結末のわからない恋の物語

出雲沙之介

ちゅーしたいなー

手作りのプレゼントを完成させ、ふと時計を見るとそろそろ里香ちゃんの仕事が終わる頃かなという時間になっていました。

明日は会えるかなー

プレゼント作りに没頭していたとはいえ、告白しあってから3日も会えなかったのは初めてなので、なんとなくの寂しさから里香ちゃんにLINEしてみました。

『さすがに3日目ともなるとちょっとキツイです(´Д` )』

万が一旦那さんの目に触れる可能性を考えて、ある程度意図が伝わりそうな、それでいて如何様にも取れる文を考えて送りました。

これまで業務連絡的な文章を装った内容しかやりとりしていなかったので、この程度のものでも送ろうかどうかしばらく迷いました。

まだ恋仲らしいことは何も…

二人きりの車の中で抱き合ってはいましたが、あの空気の中でキスしなかっただけかなり我慢したことから、ここは“何も”と言わせてください。

まだ恋仲らしいことは何もしていない私たちですが、互いの気持ちはハッキリ伝え合っているので、やはり罪悪感はあります。

罪悪感…かなぁ?

保身の気持ちかもしれません。

とにかく、イケナイことをしている自覚はあるので、かなり慎重になっていると思います。



少し間が空いてから。

『明日会えますね♡』

と、お返事。

おぅ、ハートマーク…

えっと…里香ちゃんの方は、あまりそういうことを考えていない様子でした。

まぁ、いっか

私も本心では

『そうだね♡はやく里香ちゃんの顔が見たいよー』

なんて返したい気持ちでいっぱいです。

ですが、そう返信したいのを、グッと堪えて

『はい、楽しみにしています(^o^)』

と、普通のカップルのやりとりだったらサメザメするような返事を返すと

『私も楽しみですヽ(*^ω^*)ノ』

と、里香ちゃんからまた返事が来ました。

里香ちゃんの気持ちがすごく伝わってきます。

いや、実際かなり好いてもらっているのだろうなぁと感じる文章や顔文字の使い方だと思います。

それでも愛され慣れていない私は、そうやって気を使ってくれているのかなと考えてしまいます。

気を遣わせているのではないかという申し訳なさと、

本当に好きでそうしてくれているかもしれないことを、気を使ってしてくれていると考えてしまう申し訳なさとがぐるぐる回り

本当はどうなんだろう?

里香ちゃんは、本当に私を好きでいてくれているのか?本当は罰ゲーム的な何かじゃなかったりするのかな?

なんて事まで発展するのにそう時間はかかりません。

そして、万が一本当に心から好きだと思ってくれていたとしても、こういう冷めた返事とかしてたら、いつか離れていってしまうのかなぁと、思ってしまいます。

それはやっぱり寂しいな。

でも、二人の関係を考えたら、その方がいいのかな。

そんなことを考えながら、とりあえず今日のLINEはここで終了です。

長々とやりとりする癖をつけてしまうと危険なので、サクッと終わらせます。

里香ちゃんは、そんな私の行動をどうおもうのかな。

私が被害妄想的に考えたことと、同じような事を考えさせてしまっているんじゃないかな。

そんなことを考えていましたが



しかし、その晩…



娘二人の我が家は、女性陣が先にお風呂に入り、私は最後に入ります。

私が、熱いお風呂が苦手なのもありますが。

なので、私は休みの日でも遅めの入浴になります。

お風呂から上がると、娘たちはもう子供部屋へ入っていて、妻が一人リビングで寛いでいます。

テーブルに置いてある自分のスマホを手にして…

「!!?」

めっちゃ焦りました!!

里香ちゃんからのLINEが入っていたのですが

その内容は短く一言

『ちゅうしたいな』

もしこれが妻の目に触れていたら…

ここに来てようやく罪悪感というか背徳感というか、ダメなことをしている自覚がリアルに湧いて来ました。

とりあえず無難そうなスタンプを選んで返信。

私の意図をどう解釈したかはわかりませんが

『飲みすぎて酔っちゃってて 
てんちょーさんの事いつも想ってて 
LINEしちゃった  
ごめんね』

と、どうやら酔った勢いでのことだったそうでした。

しかしこれは…

ダメです

ほんと、ダメダメ

普段の里香ちゃんの可愛らしい姿から、そんなセリフを想像しただけで…

あの告白しあった車の中の映像がフラッシュバックして、里香ちゃんの濡れた瞳と物欲しそうな唇を思い出し…

感触までわかるようなリアルな妄想が湧いてしまい

今まで堪えて来たことが、まるで音を立てて崩れるかのように、堪えられる自信がなくなっていくのがわかります。


少し間を空け、頭をクールにし、里香ちゃんを傷付けず且つ誰の目に触れても無難な文章を必死で考えました。

幸い、彼女から『店長さん』と目上的な呼ばれ方をしているので、子供を窘める大人目線での返事をしました。

『大丈夫ですよ(^.^)
なんだか可愛らしい様子が伺えて、眠気が吹き飛びました。ありがとう。
ではまた、バイバイ(^^)/』

その後、里香ちゃんからの返事はありませんでした。

子供扱いされて、相手にされていないと感じてしまったとでしょうか…

いろんな妄想でいっぱいの夜でしたが

里香ちゃんへのプレゼントとして作ったブレスレットと、『ちゅーしたいなー』という文字を眺めながら、今夜も寝付けそうにないなーと、一人ニヤケるのでした。

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