転生王子は何をする?

血迷ったトモ

とある休日のドタバタ14(リタ編)

「う〜ん?何か物凄く忘れられていた気がします。」

「え?唐突にどうしたの?」

「あ、いえ、何でもありません。えっと、ホルスさん。行きましょう。」

「う、うん。」

 何やらブツブツと言っていたリタ。しかし、それが聞き取れなかったホルスは聞き返すが、リタ自身が何故そのような事を呟いたのか分からなかったため、誤魔化したようだ。
 それは兎も角として、リアとのデーt…お出かけの翌日、ホルスはリタとお出かけをしていた。今は待ち合わせ場所から、目的地へと移動している最中である。
 リアから昨日の夜、『ホルス君と腕を組んだんだ〜』と自慢をされたため、リタも負けじと腕を組み、体を精一杯寄せている状態である。

ーと、トリス〜!助けて〜!ー

 ゴリゴリと何かが削られていくのを感じるホルスは、心の中でトリスに助けを求めるが、非情にも現実はそう上手くいかないようで、トリスのトの字すら辺りには見当たらなかった。
 流石のホルスも、ローゼマリー、リア、リタと、憎からず思っている3人との連日デートは、堪えるらしい。

「えっと、今日の予定は?」

「秘密ですが、ホルスさんなら、確実に楽しんでくれると、トリスさんが太鼓判を押してくれました、とだけ言っておきます。」

「あ〜、うん、分かった。」

 笑顔でそう告られては、特に言える事も無く、ただ引き摺られていくホルス。
 終始ニコニコ顔のリタに連れられる事10分、漸く本日の第1の目的地へと到着したようで、彼女は立ち止まる。

「あ、ここ?」

「はい、ここです。何でも、最新の技術を用いた、『映画』なるものが楽しめる場所らしいです。」

「えいが?」

「はい。トリスさん曰く、『劇の大衆向けバージョン』だそうです。」

「大衆向け…。何か面白そうだね。」

 こうして2人は、映画館へと入っていくのだった。
 中に入ると、リタは即座に受付に向かった。

「いらっしゃいませ。お客様は、2名様で宜しいですか?」

「は、はい。」

「かしこまりました。現在、30分以内に上映が始まる映画が、こちらとこちらの2本になりますが、どちらかに致しますか?」

 受付が指し示したのは、普通の恋愛モノと、ホラー8割、残りが恋愛という、やばいものだ。
 トリスからは、前者をおすすめされていたが、あまり彼に頼り過ぎるのは良くないと思ったリタ。何を血迷ったか、後者を選んでしまう。ちなみにこれは、トリスの考えた筋書き通りである。

「えっと、これでお願いします。」

「はい、かしこまりました。お席はどちらに致しますか?」

 こうしてリタとホルスは、トリスの狙い通り、フルスクリーン・・・・・・・のホラーものを見るハメになってしまったのだった。


「きゃあ〜!! (ガシッ)」

 現在ホルス達の見ている作品は、バイオハザードにより、人類滅亡の危機に瀕した世界で、主に物理的な攻撃手段しか持たない主人公達が、徐々にゾンビ達に追い詰められていく姿を描いた、日本であればB級認定受けそうなものであったが、初めてこういうものを見る2人、特にリタにとっては非常に恐怖だったのか、何かある度にホルスに必死に抱き着いている。

「うわぁ!」

 一方のホルスは、抱き着かれる度に、色んな意味で驚きの声をあげてしまっている。

 ーと、年頃の女性が、抱き着くなんて、ま、不味いんじゃ!?というか、えいが?だっけ?物凄く怖いし!ー

 ご覧のように、頭の中はグチャグチャになっているようだ。
 現在映画の中では、主人公とその仲間が、巨大な研究所と思しき建造物の中で、ドアを開けるのを躊躇っている最中である。だが、部屋の中から少し物音がするということで、開けるのを止め、さら奥地へと進もうと背を向けた。

「「(ホッ)。」」

 それを見て、ホルスとリタは心底安堵する。勿論リタは、ホルスの腕にしがみついている状態ではあるが。
 しかし次の瞬間。

『バタン!』

「「うわぁ〜!?」」

 背を向けた主人公達に、ゾンビが自ら扉を破り、襲いかかってくる。
 すっかり不意をつかれたホルスとリタは、互いに抱き着きながら、恐怖している。
 この時、2人の気持ちは完全に一致していた。
 『こ、怖すぎる。この映画とやらを作ったやつは、人間じゃない。』と。人が恐怖するタイミングを、本当に良く分かっているのだ。そのため開始十数分で、2人は完全に疲れ果てていた。
 しかし映画は、まだ始まったばかりであった…。


