結末のわからない恋の物語

出雲沙之介

お誕生日は手作りで

翌朝

里香ちゃんの車を見つけ、半分いたずら心で隣に止めてみました。

車が隣に並んでいるだけなのに、まるで里香ちゃんと隣同士でいるような気がして嬉しくなります。

車を降りて、2つ並ぶ車を見て思わずニヤケ……え!?

ニヤケ面が思わず凍りつきました。

我が目を疑い、よく目を凝らして見ても、やっぱり見間違いではなく…

私は慌てて店内へと駆け込みました。

開店前の店頭で里香ちゃんを見つけましたが、声をかけられるタイミングがなく、しばらくモヤモヤしてました。

夕方までモヤモヤモヤモヤし続け、里香ちゃんの帰る時間を見計らって店頭にでたら、ちょうど里香ちゃんが帰ろうとしていたところでした。

里香ちゃんはわざわざ『kururi』の前を通って行きます。

私に直接「お疲れ様」を言うためだとわかっていると、ニヤケてしまいますが、今日はそれどころじゃありません。

「お疲れ様でした。お先に…」

「里香ちゃんお疲れ!!ねぇ、里香ちゃんの誕生日って来月?」

思わず里香ちゃんの挨拶を遮ってしまいました。

それほど私は慌てていました。

今朝見た“もの”を確認しなくては!!

頭の中はそれでいっぱいです。

「違いますよ?」



おや?



「私、今月です」

にっこり笑うと、里香ちゃんは「お先に失礼しまーす」と笑顔で帰って行きました。

予想と違う答えに、ちょっとボーッとしてしまいました。

実は、今朝見た里香ちゃんの車のナンバーが

私の妻の誕生日と同じだったのです。

もうね、鳥肌立ちましたよ(笑)

誕生日同じだったらびっくりじゃないですか!!

けど、違いました。

そうかぁ、今月かぁー

て、え!?今月!?

今日は2日です。

後半ならいいけど、明後日とかだったらどうしよう…

いかん!!早く日にちを聞き出さないと!!

私の頭は高速回転で里香ちゃんのバースデープレゼントを考えていました。

そして、里香ちゃんの誕生日を聞き出すために、明日の朝駐車場で待ち伏せようと思いました。

そんなことしなくても、LINEで聞けばいいのですが、間違いなく仲睦まじい会話が展開してしまうと思うのです。

もしそれが里香ちゃんのご主人の目に留まったら…

ね、色々気を付けなきゃいけないんですよ。

だから、ストーカーみたいと言われようと、最も会話のチャンスのある朝の駐車場で待ち伏せることにしました。

そして、里香ちゃんが帰ってしばらくして、昨日の『ネグる』の効果を今日確認するのを忘れていたことを思い出しました。

しまったーとも思いましたが、思い返してみると結構『好き好きアピール』が多かった気がします。

『好き好きアピール』とは、私と里香ちゃんの目があった時に展開される、小さく手を振ったり、同じ方向に首を傾げたりする、『好きだよ』の言葉の代わりに交わし合うジェスチャーです。

お互いにそうだと確認しあったわけではないのですが、そのジェスチャーをしあっているときに感じる幸せな気持ちは、互いに好きだと想い、感じあっているからだと、私は思っています。



で、そのまた翌朝

いつもより10分早く駐車場に着きました。

ちょうど里香ちゃんも駐車場に着いたばかりのようで、車の中にまだいました。

里香ちゃんが出るのとタイミングを合わせて出ようと、荷物を用意し、携帯を見るフリをして里香ちゃんの動きを探っていました。

彼女の位置からは、おそらく私は確認できていないと思います。

この時点でかなりストーカーですが気にしたら負け。

しばらくして里香ちゃんが車を降りたので、私も同時に車を降りて、里香ちゃんの方へと歩み寄ります。

「おはよう、里香ちゃん」

「あ、店長さんおはようございます」

いつも通り可愛い笑顔で挨拶してくれる里香ちゃんです。

「あ、店長さんもしかして奥さんの誕生日来月ですか?」

私が聞くよりも早く、里香ちゃんの方からの思わぬ質問にドキンとしました。

なぜそこまで絞り込める!?

どうしようかと思いましたが、嘘を言っても仕方がないので「そうだよ」と答えました。

「昨日の…あれ、私のナンバープレートですよね?」

「うん、誕生日かなーって思った」

「店長さんのタイムラインに、奥さんの誕生日会の事が書いてあったから、もしかしてそれが奥さんの誕生日なのかなーって」

どうも昨日のやりとりで、里香ちゃんも察していたようです。

で、私がタイムラインに去年の妻の誕生会の事を載せていたのを見たそうで、昨日の私の言ったこととそれがピーンと繋がったとのことでした。

「私のナンバーは意味ないですよ(笑)偶然あのナンバーなんです」

「へぇ」

偶然て恐ろしい

こんなことってあるんだねー

なんてことを話していたらあっという間に従業員用の入口へ。

そりゃあそうだ。高校生が駅から学校まで歩くような、何十分もかかる道のりじゃないんだから。

とにかく、今日の目的を果たさねば!!

