異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第28話 貴族が絡んでくるようです

 皆に指輪をプレゼントした翌日の朝。

 俺は宿の一室で非常に困っていた。

 何に困っているのかって?する事がないんだよ。

 とりあえず式典と結婚式が終わったし、ゴブリン討伐でランクアップして、報酬貰ったし。その後も、買い物までして。

 もう王都でする事がないと思うんですよね。そりゃあクエスト受けた方がいいとかもっと遊べとかあると思うが、そんなの今までので充分だと思いません?俺は思います。

 と、言うわけでこの世界に来て初めてちゃんとした暇ができたわけである。

 でもその暇に困ってるんだがな。

「皆はしたいことないのかー?」

「ふにふにー!」

「ゼロ。それはしたいんじゃなくてされたいの間違いだ。よってふにふにはしない」

「えー」

「他のみんなは?」

「私は主様について行くだけです」

「わた……オレもついてく」

「お前達もっと遊んでいいんだぞ?」

「いえ、主様と一緒にいた方が楽しいのです」

「うんうん。レンちゃんの言う通りだな」

「お、おう。そうか。ならいいけどな」

「ミルとジュリは?」

「あたしは日向ぼっこでいい」

「私も今日はゆっくりしておこうと思うわ」

 見てくださいこのパーティメンバー。クエストとか全くする気なんてないんですよ。

 はぁ。どうしたもんか…。

 すると宿の外が少し騒がしくなってきた。

 皆はそれに引かれるように窓から外を見る。

「我が名はルーズ・アルベルトである!アルベルト侯爵家の息子だ!この宿にジュリエット王女様がおられるとの情報が入った!少しお話がしたい!」

 おお。貴族がきた。これはまた面倒が転がってきた予感。

「ジュリ。お前呼ばれてるぞ?」

「ジュリエットなんて人知らない…。私はジュリよ…」

「あぁ…」

 そういえばこいつジュリエットって呼ばれるの嫌ってたな。

「まぁまぁ。お前は王女なんだ短縮で呼ばれる方が稀だろ」

「そうだけど…、でもあなたはジュリって初めから呼んでたじゃない」

「それはお前のフルネームを知らなかったからな。ジュリって聞いたらジュリって言うしかないだろ」

「ぐぬぬ!」

 はっはっは!今回は俺の勝ちだな!

「ジュリエット王女様!そちらがこちらに来られなのならば私が向かいます!」

 マジかよ。嘘だよね?

 待つこと少し。

 コンコンコンッ

「ジュリエット王女様!私自ら参りました!開けてはもらえませんか!」

 えぇ…。嘘だろ…。

「「「「「うわぁ…」」」」」

 ほら!皆も引いちゃってるだろ!

