異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第56話 一騎打ちのようです

 俺とタクマは遂に剣を交えた。お互いに譲れないものがある。それを守るための戦いだ。

 そして、この戦いにおいて戦闘能力が上なのはタクマだ。俺とは比べ物にならない。

 だが、俺にはタクマに無いチートという力がある。

 卑怯だなんだと言われようとも俺はチートの力を振るう。

 思考加速、完全感知、重量操作、そしてステータス増加系スキル。それらを駆使して戦う。

 タクマの動きは思考加速をしてようやく目で終えるレベルだ。そして、完全感知によって絶対に見失う事はない。

 攻撃の際もステータス増加系スキルや、重量操作によって武器の重さを変えようやくタクマと張り合うことが出来る。

「驚いた。さっきは反応出来ていなかったのに今に反応するとは……」

「これでも日本の転生者なんでね。チートなんて当たり前なんだよ」

「そのチートというのは何のことかは分からないが、相当な力になるのか」

「お前チート知らないのかよ……。っと今は戦闘中だったな」

 今度は俺が仕掛ける。俊敏強化系のステータスがあることでタクマと同じ位のスピードで動ける。

 俺はタクマに肉薄し、下から切り上げる。

 しかしタクマは既にその場から居なくなっており、俺の右側に立っている。

 タクマは俺の隙を見て、剣を横に薙いだ。

 それを俺はしゃがみこんで躱し、タクマの足を払う。

 それにかかったタクマは後ろに倒れ始める。俺は好機とばかりに立ち上がり、タクマ目掛けて刀を突き出す。

 タクマはそれを躱すために体を捻った。そして、そのまま地面に手をついて体制を整える。

「俺がこんなに押されるのは久しぶりだ……。お前はこんなにも強かったのか」

「俺、今結構全力出したんだけど、なんでお前はそんなに余裕なんだよ……。なにそれチート?チートなの?」

「だが、押されていても不思議と楽しいと思ってしまう……。心に余裕があるとはこういう事なのか」

「おーい。話聞いてるー?」

「お前との戦いは楽しい!さあ続けよう!」

「俺の声聞こえてないんですね……」

 タクマは興奮していて、戦いを楽しんでいる。この世界に来てから初めてだと言わんばかりの興奮の仕方だ。

 はぁ。俺生きてこの戦闘を終えることが出来るのだろうか。

 今度はタクマが攻撃を仕掛けてくる。

 タクマは空中に飛び上がり、俺の頭上から剣を振りかざす。

 俺はギリギリまで引き付けて体を回転させて躱し、その勢いのままタクマの首めがけて回転斬りをする。

 タクマは体制そのままで俺の後ろに転移をする事で回避し、切り上げを繰り出してきた。

 後ろに転移をしたことを完全感知で知っていた俺は、前に転がって躱そうとした。

 しかし回転斬りの勢いが完全に殺すことが出来ず、回避が遅れ背中を切り裂かれてしまった。

 俺は痛覚遮断により痛みを感じないし、自己再生があるので傷はすぐに治る。

 俺は一旦タクマから距離を取るために転移をする。

「お前は後ろに目でもあるのか?今、俺は完全に死角に入ったはずだぞ?」

「いやそんなこと言われてもな。俺には死角なんてないとしか言いようがない」

 まぁあながち間違ってないし。完全感知があれば常時周りの状態が分かるし。

「お前は面白い。かつてこんなにも興奮した戦いはなかった」

「それは良かったな。だが、俺はこんなにギリギリギリの戦いは楽しくないぞ……」

 せめてタクマの動きを先読み出来たらいいんだが……。

《思考解読を獲得しました》

 これはジュリの持ってるスキル思考解読……!

 これがあればタクマがどこから攻撃をしようとするのか分かる!

