異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第67話 お母さんのようです

 今俺達は一軒の山小屋の中にいる。そこは木造の建物で、中には囲炉裏があり、そこを取り囲むように座布団がひいてある。

 ここまで言えば分かるだろうが、昔の日本の家屋と同じだ。日本昔話に出てくる家と言えば分かりやすいだろう。

 だがしかし、ここは異世界だ。まさかこんなところで日本の文化に触れることが出来るとは……。じゃなくて!どうしてここに日本の昔の家屋があるんだよ!びっくりだわ!

「さあ、座って下さい。娘を助けてくれた恩人なんですから」

 この人はシロのお母さんだ。家に着くまで虎の姿だったが今は人化して俺達と普通に話せるようになっている。

 というかシロのお母さんってめっちゃ美人なのな。着物も似合ってるし。横にいる女神より美人かもしれん。

 ……ちょっとまて。ウルフと戦ってる時女神居なかった様な気がするんだが。さてはこいつ逃げてたな。

 俺が女神をどうしてやろうかと考えているとシロのお母さんがずいっと顔を近づけてきた。

「どうかしたのですか?」

「い、いえ!何でもないですとも!」

「とも?」

「な、何でもないです!」

「そうですか?」

 なんでこの人はこんなに近寄ってくるんですかね!俺の純情なハートはバクバクいってますよ!

 ………!な、なんだ今の殺気は!横からか!

 横を見るとそこには鬼と化した少女達がいた。

「ひっ!ちょ、ちょっとその殺気おさめてくれない?心臓が違う意味でバクバクいってるんだが?」

「ふーんだ!マスターなんてしーらない!」

「そうね。この人がこうなのは今に始まった事じゃないし」

「でも美しい人に鼻の下をのばすのは少し残念なところです」

「ちょ、ちょっとみんないいすぎだよ……?」

「それこそ今更」

「ニャー!」

「あははは!年下のしかも女の子に馬鹿にされてる!かわいそー!」

 皆は俺を貶しながら、それぞれ座っていく。

「ちょっと?俺なにか悪いことした?あんまり罵倒されると死んじゃうぞ?」

「はいはい分かったから、早く座りなさい」

「最近俺の扱いひどくね?まあいいんだけどさ……」

 俺は不満を感じ得ながら、しぶしぶ座る。

「クスクス。娘はとても素晴らしい方達と巡り会えた様ですね」

「ニャー」

「ええほんとにそうのようですね」

 おお。お母さんなだけあってシロの言葉が通じるのか。

「えっと、あのー……?」

「ああ!そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はこの娘の母です。ビャクと呼んでください。あなた方のことはここに来るまでにこの娘に教えてもらいました。娘を助けて頂きありがとうございました」

「い、いえ!俺達が助けたのはたまたまですよ」

「ふふふ。この娘の言った通りの人ですね」

「ニャン」

「この娘じゃなくてシロって名前で呼んで?いい名前を貰ったようですね」

「ニャ!」

「ふふ、どうしてあなたがそんなに誇らしげなのですか」

 美人と子猫……とても絵になるな!なんかこうほっこりする。

「そういえばさっきなにかを言われようとしていませんでしたか?」

「そうでした。ビャクさんはどうして戦っていた俺達の所に?」

「ウルフが少し騒がしい様だったので様子を見に行ったのです。すると、そこにあなた方がいたと、そういう訳なのです」

「以外にざっくりした説明ですね……。いつもこうやって人を助けたりしているのですか?」

「いえ、助けたりしません。時には私が襲う事もあります。……私は白虎という存在です。私の存在か知られれば欲深い人間に襲われるかも知れませんから」

 ビャクさんは俯いて少し寂しげにしていた。

 人間の欲深さを嘆いているのだろうか?それとも人を殺す罪悪感というものを感じているのだろうか?……なんにせよ悪い事を聞いてしまった。

「すいません。考えが至らずこんなことを聞いてしまって」

「いえ、いいのです。私は人間にも素晴らしい方が居ることは知っていますから」

 ビャクさんは少し懐かしげにそう言った。

「ねぇマスター。わたしお腹すいたー!」

「あたしもさっきの戦闘で結構動いたからお腹空いた」

「いやミルは後半雷飛ばすだけで動いてなくね?」

「動いた」

「いや、だから……」

「動いた」

「動いてな」

「動いた」

「はい。動いてました」

 くっ。押し切られてしまった!いつからこんなに押しが強くなったんだ!