 だが相手は侯爵家。相手をしない訳にはいかないだろうな。

「ほら。ジュリ。開けてやれよ」

「面倒事は嫌なんだけど」

「相手は侯爵家だぞ?さすがに居留守はまずいだろ」

「それもそうよね…」

 ジュリはいやいや戸を開ける。

「ジュリエット王女様。御早うございます。ルーズ・アルベルトと申します。お目にかかれて光栄です」

「それであなたは私に何のようなの?」

「な、なんだここは!?こんな小汚い場所にジュリエット王女様を寝泊まりさせているのか!?おい!そこのお前!」

「私の話聞いてるの?」

 どうやらジュリの話は聞いていないらしい。しかもこの流れ嫌な予感が。

 とりあえず俺はルーズの言葉に返事を返す。

「お前とは誰のことでしょうか?」

「お前は私を舐めているのか!?お前に決まっているだろう!?まぁ、名前を聞いたとしてもお前のような愚民の名など口にしたくはないがな」

「はぁ…。それで私が何でしょう?」

「お前だろ?ジュリエット王女様の結婚相手というのは」

「はい。まぁそうですけど」

 これは真実になってしまったからな。俺の意志とは別にだけど。

「どんな汚い手を使ったんだ!ジュリエット王女様はお前のようなどこの馬の骨ともわからない奴と結婚をするはずがないんだ!」

「と言われましてもジュリの方から結婚を持ちかけられたのですが?」

「ジュリではない!ジュリエット王女様だ!お前ごときが軽々しくあだ名で呼ぶんではない!」

「えぇー…」

 こいつやばいやつです。しかも俺の後ろには殺気立ってる奴が少なくとも5人はいるぞ。

「えっと。ジュリエット王女様から結婚を持ちかけられたのですが?」

「そんなのお前がジュリエット王女様を脅迫でもして、無理矢理そうさせたのだろう?第一、ジュリエット王女様とは私のような者が結婚するべきなのだ」

 あ、こいつ。ジュリの事が好きだったのね。それで結婚した事が信じられなくて俺にちょっかい出してきてるわけなのか。納得したわ。

『マスター?この人消していい?』

『私も同意見でございます』

『あたしも』

『オレもだぞ!』

『私もこいつは生理的に無理だわ。消してくれるといいんだけど』

『お前ら全くといっていいほど容赦ないのな。少しは脳筋を卒業しろよ』

 どうしてこう俺のパーティメンバーは脳筋ばっかりなんでしょうかねぇ。

「ジュリエット王女様。こいつの所なんて今すぐ離れて下さい。脅迫などされていたとしても私が守りますので安心してください」

 うわぁ…。こいつ都合のいいことしか聞かないタイプだ…。一番めんどくさいやつだわ。

『おい、ジュリ。なんか言ってやれよ。お前に話しかけてるんだぞ?』

『はぁ…。分かったわよ』

 ジュリは特大の溜息を吐いて、いやいや話しかける。

「あなた五月蝿い。さっきから聞いていればこの人の悪口ばかり。それに人の話もまともに聞こうとしていないじゃない」

「へっ?」

 おっと?ジュリさん?ちょっとキレてません?

「この人の言う通り結婚は私から持ちかけたわ」

「で、ですがそれはジュリエット王女様が脅されたからであって…」

「黙りなさい。私は脅されたくらいで結婚を受けることなんて絶対にしないわ」

「で、ですが…」

「黙りなさいと言ったはずよ」

「………」

 おぉ…。キレたジュリ怖いな。絶対に怒らせないようにしよう。

『あら?あなたは多分大丈夫だと思うわよ?』

『へっ?なんでだ?』

『ふふふ。な・い・しょ♪』

 今のはなんだったのだろうか。でもまぁ分からないこと考えても仕方ないか。

「それとルーズ。私を守るとか言ったわね?でもこの人はあなた以上に私を"護って"くれるわよ?」

「そ、そんなわけ…」

「ならあなたはアースドラゴンの王をひとりで倒せるの?日常生活で何気ない優しさを見せてくれるの?私の心に安らぎをくれるの?」

 あ、あの。後ろ2つは俺も自信ないんですけど…。

「そ、それはこれからでも…」

「これからじゃ遅いわ。今よ。この人は私と会った時から全て揃っていたわ」

 えぇ。初耳なんですけど。大体結婚する理由って冒険したいからじゃなかったか?

『少しはハッタリを聞かせるものなのよ。この話では常に私が主導権を握ってないといけないしね』

『そういえばジュリは交渉術とかいうスキル持ってたな…。もしかしてそれ使ってんのか』

『察しがいいのね?』

『ふっ。伊達に推理のスキルを持ってないからな』

『まぁ普通に考えれば分かることでしょうけどね』

『えぇー…』

 俺とジュリが念話してる間、ルーズは意気消沈していた。そしてそこにダメ押しをジュリが叩き込む。

「あなた私の事が好きだったのでしょう?」

「………」

「黙秘は肯定と取るわ。私の事が好きだったのに自ら来るのではなく、人を陥れてその地位を奪おうとするあなたには酷く軽蔑するわ」

「……すいませんでした」

「謝って済む問題でもないわよ。この人は今私の夫という立場にいる。そんな人を侮辱したのに謝って済むと思わない事ね」

「ッ!」

 おぉ。確かにそうだな。俺って王女と結婚したから貴族よりくらいが高いのか。忘れてたわ。

『多分あなた今王子よ?』

『うへぇ。ってことは俺が後の国王になるのか?』

『その辺は大丈夫なはずよ。私には兄がいるから』

『ホッ。で、その兄の名前は?』

『………ロミオ』

 ですよねー!なんか分かってました!兄妹でロミオとジュリエットとかすごい偶然だね!

「わた…私はどうすればいいのですか…」

「今回は見逃してあげる。でもただで見逃すわけにはいかないわ。条件はひとつ。決して私達に関わらないこと。それだけよ」

「そ、それは…」

「この条件が呑めないというのであれば、侮辱罪であなたは投獄からの死刑。アルベルト侯爵家は子爵当たりに降格かしら」

「…分かりました。一切関わりません」

「なら今すぐここから立ち去りなさい」

「はい」

 完全に言い負けて出ていくルーズ。

 べ、別にダジャレを言ったわけじゃないからな!負けとルーズの日本語読みの負けを掛けたわけじゃないからな!

「ふぅ。行ったわね…。ああいう相手は疲れるわ…」

「ジュリかっこよかったのー!」

「確かにそうですね。私もすっきりしました」

「ジュリちゃんすごいなぁ…。わたしもああなりたいなぁ」

「グッド…!」

 皆は喜んでるみたいです。俺はジュリがちょっと怖かったけどね!

『あなたには別にしないわよ。安心しなさい』

『あ、はい。どうも』

 俺にはしないようです。ちょっと安心。

 ルーズがどうなったのか確認するために、窓の外を見てみると、泣いていた。

 まぁ簡単に言えば振られたわけだしな。しかも最悪の印象で。お前と同じ立場だったら俺も泣くよ…。

 まぁ、俺はお前みたいな事しないからそんなことにはならんがな。

「それじゃ、話の続きしましょうか?」

「続き?」

「今日何するかって言う話よ」

「忘れてたわ」

 何するかなー。あっそうだ。いいこと思いついた。

 そして俺は皆にその内容を伝えることにした。

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