「まだまだ行くぞ!」

 俺は思考解読を使用する。

 タクマは首を横一閃したあとに、左肩から袈裟斬りをして、最後に脇腹を突き刺すつもりなのか。

 ……オーバーキルすぎだろ。だが、先にどこを攻撃してくるのか分かった。

 俺はそれを逆手に取って、攻撃を繰り出すことにした。

 タクマは思考を読んだ通りに首めがけて攻撃をしてきた。だが、もうそこに俺の首はない。

 俺は太陽を背にしてタクマの頭上に転移をし、刀の先を下にして自然落下する。

 タクマは俺が消えた事に気付いて横や後ろを確認する。だが俺は頭上にいるので当然見つけることは出来ない。

 そして刀の先がタクマに刺さろうとした時、そこに攻撃が来るのを知ってたかの様に右にずれ、そのまま俺の腹を狙って回し蹴りをしてきた。

 俺は攻撃を仕掛けてくるとは思っていなく、モロに食らってしまった。

 そして、吹っ飛ばされた先は氷の壁だった。

 勢い良くぶつかり、氷の壁は大きな音を立てて割れ、俺の背中に激痛が走る。

 俺は咳き込むのと同時に血を吐き、肋骨が何本かいっていることに気付いた。だが、これくらいはまだ大丈夫だ。

 俺は立ち上がる。

「お前は俺の回し蹴りを食らってもまだ立ち上がるのか」

「分かるだろお前なら。譲れないものは死んでも守り抜くってことが」

「あぁ分かるさ。だからこそお前に敬意を払って戦うことが出来る」

「そりゃどうも」

「その敬意を示して今から全力でいく。それで終わりだ」

「お前今まで全力じゃなかったのかよ……。はは…お前強すぎ」

「お前も強かったぞ。お前のような奴は初めてだった」

 タクマはそう言って剣を構えた。

「俺は"信念を貫く為に"この戦いに勝つ。それが俺が今までしてきたことの証明だ」

 そして、タクマから靄の様なものが立ち始める。

 俺はそれを見て冷や汗が出てきた。

 タクマのその姿は修羅の様な尖ったもので、触れるだけで命が取られるような錯覚に陥ったからだ。

 こいつはかなわないわ……。いつかこいつにリベンジしたいものだ。

「お前との戦いは楽しかった。また戦える時が来るのならその時も全力で相手をしよう」

「奇遇だな。俺もそう思ってたところだったよ」

「ふっ。……では行くぞ!」

 そして俺はタクマの剣を受けた。左肩からの袈裟斬り。それは俺の敗北を告げるものだ。

 痛みはない。だが、身体には相当なダメージが来てるはずだ。後でゆっくり休みたいな。とその前にまだすることがあったな……。

「1つ言い忘れがある。魔王様はお前達を元の世界に戻す為の魔方陣を研究しているところだ。だから魔王に付け。今のお前なら俺の言っていることが本当だと分かるはずだ」

「お前はその為に全力で戦っていたのか。大した信念だ」

「タクマの方こそ信念だけじゃなく、信念を貫けるだけの力を持っているじゃないか。その力を無駄にするなよ……」

「分かってる」

 そして、俺はその場に倒れた。

 タクマに他の勇者達が集まる。

 これで、もうこの戦いは終わりだ。あとはタクマの頑張り次第だ。

「はぁ。疲れたな身体が重い。まぁあんだけ致命傷受けてたらこうなるよな」

 俺が独り言を呟いていると、ジュリが泣きながら走ってこっち来た。

「ジュリなんで泣いてるんだ?」

「だって……!だって私のせいでゼロが死んだのよ……!それに他のみんなもやられてしまった……。頼みの綱だったあなただって負けてしまった……!もうどうすることも出来ないじゃない……!」

