異世界に転生したので楽しく過ごすようです

十六夜 九十九

第21話 槍ちゃんのようです

 翌朝。

 俺達は冒険者ギルドに行き、ジュリの冒険者登録とパーティ加入を済ませた。

 ジュリの冒険者カードを手に入れた時の表情は、念願のおもちゃを手に入れた子供みたいだった。

 ゼロ曰く、マスターと同じ顔をしていたらしい。

 ……さすがにあそこまでじゃなかったと思います。そう信じたいです。

 さて、俺には今日したいことがある。それは!

「ジュリの冒険者登録とパーティ加入が済んだところで、討伐クエストを受けたいと思います!」

「やったー!」

「なにを討伐するのー?」

「お、よくぞ聞いてくれた。討伐モンスター。その名もゴブリンだ!」

 そう!ゴブリンの討伐である!あの有名なゴブリン!どこの世界でも有害としか言われないゴブリン。もちろんこの世界でもゴブリンは有害判定されている。

「これぞテンプレね!」

「テンプレ言うな!」

「なに?テンプラ?」

「テンプラじゃなくてテンプレ。ジュリしか知らなくていいぞ。お前達にはそのままでいて欲しいからな」

「ん」

 このやり取りですらテンプレと言われるだろう。しかし、テンプレというのは王道。つまり人気で面白いからテンプレと呼ばれるのだ。すなわちテンプレは面白い。

「それで、そのゴブリンはどこにいるのですか?」

「えっと、ここから北西にある湖の反対側だな。増えすぎて困ってるから少し駆除してくださいって書いてある」

「あれ?この時期にゴブリンが増えるってなかなかないんだけど。」

「え?なんで分かんの?」

「伊達に王女やってた訳じゃないのよ。精霊に情報収集はさせてたわ」

 ジュリってなにかと几帳面な所あるよな。人をおちょくるの大好きだけど。

「てことはなにかゴブリンに異常があるってことか?」

「んー。今のところは分からないかなぁ。どうせそこに行くんだしその時に調べればいいんじゃない?」

「そうだな」

「ねぇマスター?」

「ん?どうした?」

「私とレン、普通に人化してるけど大丈夫なの?」

 はっ!確かにそうだ!最近ゼロとレンは人化してる時の方が長いからすっかり忘れてた!

 だが、今気づいた所でもう遅い。ギルドの中にいる奴全員に見られてるだろうしな。

 俺はギルド全体を範囲指定して聞き耳のスキルを発動させる。

「おい見ろよあのパーティ」
「けっ!女ばっかりじゃねぇか!」
「おい!お前よく見ろよ!」
「あぁ?なんだよ」
「あのパーティ子供ばっかりだぞ!」
「おいおい。あの男はロリコンだってのかよ!あんなにイケメンで明らかにモテそうなのにロリコンなのかよ!」
「ああ、そうだろうな。だって4人中4人がロリっ子だからな」
「マジかよ…」

 ははは。俺の人生終わった。もう生きるの辛いよ…。

「マスターどうしたの?お腹でもいたい?」

 あぁ、ゼロは優しいなぁ。でも今はやめて。心の傷が致命傷になる。

『あなた周りからロリコンって言われてるわ』

『お前気付いてたのかよ』

『そりゃ気付くわよ。ギルド内は全部あなたの話題でもちきりよ』

『マジかよ…。俺死にたいんだけど』

『そんなのダメよ!あなたが死んだら私が旅に出られないじゃない!』

 こいつは俺の事なんかどうでもいいらしい。まぁいいんだが。

「ゴブリン行かないの?」

「……そうだったな。そろそろ行くか」

「ん」

「よし。じゃあ皆ゴブリン討伐いくぞー」

「はーい」「はい」「ん」「わーい!」

 ひとりだけとても喜んでます。こんなんで大丈夫なのだろうか。

 俺達は街の外に出て、北西の湖を目指す。

 湖までは歩いて2日ほどかかる。

 ゴブリン討伐を1日で済ませる計算をしたら、王都に戻るまで5日経ってしまう。これじゃ式典と結婚式に間に合わない。

 しかしここで俺のスキルが役に立つ。まず俺が千里眼で遠くを見る。そしてそれを以心伝心でゼロに伝える。するとゼロは見えていればそこに転移出来るので転移してもらう。

 これをすれば2日かかる距離が1時間とかからない。スキル様々だ。

 ちなみに転移の時は転移する人に触れてれば一緒に転移できるので、皆でゼロの肩に手を置いておく。

「よし、それじゃ移動開始するぞー。ゼロよろしくな」

「うん!まかせて!」

 よし、じゃ千里眼!おお。見える見える。じゃあとは以心伝心を使ってと。

 …おっ。飛んだ。

「……あれ?ひとりいないけど」

「えっ?………。ジュリがいないな。あいつ何やってんだ」

 千里眼!……ジュリ泣いてるよ。確かに一瞬でいなくなったらそうなるわな。

「ゼロ一回ジュリの所に戻るぞ」

「はーい」

 さっきと同じ要領でジュリの所に戻る。

「みんな~!おいでがれだどおもっだ~~!」

 ジュリの号泣である。まぁこいつ冒険を楽しみにしてたからな。初めての冒険に置いてかれたらそうなるかもしれないな。………俺はならないぞ?

