クリフエッジシリーズ第四部:「激闘! ラスール軍港」

愛山雄町

第四話

 宇宙歴SE四五一八年十二月十五日。

 デューク・オブ・エジンバラ5号はキャメロット星系に帰還した。
 クリフォード・コリングウッド中佐はこの一月半の航宙を思い返している。

(初めての航宙だったが、酷いものだった。いや、航宙自体は全く問題なかった。しかし、戦闘訓練に関しては合格点にはほど遠い……)

 十月三十日にキャメロット星系の軍事衛星アロンダイトを出港し、隣のアテナ星系に向かった。通常空間の航行は王太子専用艦ということで優先的に航路を選択できたため問題なく、ジャンプポイントJPに到着した。

 その後の超空間航行も問題は起こりようがなく、四日間という時間を使い、彼は今後の計画について王太子の秘書官セオドール・パレンバーグらと協議を行った。
 クリフォードの能力に疑問を持っているのか、パレンバーグは協力的な姿勢はあまり見せなかったが、アテナ星系での慰問は定例的なものであり、特に問題なく行事を終えている。

 問題はターマガント星系での新設拠点の視察だった。
 ターマガント星系は数ヶ月前まで敵国ゾンファ共和国との緩衝宙域であったことから、ゾンファの戦闘艦がいつ現れてもおかしくない星系だ。ゾンファの前線基地であるジュンツェン星系とはハイフォン星系を挟んでおり、一足飛びに敵艦が現れることはないが、超空間航行FTL能力が高い艦船であれば、別の星系を経由して侵入することが可能なのだ。

 そもそもパレンバーグはターマガント星系訪問に反対しており、更に王太子を建設中の軍事拠点に残したまま、訓練を行うという軍の方針に反発していた。
 クリフォード自身、内心ではパレンバーグの意見に同意するものの、正式に出された軍の命令に対し、異議を唱えることができず、板ばさみの状態になった。

 それだけならば問題はなかったのだが、DOE5と三隻の駆逐艦との連携訓練では計画外の機動を行うだけで隊列が乱れ、僅か四隻しかいない戦隊であるにも関わらず、連携というにはあまりにお粗末な結果を晒していた。

 更に儀仗兵を兼ねる宙兵隊についても、小惑星帯での強襲訓練で十名近い負傷者を出すなど醜態を晒していた。
 そのため、ターマガント星系で防衛や建設に従事する軍関係者から、「パレード以外はできない部隊」と嘲笑を受けていた。
 また、パレンバーグからも「貴官の指揮ではキャメロット星系から出ることは危険すぎる」とまで言われ、クリフォードは返す言葉がなかった。

(シレイピスのコベット艦長はさすがにベテランというべき指揮を見せてくれたが、シャークのラブレース艦長、スウィフトのカルペッパー艦長は改善すべき点が多すぎる。それ以上に問題なのは宙兵隊だな……)

 戦隊の連携訓練において、シレイピス545の艦長シャーリーン・コベット少佐はクリフォードの要求に対し、ほぼ完璧に応えていた。
 しかし、シャーク123の艦長イライザ・ラブレース少佐は自身が計画したにも関わらず、独断専行が目立ち、戦隊の統一を乱した。
 一方、スウィフト276の艦長ヘレン・カルペッパー少佐は消極的な行動が目立ち、クリフォードの指示があるまで独自の行動に出ないという欠点を晒している。

(個性といえばそうなのかもしれないが、この状況は良くない。特にコベット艦長とラブレース艦長の確執を何とかしなければ、突発時にラブレース艦長が暴走しないとも限らない。カルペッパー艦長も問題だが、少なくとも私の命令には忠実に従う分、問題は少ないだろう……いずれにしても殿下が下艦されたら訓練漬けだな……)

 そして、宙兵隊についても対応を考えていく。

(ロセスベイの宙兵隊はどうすべきだろうか。確かに戦闘の可能性は少ないとはいえ、不測の事態に対応できないのでは護衛としての意味がない。アルビオン国内だけなら問題はないが、殿下はヤシマに駐留している艦隊の慰問に前向きだ。そうなれば、まだ同盟関係にない国に殿下をお連れしなければならない。やはり、ここはマクレーン殿に任せるしかないか……)