「そうか……ゼロは死んでしまったのか……。でも蘇生出来るだろ?それがいいと言うわけじゃないが蘇生出来るならしてくればいい。もう戦いは終わったんだ」

「終わっ…た……?どういう事なの……?」

「とりあえず皆を回復させて、ゼロを蘇生させてこい」

「……分かったわ。でも後で全部聞かせて貰うわよ」

「元よりそのつもりだ。ほら急げ」

「……うん」

 ジュリは死にかけていたミルを優先して回復させた。そして、死んでしまったゼロを蘇生させ、皆を連れて戻って来た。

「皆お疲れ。今回の戦いは辛かっただろう?」

 皆は俯いて黙っている。そりゃそうだよな。言い訳できないくらいに負けたんだから。まぁ俺もなんだが……。

「だが俺達は戦いに負けても、勝負には勝てた。それは皆が他の勇者を足止めしてくれていたからだ」

「それよ……。勝負ってどういうことなの?」

「まぁ一種の賭けの様なものだ。だが、もうそれは俺の勝ちは決定している。今に分かるさ」


◇◆◇◆◇


ーsaid:タクマー

 戦いは終わった。奴は強かった。俺よりもレベルも何もかも下のはずだった。

 でも、奴には誰にも負けない程の信念を持っていた。

 俺を正気に戻し、魔王を護るという誓いまで果たした。

 俺は戦闘能力は高くても、奴の様に強い心は持っていなかった。

 俺が強い心を持てた時、その時にもう一度戦いたい。そう思わせる奴だった。

 俺が思いに耽っていると皆が集まってきた。

「タクマ!やったわね!」

「タクマくん!おめでとう!」

「あとは残ってる幹部を倒すだけですね」

「その事だが、もうそんな事はしなくていい。俺達は魔王に付く」

「何を言ってるのよ!魔王を倒さないと元の世界に戻れないのよ!」

「それだ。俺達はいつから魔王を倒したらと元の世界に戻れると思っていた?初めは倒せば戻れるかも位にしか思っていなかっただろ」

 皆は、はっとしたような表情をした。俺も奴に言われた時、こんな表情をしていたのだろうな。

「それにだ、今魔王は俺達を元の世界に戻す為の魔方陣を研究しているそうだ。むしろ魔王は俺達の味方だ」

「それは誰から聞いたんですか?」

「俺と戦っていた奴からだ」

「それ嘘じゃないの?」

「奴は嘘は言っていない。俺はそう確信している。奴は見ず知らずの俺に信じさせる為に正気に戻し、命を懸けて全力で戦った。嘘を言っていたのならそこまでする必要はない」

「……いつから私達はこんなにも非情になってしまったのでしょうか。簡単に人を殺して、それが普通の様に感じて……。おかしかったのは私達だったのかもしれません」

「……私の戦いの中であの子達は仲間の為に命を張ってた」

「私との戦いでは本当に命を落としてまで守っていたわ……」

「私との戦いでも1人だけ諦めるような事はせず、やられた仲間を戦いそっちのけで心配してましたね……」

「俺達は一体なにを間違えたんだろうな……」

 奴ならなんて言うだろう。間違えたなら次は間違えない様にしろと励ましてくるだろうか。

 それともそんなの知らねぇよとつけ離すだろうか。

 多分前者だろうな。奴は相当なお人好しだ。

 俺は自然に笑みがこぼれた。笑うのはいつぶりだろう。もしかしたらこの世界に来て初めてかもしれない。

「俺は奴の言っていることは本当だと思う。皆はどうだ?戦いの中で何か感じたことがあるはず。それを信じてみるのもいいかもしれない」

「そうね。私も信じるわ」

「私も信じてみる」

「彼らを信じます」

 俺達は奴らの所へ向かった。

「お前が言ったように俺達は魔王に付く事にする」

「そうか。他の勇者を説得できたんだな……」

「それもお前の仲間のおかげだ。感謝する」

「なんてったって俺の仲間だしな。当然だ。それと魔王に今から伝えとくからそれまで待ってろ」

「分かった」

 これで俺達は魔王の仲間ということになった訳だ。


◇◆◇◆◇


「という訳でミルよろしく」

「ん。分かった」

 ミルは魔王様に念話を送り始めた。

「という訳ってどういう訳よ……」

「勇者は私達のおかけだと言っていましたが……」

「そのままの意味だぞ?お前達が戦ったことで勇者達の目が覚めて、正常に戻っただけだし。むしろ今の勇者の方が勇者らしいぞ」

「言ってる意味が分からないわ……」

「俺も分からん。今疲れてるから頭が回ってないのかもしれん。ちょっと休ませてくれ……」

「分かったわ。でも休んだら今度こそ聞かせてもらうわよ」

「はいはい。分かってるよ……」

 そして、俺は眠りに落ちた。

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