「お前なんで置いてかれてんの?」

「ぐすっ……背中かゆかった……」

 要するに、背中が痒くて掻こうと思ったけど、空いてる手と反対側の方が痒くて届かないから手を入れ替えてたら、ちょうど手が離れてる時に転移したから自分だけ置いてかれたと。

『うん…そういうこと…』

《推理を獲得しました》

 推理なんてどこで使うんだよ!意味の無いスキル多くないですか!?

「よし。じゃあ今度こそいくぞ。ジュリ大丈夫か?」

「うん。大丈夫」

「よし、じゃあいくぞ」

 ………。今度は全員が転移できたな。この調子で湖まで行くか。

「じゃ、この調子でいくぞー」

 俺達はどんどん転移を繰り返していく。

 何回目だったのかは分からないが、湖に無事に到着できた。

「よし、湖に着いた。これからゴブリンのいる所に行くわけだが……」

「ぶっ殺せばいいのね!」

「お前支援魔法の使い手だろ!なんだその脳筋な考えわ!」

「乙女に脳筋なんてひどい人!」

 こいつが乙女かはさておき、話が進まない。

「いいか!ゴブリン討伐は俺達パーティの初めてのクエストだ。今回は連携していくからな?特にジュリ。勝手に魔法ぶっぱなすなよ!」

「はっ!思考が!?」

「お前マジでやろうとしてたのかよ!」

「てへぺろ!」

 くっ、こいつ!どこぞの女神よりタチ悪いぞ!

「マスター。わたしとレンは人化したままで戦うの?」

「ん?そうだな。その方がいいだろう」

「ですが、主様の武器が無くなります」

「あぁ、それなら安心しろ。槍がある」

 俺はマジックボックスの中から転送された時から入っている槍を取り出す。

 この槍、ただの鋼の槍である。もし俺がマジックシャーピングで研いでしまったらレンのような奴が出てくるのだろう。ロリっ子になったら嫌だからそんなこともうしない。

「主様それは?」

「ずっと持ってたんだ。それがどうかしたか?」

「あ、その槍なんか喋ってる」

「お前何言ってんだ?」

「なんか対話が発動したみたいなんだけど、それ生き物?」

「えっ?これ生き物なの?」

「えっと?『ようやく暗かった所から出られた!私を使ってくれるのかな?』だって」

「マジかよ。マジックボックスの中って暗いのな」

「そこ!?」

「冗談だよ」

 この槍とりあえず生き物に認定されてるらしいけど俺には聞こえないんだよな。

《対話を獲得しました》

およ。対話獲得しちゃった。これで槍の話も聴けるな。

『えっと?槍ちゃん?』

『!?な、なんだお前!?オレと話せるのか!?』

『?さっき聞いたのと口調が違うな…』

『何言ってんのよ。照れ隠しよ。てれかくし』

『そうなのか?』

『ち、ちがわい!』

『あ、素が出た。素の方がいいのに』

『~〜〜!』

『あら照れちゃって可愛い』

 俺にはよく分からない。だって見た目ただの槍だもん。

『それで?なんで槍ちゃんには意識があるんだ?』

『オレと一緒にいた剣も意識あったけど…』

『マジかよ。初めて知ったわ。…あ!だから俺がレンを研いだこと知ってたのか!』

『レン?誰だ?』

『あ、槍ちゃんが言ってた剣の名前』

『えっ!あの子名前貰ったの!!』

 また素が出てる。素の方が可愛いけどな。

『はい。主様から名前貰いました』

『あっ!前の剣だ!元気だった?』

 俺は何気に対話で話してる中にレンが入ってきたことに驚きです。でもレンは武器だからな。槍ちゃんと話せるのも当然かもな。

 それと、レンの前だと素が出るんだね。まぁいいけど。

『レンと話してるとこ悪いんだけど、ちょっといいか?』

『ん?オレになにか用?』

『……今からゴブリン討伐に行くんだが、武器として使っていいよな?』

『どんどん使ってくれ!そしてマジックシャーピングって奴でオレも研いでくれ!』

 あっ。フラグ建ててたんですね俺。しっかり回収してるじゃないですか。まぁこんなに話したんだ。研いでやるか。

『分かった。研いでやる。だが研ぐのはゴブリン討伐した後だからな』

『よし!研いでもらえるならゴブリンでも何でも突き刺してやる!』

『頑張ってくれよ』

『おう!』

 こうしてゴブリン討伐を始めるのであった。

 ……ちなみに会話に参加出来なかったゼロとミルはふたりで楽しそうに湖の魚を捕まえて、焼いて食べてました。うらやましかったです。



昨日Twitterのアカウントを作りました!@izayoitsukumoで検索すれば出てくるかと思います!ニックネームは十六夜 九十九です!
Twitterの方では近況報告を主として、偶にちょっとした主人公達の掛け合いを書きたいと思ってます。

では次回の「異世界に転生したので楽しく過ごすようです」で会えることを願っています。

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