 侍従武官であるレオナルド・マクレーンは元宙兵隊大佐で、現状でも少将待遇だ。能力、階級共に申し分ないのだが、侍従武官はあくまで王太子の個人的な護衛であり、宙兵隊の指揮権を持っているとは言い難い。もちろん、有事の際は侍従武官が戦隊を含め、指揮を執ることは可能だが、あくまで緊急避難的な措置に過ぎない。

(マクレーン殿が受けてくれるかという問題が一番だな。あの方が指揮命令系を混乱させるようなことをよしとされるとは思えない……だとすれば、パターソン大尉に臨時の教官になってもらうかしかないが、それも混乱を招くな……)

 アルバート・パターソン大尉はDOE5の宙兵隊指揮官で、クリフォードが見る限り、有能な宙兵隊員だ。指揮官としての能力も高く、教官としても申し分ないのだが、ロセスベイの宙兵隊指揮官、リチャードソンは少佐であり、彼の指揮下には三人の大尉が中隊長として指揮を執っている。その三人の大尉がいずれもパターソンより先任であり、その点が問題視される可能性があった。

(とはいえ、今の状況を放置するわけにはいかない。宙兵隊の中佐の階級をもつ私が矢面に立ってでも進めるべきだろう……)

 彼はそう腹を括ると、王太子の部屋に向かった。

 王太子は秘書官パレンバーグと侍従武官マクレーンと話をしていた。

「今後の予定について最終的な確認に参りました」

 クリフォードがそう言って切り出すと、パレンバーグが「それは私に問合せれば済む話ではないのか」と不機嫌そうに答える。

「もちろん、理解しております。ですが、今後の予定に合わせて、我が戦隊の訓練計画について説明をするつもりで参りました」

「戦隊の責任は艦長にあるはずだ。一々、殿下に説明する必要があるのかね」

 再びパレンバーグが噛み付くと、王太子が宥めるように間に入った。

「いいじゃないか、テディ。私もクリフの話を聞いてみたいしね」

 その言葉にクリフォードは「ありがとうございます」と礼を言い、本題に入っていく。

「殿下のご予定では新年の行事で第三惑星ランスロット第四惑星ガウェインを往復するだけと聞いております。年明けは一月いっぱい、ランスロットでお過ごしになると。それでよろしかったでしょうか」

「現状ではその予定で間違いない。そうだな、テディ?」

「その通りです」

 パレンバーグが首肯したことを確認し、クリフォードは戦隊の現状と訓練方針について説明を始めた。

「ターマガントでの演習は酷いものでした。現状では殿下の護衛部隊としては不十分であると判断しております。その上で各艦の連携を取るためにキャメロット星系内で戦闘訓練を行います。更に宙兵隊についても最低数の護衛の他はすべて訓練に回すつもりです……」

 クリフォードの説明を聞き、王太子は「テディ、レオ、問題はあるかな?」と二人の側近に確認する。その問いにマクレーンが即座に答える。

「ランスロットであれば、宙兵隊は不要ですな。我々と王室警備隊で充分でしょう」

 更にパレンバーグも「新年行事以外は大きな行事はございません」と答え、間接的に問題ないことを示唆する。

「問題ないようだよ、クリフ。あとは君のやりたいようにしたまえ」

 王太子の言葉に「ありがとうございます」と答える。
 クリフォードは王太子の部屋を後にすると、すぐに各艦長と宙兵隊指揮官を招集した。


 それから年末までの十五日間は休む間もなく訓練に明け暮れた。
 戦隊の下級士官や下士官兵たちは想像以上に厳しい訓練に音を上げる。特に厳しい訓練を課された宙兵隊の兵たちはクリフォードのことを憎むほどだった。
 宙兵隊の食堂兼兵員室メスデッキでは休憩時間に不平を漏らす声が上がっていた。

「俺たちは王太子殿下の護衛なんだ。なんで武装商船の襲撃訓練なんかやらなきゃならないんだ!」

「偉そうに指揮官面しやがって! クリフエッジの野郎は宙軍士官なんだ。宙兵隊のやることに口を出すなっていうんだ!」

 そんな怨嗟の声が上がるのは、彼が宙兵隊中佐として指揮を執り、その補佐にDOE5の宙兵隊長パターソン大尉を任命したからだ。

 DOE5の艦長は王太子の護衛である宙兵隊一個大隊を指揮下に持つことから、宙兵隊中佐の階級が一時的に付与される。これは戦隊全体の指揮権がDOE5艦長にあることを意味する儀礼的なものだが、指揮命令系としては明文化された正式なものだ。
 このため、クリフォードが宙兵隊の指揮官として訓練を監督することは何ら問題ないのだが、今までは単に名誉職的な位置付けで、大隊長に指揮を一任されていたに過ぎない。

