異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第104話 フェルトの姉のようです

 よし、レオンには整体師のスキルをあげることにしよう。ついでにレオンがマッサージしてくれるらしいぞってフェルトに言ってやろう。

「レオン、ちょっと手を貸せ」

「は?なんだよ藪から棒に」

「いいからいいから」

「まぁ手くらいならいいか」

 俺はレオンが出した手を握って、すかさず整体師のスキル継承を始める。

 するとレオンの胸が光り始め、それに気付いたレオンが手を離そうと暴れ始めた。

 ふっ、今更暴れたところでもう遅いのだよ。

 俺は暴れるレオンの手を離すことなく握り続け、スキル継承は終了した。

「よし、これでお前も俺と同じだ。せいぜい頑張れよ」

「てめぇ!今俺に何をした!」

「そのうち分かる。そんな事より、フェルトちょっといいか?」

 俺は次の行動に出た。ここでフェルトを上手く誘導できたら、後は俺が手を加えなくても勝手に進んでいくだろう。

「何かよう?」

「さっきレオンがな、決勝戦を頑張って戦ったフェルトを労ってやる為にマッサージでもしてやろうかなって言ってたぞ。いやー、フェルトは愛されてるなあ」

「それホント!?こうしちゃいられない!」

「さりげなく疲れたからマッサージしてくれない?って言えば喜んでしてくれると思うぞ。もし嫌がったら帝王様を出せばいいぞ」

「分かった!じゃあお姉ちゃんまた後でね!」

 フェルトはウキウキした様子でレオンの元にいき、そのままフェルトの部屋に入っていった。

 フッフッフッ、レオンも俺と同じ地獄を味わうがいい!そうすれば俺の苦労の一片でも感じ取れるだろう!

 俺はレオンを陥れたことになるのだが、なぜだろう、あまり心が痛まないのは。

 まあレオンだしな。あいつも苦労人だろうし、陥れたところで苦労が一つ増えるだけ。そんなの誤差だ誤差。

「フェルトには彼氏ができてたのね……」

 俺がレオンの苦労人っぷりについて考えていた時、フェルトのお姉さんがレオンとフェルトの二人を見てそんな事を言っていた。

「どうもレオンの方はそうは思ってないらしいけどな」

「そうなの?じゃあフェルトが一方的に……」

「だけどそれも時間の問題だろうな。フェルトの押しにレオンが負けると俺は思ってる」

「フェルトは思い立ったらとことん行くからね……」

 そう言ったフェルトのお姉さんの声は羨ましそうでもあり悲しそうでもあった。

 そこで俺はさりげなくその事について聞いてみることにした。

「そういう……えーっと、フェルトのお姉さんでいいのか?」

「そういえばまだ名前言ってなかったね。私はフェイリス。親からはフェイって呼ばれてるから、フェイリスでもフェイでも好きな方で呼んで」

 フェルトのお姉さんの名前はフェイリスか。帝王様はフェラリオンだし、どうもこの家族は最初にフェって付くみたい。

 まぁそんな事はどうでもいいことなんだけど。

「じゃあフェイ。フェイはどうなんだ?」

「私はフェルトみたいに大胆にはいけない。なんせ私は極度の人見知りだったから」

「だったってことは治ったのか?」

「初対面のあんたと普通に話せてるし多分治ってると思う」

「じゃあ、今まではその人見知りで結構苦労してきたとか?」

「うん……。私……自分の姿が好きじゃなくて、周りの目を気にしてたら次第に引きこもりに……」

 引きこもりか……。俺にも経験あるが引きこもってたらきぶんが暗くなるからいかんよな。

「しかし自分の姿ねぇ……。そんなの気にすることないと思うんだが。フェイって割と可愛いし」

「かわ……っ!な、なにいってんのよ馬鹿!」

 褒めてやったのに馬鹿とは……。全く褒めがいのないやつだ。

「そ、そんな事より!私お父さんに会いに行くから!」

「ん?そうか、引き止めてたみたいで悪いな」

 俺が間違って部屋に入った時に着替えていたのも帝王様に会うためだったのかも。

 もしそうだったら帝王様が待ってるだろうし、早く行ってもらった方がいいだろうな。

「べ、別にそんなこと……」

「じゃ、またな」

「え、あ、うん……またね!」

 俺が別れを告げると、フェイは走って帝王様のところへ向かった。

 そのフェイの足はどこか軽やかで嬉しそうな雰囲気であった。

 そんなに帝王様に会うが楽しみなのかね?俺にはよく分からんな。

 そんな疑問を抱えながら皆の元に帰ろうとしたが、しかしその前に確認したいことがあった。

 俺は今居る部屋から一つ隣の部屋の前に移動をする。目の前にはその部屋を隔てる一枚の扉が。

 そして意を決し、その扉に耳を当てる。ついでに聞き耳スキルも発動させておく。

 そう、俺が確認したいこととは、レオンが上手くマッサージをしているかという事だ。俺的にレオンは嫌々ながらもマッサージをやっていると思う。

 そうして聞こえてきた声はこういうものだった。

「い、いいのかほんとに?」

「うん……」

「じゃあいくぞ……」

「あぁっ!」

「ど、どうした!痛かったか!?」

「ううん。気持ちよすぎたの」

「そうか……なら続けるぞ」

「うん……」

 とまあこんなものだ。誤解のないように言っておくがこれはあくまでもマッサージだ。決してあんなことやこんなことをしているわけではない。

 大方、躊躇いつつもマッサージを始めたレオンは力加減分からず、肩を揉んだ時にフェルトが声を上げたことに驚き、それについて尋ねたら、気持ちいいという返事を貰い、安心してマッサージを続けた、という所だろう。

 だけど、まぁなんとも誤解をうみそうな会話だこと。こんなの聞かれたらレオンは帝王様にしばかれるな。バレないようにせいぜい頑張れ。

 俺はちゃんと悪戯の成果が出ていることに満足して皆の元へ戻った。

 部屋に戻った時皆は、未だに腰が抜けていた。どうやらそれ程までに気持ちが良かったようだ。

「だけど、こんなの誰にも見せれないよなぁ」

 今の皆は、蕩けた顔で息が上がっていて、服がはだけてみっともない姿だ。

 こんなにしたのは俺だが、ここまでする気はなかったとは言っておこう。

 さすがにこんな状態の皆と同じ部屋に居ることは出来そうになく、一つ隣の部屋で皆が復活するまで待機することにした。

 ただ待機するだけというのもなんだったので、魔王城で一度やった瞑想をやってみることにした。

 暗く深い闇の底に沈んでいく感覚とでもいうのだろうか……。

 そんな感覚に陥った俺は、前回と同じく深い眠りについてしまったのだった。

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