「里香ちゃん、誕生日今月なんだよね?何日?」

「10日ですよ。フフフッ」

その『フフフッ』に、「店長さん、お誕生日祝ってくれるんですか?」という淡い期待の心を垣間見れたような気がしました。

まぁ、好きだとお互い告白しあって間も無く、誕生日を聞けばそれは当然ですよね。

ええ、もちろんですとも!!

そして私には誕生日を祝うに当たって、一つ拘りがありました。

それは『手作り』

プレゼントを手作りすることはもちろん多いですが、たとえば手作り感溢れるパーティーだったりとか、ケーキを手作りしたりとか、なにかしら手作りします。

私的にはどんな高価なプレゼントよりも、気持ちがこもっていると思っているからです。

もちろん、お金で買ったプレゼントに心がこもっていないとはいいません。

相手のことを考えて、『これを贈ってあげたい』という想いがあれば、それは気持ちのこもったプレゼントでしょう。

中には、プレゼントの値段で気持ちを測る人もいるかもしれませんが…

何より

どこからどう見てもお金なんか持っていなさそうな、小遣制丸出しの私なんかを『好き』だといってくれる里香ちゃんが、プレゼントの値段なんか気にするわけがない!!

これだけは確信をもてるので、手作りプレゼントを渡したいと思います。

ちなみに構想は出来ています。

ずいぶん前から、私は自作のブレスレットに嵌っていまして、もう10ほど製作実績があります。

10って少なくない?

と、感じるのが普通だと思います。

しかし、これは物凄くタイムコストがかかる品物でして

小枝を1cmほどにカットし、ラグビーボール型のウッドビーズに紙やすりで削っていきます。

1つのブレスレットにだいたい7〜13個ほど。

個数はサイズや仕様によって変わります。

ウッドビーズだけで作ればそれだけ数がいりますが、プラスチックビーズや天然石で装飾すれば、ウッドビーズも少なく済みますし見た目も可愛いのができます。

里香ちゃんの手首は女性でも細い方なので、今回のタイムコストは少なく済むでしょう。

とはいえ、あとたったの1週間しかありません。

私は、この日の帰りにショッピングモール内の植木から、程よいサイズの小枝を探して持ち帰りました。

素材は何でもいいのですが、今回は『私と里香ちゃんが出逢ったショッピングモールの樹』という意味を込めてみました。

幸い、今週は公休日の他にもう1日休みをいただいていて明後日から連休です。

里香ちゃんとは『会えなくて寂しいね』なんて言ってましたが、ごめんね里香ちゃん、私にはラッキーでしたよ。



翌日、里香ちゃんは休みでした。

別に風邪とかじゃないです。

元々休みでした。

おお、これは3日も会えないのか…

さすがにちょっと寂しいぞ。

そんな想いを吹き飛ばすように、さらにその翌日からの2連休、私は製作に打ち込みました。

小枝を1cmにカットします。

直径も1cm程度なので、1つ1つのカットは造作もないことなんですが、これが10を超えてくると意外としんどいのです。

しかも今回、お揃いのデザインで自分のも作ろうと思っているので、20以上カットしました。

次に、テグスを通すための穴あけですが、これは慣れれば簡単です。時間もそんなにかかりません。

大変なのはこのあと。

紙やすりで削っていくのですが、まずは粗目で皮を落とし角を削り、大雑把な形を作ります。

これを、自分の分を後回しにして、里香ちゃんのプレゼント用にとりあえず10個。

多分余りますが、何分にも手作業なので、仕上がってからの良し悪しや大きさの均一具合から多少の選別が必要になります。

なので、いつも必要量より数個多めで作ります。

荒削りが終わったら、中目で形を整え表面のザラつきを滑らかにします。

それももちろん10個

そして、細目でより滑らかに仕上げていきます。

こうしてウッドビーズが完成。

続いて、プラスチックビーズのケースから、今回のイメージに合うパーツを探します。

正直言って、これは女の子のおもちゃ箱をアラフォーのおっさんがあさりながら、アクセサリーを作っているような気持ち悪さがあるので、リアルに想像しないことをお勧めします。

そして試作としての仕上げに、あらかじめ調べて用意しておいた里香ちゃんの誕生石の天然石を着けて、サイズ感を確かめます。

ウッドビーズの数を調整し、細い里香ちゃんの手首に合うようにします。

うん、いい感じだと思う。

一人でニンマリしたら、次の行程に移ります。

ウッドビーズの塗装です。

いつもは、透明ニスで素材の模様を出すのですが、今回は里香ちゃんのイメージに合わせた淡いパステルカラーの塗装を施します。

小さなウッドビーズに竹串を刺して、プラモデル用の小さなハケで丁寧に塗ります。

2度塗りして仕上げたら、穴の空いた箱に竹串ごと立てて乾燥。

手で触っても問題ないことを確認したら、最初にイメージしたようにパーツを組んで完成!!

いやはや、たった二日で仕上げたのは初めてでした。

やってみるとわかりますが、紙やすりで1cm程度の木材削るのって、けっこうしんどいです。

肩がうまく回りません。四十肩になりそうです。

また次郎の所に行かなくてはいけませんね(笑)

しかしこういうのも、好きな人のためだと、頑張ったぜ俺!!感が増していいですね。

手作りプレゼントの醍醐味、体の疲労感が込めた想いを具体的に感じさせてくれること…かな

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