 その慣例を破ったことも宙兵たちの不満の原因の一つだ。厳しい訓練を課せられた上、指揮を執っているのがロセスベイの士官ではなく、DOE5の士官であることが不満だった。
 普段は上官の悪口を平気で言う兵士たちも、自分たちの上官が無能だと言わんばかりの対応に、隊全体が軽く見られていると憤っていたのだ。

 クリフォードの耳にも従卒であるヒューイ・モリス兵長を通じて、その声は届いていた。
 艦長室で書類の整理をしている時、モリスがコーヒーを用意しながら、さりげなく話しかける。

「宙兵たちが不満を持っているようですね。特にロセスベイの下士官たちが」

 クリフォードは書類から目を話すことなく、それに答えていく。

「そのようだな。ブラスターライフルがいつ私に向くのかと思うほどだったよ」

「あまり無理はなさらないことです」とモリスが呟くと、クリフォードはゆっくりと顔を上げ、従卒の顔を見上げる。

「心配してくれてうれしいよ。しかし、手を抜くことはできない。殿下の安全、すなわち、王国の未来が掛かっているのでね」

 彼はそれだけ言うと、再び書類に集中し始めた。
 その言葉はモリスを通じて戦隊の下士官兵たちに伝わっていく。しかし、クリフォードの考えを支持する者はほとんどいなかった。


 あと二日でSE四五一八年が終わる十二月三十日になり、計画していた訓練が全て終わった。しかし、厳しい訓練とはいえ、僅か半月では大した成果は上がらず、クリフォードは訓練の終了時に以下のように叱咤した。

「これより二日間は上陸を許可する。しかし、一月一日から三日までの任務の後は再び訓練を行う。一月一杯は上陸の許可は出さないつもりだ。今日明日の休暇を有効に使うように。以上!」

 その言葉に各艦でブーイングが起きる。士官たちも休暇がないと知って落胆し、不平を言う兵たちを咎めることを忘れていた。
 DOE5の副長クラウディア・ウォーディントン少佐は下士官兵たちの不平をクリフォードに伝える。

「これでは兵たちの不満が爆発してしまいます。せめて新年の休暇は与えるべきではないでしょうか」

「この件に関してはノーだ、副長ナンバーワン

「しかし、休暇は兵たちの権利でもありますし……」と言い掛けるが、すぐに遮られてしまう。

「今は戦時中なのだ。指揮官の裁量によって休暇は凍結できる。以上だ、副長ナンバーワン

 ウォーディントンは取り付く島がないと「了解しました、艦長アイ・アイ・サー」と答えて艦長室を出ていった。
 駆逐艦の艦長からも同じような陳情があったが、彼はそれをすべて拒否した。

 彼の言う通り、現在ゾンファ共和国と戦争中であり、戦闘艦の乗組員の権利の一部は指揮官によって制限できる。もっとも今まで王太子の護衛部隊が適用されたことはなく、兵士たちだけでなく、士官たちが不満を持つことは当然と言えた。

 ただ一人、彼を支持した人物がいた。それは副司令に当たるロセスベイ1の艦長カルロス・リックマン中佐だ。

「コリングウッド艦長の考えは正しい。十七年前のことを思い出してみるがいい。安全だと思っていたアルビオン星系ですら戦場となったのだ。キャメロットが戦場にならんという保証はどこにもない。戦闘になった時、王太子殿下を、次の国王陛下をお守りできなかったらどう言い訳するのだ。訓練不足でお守りできませんでしたとでも言うつもりか? 自分たちの力の無さをもう一度よく考えてみるのだな」

 その言葉に対し、クリフォードは何も言わなかったが、尊敬できる先輩に対し、自室で静かに頭を下げていた。


 クリフォードは十二月三十一日の午前中だけ官舎に戻った。十月三十日にターマガント星系に向かってから二ヶ月ぶりの帰宅だった。
 愛妻ヴィヴィアンは彼を優しく出迎えるが、僅か三時間ほどしか時間がないと聞き、表情を曇らす。しかし、すぐに明るい表情に変える。