「今から昼御飯を作ろうと思ってたところだったので丁度いいですね。私がついでに作ってきますよ」

「俺も手伝いましょうか?」

「いえいえ。あなた方はお客様ですからそんなことはさせられませんよ。では少し作ってきます」

 ビャクさんはそれだけ言って、食事を作りに向かった。

「ニャー」

「シロ?どうかしたのか?」

「ニャー」

「んー、お母さん美人でしょって?」

「ニャンニャン」

 おお。当たったみたいだ。シロが頷いてる。

「ニャニャ。ニャーン?」

「感想を言えって?まあとても美人だってくらい。あと優しい人なのかなーって思ったな」

「ニャ。ニャンニャー?」

 シロがそこまで言うと、ビャクさんが飛んできた。なんか顔が赤い。ついでにあわあわしてる。

「シ、シロ!なに言ってるんですか!お母さんびっくりしましたよ!」

 なんかすごく焦ってるご様子。さっきシロはなんて言ったんだろうか。

「ニャ。ニャン?」

「確かにそうですけど、それとこれは別です」

「ニャンニャン。ニャー」

「だからそれとこれとは別なんです!それにシロはどうするんですか」

「ニャ?ニャーン」

「どうしてですか?」

「ニャンニャン」

「ペットで十分?ほんとにそれでいいのですか?」

「ニャニャ。ニャーン」

「あなたって子は……。私はその気持ちだけで十分ですよ。あなたはあなたの好きにしていいのですよ。ね?」

「ニャン」

 なんかビャクさん涙ぐんでるし。いい話だったななー!

「あ、あのあるじさま。シロはなんて?」

「完全に分かってるわけじゃないがそれでもいいか?」

「はい!」

「んじゃビャクさんが飛んできたあとからな」

 以外俺のアフレコ付き会話ですよ!なお、俺の貧弱な語彙のせいで感動シーンがぶち壊しになる可能性があります。なんちゃって!

 まぁ冗談はこのぐらいにしといて、訳してみるか。

「ニャ。ニャン?」(でもいい人でしょ?)

「確かにそうですけど、それとこれは別です」

「ニャンニャン。ニャー」(分かってるならいいじゃん。そうなっても)

「だからそれとこれとは別なんです!それにシロはどうするんですか」

「ニャ?ニャーン」(わたし?私はいいよ)

「どうしてですか?」

「ニャンニャン」(私はペットで十分だから)

「ペットで十分?ほんとにそれでいいのですか?」

「ニャニャ。ニャーン」(うんいいの。お母さんが幸せになれるなら)

「あなたって子は……。私はその気持ちだけで十分ですよ。あなたはあなたの好きにしていいのですよ。ね?」

「ニャン」(お母さんがそう言うなら)

 って所か。

 ちなみに今の会話は俺の頭の中で再生されて以心伝心で皆に伝えてる。わざわざ喋らなくていいから便利だ。

「いい親子愛です……グスッ……」

「そうだな……。だが俺には1つ気になる事があってだな。そうなってもってどうなってもなんだ?」

「あなたは1体何を言ってるのかしら?」

「いや、さっきの会話でシロがそうなってもいいじゃん的な事言ってただろ?それってどういういみなのかなって」

「それは付き合うもしくは結婚でしょうね」

「え?そんなわけないだろ。そんな事であんないい話になるとかありえん」

「私にはあなたの思考回路の方がありえないわ」

 ジュリが何か言ってるが俺の耳は都合の悪い事は聞こえない主義なのでね!思考回路がありえないとか聞こえていないのだよ!……はい。聞こえていますね。ごめんなさい。

「ニャ」

 俺がくだらん事を考えていると、シロが俺にすり寄ってきた。

「ん?なんだ?そんなに甘えてきて」

「ニャ」

「そういう気分?よく分からんがそういう事なら頭くらいなら撫でてやるぞ?」

「ニャーン」

 俺はシロの頭を撫でてやった。シロは気持ち良さそうにゴロゴロ言ってる。

「あ!まだ料理の途中でした!」

 そう言ってビャクさんは戻っていった。

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