ELDERMAN(エルダーマン)

小鳥 遊(ことり ゆう)

エピソード4: イタリアの少年

西園寺豪、石動新、獅童正義がイタリアに向かっている頃、イタリアではヴェネチアを中心としたヴェネチアンギャング「ヘジホッグス」が台頭していた。ギャングたちは自分たちの好き勝手できるような人間を王に仕立て上げテリトリーの外に独裁国家をつくり、かくして「ヴェネチア帝国」が誕生した。帝国内で人身売買されている子供たちや孤児を自分達の経営するバーやカジノの雑用などを強制でもちろん無給でさせていた。ここにも運命を待つ少年が一人とらわれていた。彼はマルコ・ロッソ。カジノで働く孤児の14歳である。彼の望みはただ一つ、
「ここを出て自由に暮らす。こんな最低な場所なんてぼくから願い下げだ。だがもう今日で丁度一年だ。これであのブタ野郎とあうことはないぜ!こんな律儀ならなくても力があればすぐ出られるんだがなぁ。」
そう打ちひしがれているうちに、収監所に珍しい客が現れた。ヘッジホッグスのボス『ロマノフ・ハミル』とお付きの子分キャリーとフィッシャーであった。ギャングボス・ロマノフはマルコ達を監視するかたわらに酒をつまみ様々な談義をしていた。マルコにはそれは遠くて聴こえなかったが、収監している子供の近況について話が盛り上がっていた。そうするうちにロマノフが、マルコが監禁されている牢屋へと来た。そしてゆっくりとした口調で
「よう・・・チビすけ。しっかり、やってのんか・・・? 話聞く限り、この支店のカジノじゃあ有名らしいのう。」
「それは、褒めてるってことですかね?」
マルコはわざと嫌味たらしい敬語で返した。
「んで、おっさん、約束は覚えてんだろうな? 一年ただ働きで僕を開放するって・・・今日で丸々一年だぜ・・・。わかってるんだろうな?」
マルコは一年前、ロマノフの金庫から金品を盗もうとして現行犯で捕まり、その代価として働かされていた。そして一年後にはその働きを見込んで元の暮らしに戻すという約束があった。
そこで、フィッシャーがなぜか噴き出すように笑った。そして、憐れむような、嘲笑っているような眼で
「ヒャーハハハハ! おっと、すまんすまん。いや、可哀想だな。ボスも人が悪い。」
「何が言いたいんだよ、フィッシャー。」
「おまえ、ここから出られると思ってんの? だったら、大間違いってやつだぜ?お前はここで死ぬまで、一生、俺たちの奴隷、おもちゃってやつよ!!!」
「フィッシャー。それは言い過ぎだ。だがよ、チビすけ、ここから自由になってどうする気だ? 食い扶持もねえ、金もねえ。ただでさえ帰る家がねえんだぜ?出ても飢え死にするんだ。それを
”慈悲”で働かせてんだぜ?むしろ感謝してほしいがね。」
ボスは牢屋を開け、今にも食ってかかりそうな眼をしたマルコの小さな胸倉をつかみ、
「ここ以外で生きられると思うなよ? こんな世の中だから、小便たれた身寄りのねえクソガキなんぞだれも養わねえし、雇ってくれもしねえぜ?」
マルコは落胆した。それを見たボスはほくそ笑み、掴んでいた胸倉を乱暴に放した。鍵を閉めここの支店長でもあるキャリーに後始末と開店準備をまかせ笑いながら去っていった。キャリーはマルコに近づき、
「あんた、ホントにかわいそうね。でもボスの言う通りおとなしくやってれば食い扶持には困らないんじゃなくて?」
と煙草をふかせながら冷静になるようたしなめて、開店の準備を他の従業員に急がせた。

 ーここは世界最後のカジノと言われている「カジノ・フロード」。従業員はほとんどが非合法の未成年で構成されている、いわゆる裏カジノだがそもそも合法カジノがすべて廃業しているため裏もくそもない。夜になると怪しい色のネオンライトが付き、若い客引きが店の前にたむろしている。ー
 従業員の少年少女たちは動物園の動物か、飼われたゾンビのように牢屋からぞろぞろとカジノ開店準備へとむかう。キャリーはふてくされてるマルコに不機嫌にたばこを吸い、彼の顔に浴びせて
「いい加減、仕事の時間だよ。早く客引きでもしてきな。」
マルコは頭を抱えながら渋々向かおうとした。そうすると、キャリーが彼の後頭部を殴打した。
「そんな顔で仕事に出んじゃねえ。男なら腹くくっていい顔で仕事しな。それが最低限の礼儀ってもんだよ。」
「わかったよ。いってくるよ!」
だが、ネオン街に向かう彼の小さな背中はより一層小さく見えた。

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