「あなたに良い知らせよ」

 何のことか分からず、クリフォードは首を傾げるが、彼女は彼の右手を取り、自らの腹部に押し当てる。

「赤ちゃんができたの。妊娠三ヶ月。来年の夏にはあなたと私の子が生まれるの。どう、いいニュースでしょ」

 クリフォードは突然のことに一瞬戸惑うが、すぐに彼女を抱き締め、「本当にいいニュースだよ。ありがとう、ヴィヴィアン」と言ってキスをした。

 愛妻との短いが幸せな時間を過ごした後、彼は愛艦へと戻っていった。


 年明けの行事の後、更に厳しい訓練が施された。
 それは一月だけに留まらなかった。

 キャメロット防衛艦隊ではクリフォードの猛訓練に対し、冷ややかな目で見る者が多かった。どれほど訓練しようと、戦闘になる機会など巡ってこないのだから、資源と時間の無駄だと陰口が叩かれおり、その声は王太子護衛戦隊にも聞こえていた。

 第三惑星ランスロットにある要塞アロンダイトの士官用のバーでは、クリフォードが行う厳しい訓練を肴にグラスを傾ける士官が多かった。

「“崖っぷちクリフエッジ君”は殿下まで崖っぷちに連れていくつもりなのかな?」

「全くだ。王太子護衛隊は式典でミスさえしなければよいのだ。特注の船外活動用防護服ハードシェルがボロボロじゃ、何のための儀仗兵なのか意味が分からん。DOE5もそうだ。折角の純白の装甲がところどころ禿げている。毎回修理はしているようだが、全く資源の無駄遣いだと思わんのかね」

「全くだ。ハハハ!」

 そんな笑い声に一人の士官が独り言を呟くように窘める。

「彼のことを揶揄するなら、彼以上の武勲を上げてからにした方がいい。あとで恥をかくのは自分なのだから……」

 その瞬間、士官たちの笑い声が止まり、静けさがバーを支配する。

 その士官は二度の殊勲十字勲章DSC受勲者、エルマー・マイヤーズ大佐だった。マイヤーズはクリフォードの元上官であり、彼のことを最も買っている人物の一人だ。

 マイヤーズの独り言は誰に言ったわけでもないと再び話を始めるが、クリフォードの武勲を思い出し、それ以上笑い者にすることはなかった。


 クリフォードは様々な雑音に悩まされながらも厳しい訓練を緩めることは無かった。逆に、宙兵隊の訓練には自らも参加し、何度も軽傷を負っている。

 最も厳しい訓練は第五惑星トリスタンの衛星軌道上での訓練だった。
 駆逐艦から人質を奪還するというシナリオで行われたが、駆逐艦の十ギガワット級対宙硬X線レーザー砲の弾幕を掻い潜り、搭載艇格納庫から侵入するというものだ。

 駆逐艦以外目標のない宇宙空間において、船外活動用防護服ハードシェル推進装置ジェットパックによる高速移動を行いつつ、目標に取り付くため、多くの宙兵隊員が目測を誤り、艦体ヴェッセルに激突している。
 その衝撃はハードシェルの防護能力を超え、多くの骨折者を出していた。
 彼自身も目測を誤り、酷い打撲を負っている。
 この訓練の後、多くの宙兵隊下士官がクリフォードのことを笑っていた。

「ざまはないわ。これでクリフエッジも少しは大人しくなるだろうよ」

 しかし、クリフォードは一向に手を緩めなかった。
 ある時は敵側の指揮官として指揮を執り、宙兵隊の突入を阻止している。

「私程度の射撃で突入できないなら、保安装置の自動射撃では簡単に全滅するぞ」

 彼は自慢の射撃の腕を生かし、宙兵隊員たちを煽っていく。宙兵隊員たちも宙軍士官に過ぎない彼からの挑発に乗り、訓練中に上官の命令が聞こえなかったふりをして、クリフォードを殴る者すら出ていた。
 しかし、殴り飛ばされた彼はその行為には何も言わず、逆に褒めていた。

