めるどころか一層激しさを増していく。

 とうとう俺達の背後についた魔物は見た目がゴリラだった。大きさが俺達の二倍程で、筋肉が真っ赤に隆起し、目が血走っていた。

 そのゴリラは、リンに狙いを定めて殴りかかった。それと同時に蠍もリンに攻撃を仕掛けていた。

 リンは蠍にしか気が回らずゴリラにまだ気がついていないようだった。

「リン!」

 俺はリンを突き飛ばして、ゴリラの攻撃を受けて飛ばされた。

 飛ばされた先は例の罠がある所だった。

 罠が発動し、魔物を含めたこの場にいる全員の足の下に魔方陣が出現する。

「これは転移トラップ……!皆、急いで近い人に捕まって!」

 女神が珍しく叫んだ。

 それを聞いて、ゼロとリン、ジュリとレン、フェイもミルで、互いに捕まった。

 俺と、女神は誰かに捕まる前に転移が始まった。

 視界が白くなり、どこに飛ばされるのか分からない中で、何かが俺を優しく包んだ様な気がした。

 窮地に陥っているはずなのに、心は安心しきっていた。

 そして視界が晴れた時、俺の目の前の光景は先程までとは違っていた。

 青く澄み渡った雲一つない空に、若緑色に輝き風になびく草木、色とりどりに咲き誇る美しい花々、そんなものだった。

「……は?」

 俺の口から出た最初の言葉はそれだった。

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