「よくやった。今のように指揮官を潰せば、敵の殲滅は容易になる」

 こうなってくると、宙兵隊員もクリフォードを見直すしかなかった。

「さすがは武功勲章MCをもらっただけのことはあるってことか」

 宙兵隊員にとって武功勲章は身近なものだ。元々武功勲章は陸戦で勇敢な行為を行ったものに与えられる勲章であり、受勲者のほとんどが宙兵隊員だ。その勲章を士官候補生時代に受けているということも、彼らに仲間意識をもたらす要因の一つとなっていた。


 宙軍の下士官兵も同じだった。
 宙兵隊の訓練に参加した後も、休むことなく戦隊の訓練を行っており、厳しい訓練に不満を持つ下士官兵たちも自分たちより厳しい状況に身を置くクリフォードのことを見直していた。
 更に兵たちには最低限の休暇を与えていたが、彼自身は身重の愛妻がいるにも関わらず、艦を離れることはほとんどなかった。
 そのことを心配したリックマンが彼に何度も忠告を与えている。

「奥方は初産なんだろう。今は戦時とはいえ、差し迫った作戦があるわけじゃない。奥方にできるだけ付き添ってやるべきじゃないか」

 それに対し、クリフォードは感謝の言葉を述べるものの、一度も頷かなかった。

「私に与えられた任務は殿下をお守りすることです。そのためにできる準備は確実にしておかねばなりません。それに部下たちを駆り立てている私がのんびりと妻と過ごすわけにはいきません」

「しかしだな。君がいても部下たちが早く回復するわけでもあるまい。それに君もオーバーワークだぞ」

 クリフォードは「これは私なりのけじめですから」と言って曖昧な笑みを浮かべる。

 リックマンはこれ以上何を言っても無駄だと思ったが、彼との会話をDOE5の士官たちに伝えた。
 副長以下の士官たちはクリフォードに対し、不満を感じていたが、そのストイックさに驚きを禁じ得なかった。


 当初、士官たちはクリフォードのこうした態度を冷ややかな目で見ていたが、三ヶ月もすると彼らもクリフォードの強い思いに感化されていく。
 更にそのことは准士官、下士官と伝わっていき、半年も経つ頃には宙兵隊の最下級の兵にまで浸透していた。
 そして、半年もすると、艦隊内で王太子護衛戦隊を馬鹿にする声は全く聞かれなくなった。

 その頃、王太子護衛戦隊の練度は烈風ゲールと呼ばれているジークフリード・エルフィンストーン提督麾下の第九艦隊の高機動部隊に匹敵し、キャメロット防衛艦隊でも指折りの精鋭部隊に成長していた。
 また、ロセスベイに乗り込む宙兵隊も奇襲作戦、強襲作戦、撤退戦と、どれをとっても一流と言えるところまで力をつけていた。

 クリフォードはそれでも満足していなかった。

(下士官や兵士たちの練度は確かに上がった。しかし、それを指揮する指揮官に不安が残る。特に宙兵隊のリチャードソン少佐とスウィフトのカルペッパー少佐は性格的な問題なのだろうが、この戦隊の弱点になりうる。シャークのラブレース少佐も未だに独断専行する癖が抜けない。どうすべきだろうか……)

 クリフォードは自分の懸念をリックマンに相談したが、リックマンは笑いながら、

「ここまでできたことで満足しろよ。指揮官の資質はそう簡単には変えられないんだ。誰もが君のようにできるわけじゃない」

 そう言って背中をバシンと叩かれる。

「分かってはいるのですが、殿下の安全を考えると……」

「指揮官である君が悩むのは仕方がない。しかしだ。艦には伝統という形で根付くが、艦長は定期的に変わる。あまり悩みすぎるな。まあ、俺でよければ相談に乗るがな」

「了解です。その際はよろしくお願いします」

 クリフォードはそう言いながらも何とかできないかと考えていた。

(我ながら完璧主義すぎると思うのだが、妥協するわけにはいかない。どうすればいいんだろうな……)

 僅かに不安は残るものの、戦隊を纏め上げた満足感が胸に広がっていた。

 そんな中、SE四五一九年六月一日に彼にとって良い知らせがやってきた。
 士官候補生時代の親友サミュエル・ラングフォードが少佐に昇進し、DOE5の副長としてやってきたのだ。

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