「「こ、こわ…。」」

 2時間後、ホルスとリタは、互いに寄り添いながら、足をガクガクと震わせて、映画館から出て行く。

「ほ、ホルスさん。」

 暫く歩いてから、リタは急にホルスから離れて、彼と向き合う。

「え?どうしたの?」

 リタが離れた事に若干の寂しさ・・・を感じながら、ホルスは聞く。

「こ、この後、どうしますか?お昼にしますか?」

 時間はお昼前のため、一応確認を取るリタ。

「あ、うん。そうだね。さっきので物凄く体力使ったから、お腹が空いちゃったよ。」

 苦笑いしながら、先程のホラー映画を思い浮かべるホルス。その額には、若干脂汗が浮いている。

「それなら、行きたいところがあるんですけど、大丈夫ですか?」

「うん、おまかせするよ。」

「分かりました。」

 話がまとまると、リタはまた腕をホルスに絡ませ、目的地へと向かう。
 傍から見ると、若干頬を赤くした、初々しいカップルにしか見えないため、道行く人々から生暖かい視線が降り注ぐ。

「あ、あれ?何か視線が…?」

「え?どうかしたんですか?」

 そんな視線に対して、敏感に反応するホルスだが、まったく余裕の無いリタは、周囲の様子に気付かないでいた。

「いや、何でも無いよ。さ、行こうか。」

 多くの視線が降り注いだため、思わず反応してしまったが、敵意は無さそうなので、誤魔化すホルス。その際、笑顔を浮かべたため、リタは思われます見蕩れてしまう。

「…。」

「え?どうしたの?」

 急に動かなくなったリタに、戸惑うホルス。
 …この男、やはり天然ジゴロである。

「え!?いや、何でもないよ!?」

「いや、何で疑問形なの?」

「い、いいから早く行こう?」

「う、うん。」

 『見蕩れていました』などとは、当然言える訳もない。誤魔化すために、絡めている腕にさらに力を込めて、目的地へと引っ張るリタ。
 そんなリタの行動に疑問をおぼえるホルス。しかし、腕に力が込められたことにより、はっきりと感じるリタの体の感触に戸惑い、そんな疑問はあっさりと消えてしまうのであった。

 ホルスとリタが、早足で姿を消した後、その場に居た多くの者たちは思った。
 『あんな彼氏or彼女が欲しい!!』と。中には、血涙を流す者も居たという。こうして、多くの者たちの心に爪痕を残しながら、ホルスとリタのお出かけは、佳境へと入るのだった。


「おぉ…。やっぱりこの眺望は凄いなぁ…。」

 先日リアと共に来たショッピングモールの最上階の60階からの眺めに、ホルスは思わず感嘆の声を漏らす。

「そうですね。学園都市はおろか、はるか先まで見通せますね。」

 普段生活する中では、絶対にあり得ない視点での眺めに、2人して釘付けになる。
 と、ここで、リタのお腹が、小さく『ぐぅ〜』と鳴ってしまう。

「にょわ!?」

 変な声を出しながら、リタは慌ててお腹を抑える。その顔は、みるみる真っ赤になってゆく。
 そんなリタを見て、ホルスは思わず笑いを漏らしてしまう。

「ふふっ。…コホン。さて、ご飯を食べようか。」

「…はぃ…。」

 ホルスに笑われ、恥ずかしさのあまり、小さく縮こまったリタは、大人しくレストランへと案内する。

「さ、さーて、料理を頼もうか!」

「…うん。」

 テーブルに案内さてもなお、赤くなっているリタに、ホルスは、笑ってしまった事に対する罪悪感もあり、話しかけづらそうにしている。
 そんな中、ホルスは取り敢えずメニューに目を通すが、その不思議な文字の羅列に、思わず声に出して読み上げてしまう。

「えっと、なになに?Aコースのメインディッシュが仔牛のロティ〜季節の野菜のバルサミコソース和えを添えて〜、Bコースが季節の魚のチーズグリル完熟トマトソース、Cコースがチキンのアンショワイヤード焼きだってさ。なんか、独特な名称の付け方だね。」

 これまたどこかで見たことあるネーミングだが、そんな文化はこちらの世界にないため、思わずそんなことを呟くホルス。

「そうですね。どういう意味なのかは分かりませんが、私はBコースのお魚を頼もうと思います。」

「じゃあ僕はAコースにしようかな。」

 そんなこんなで、昼食を食べ始める2人。途中、ホルスの口についたソースを、リタが拭いてあげるなど、微笑ましい光景が生まれたりしたが、特筆すべきことは無いだろう。


 昼食後、適当にあたりをぶらついて、気になる店があれば入るというのを繰り返し、気が付けば、あっという間に夕方になっていた。

「今日はありがとう。とても楽しかったよ。」

「はい、私も楽しかったので、そう言ってもらえると嬉しいです。」

 ショッピングモールの出口付近で、満面の笑みを浮かべながら、お礼を言い合う2人。
 その姿はまるで、付き合いたてのカップルのようで、またしても多くの人々から視線を向けられているのだが、満足感からか2人は全く気付く様子がない。
 そんな2人に、1人の若い少年が近付いていき、軽い口調で声をかける。

「そこの兄ちゃん。可愛い子連れてるね〜。」

 この状況では、あまりかかわり合いにはなりたくない類の人物からのセリフなのだが、その声に聞き覚えのあった2人は、唖然とした表情でその声の主の方を見る。

「え?」

「はい?」

 2人の視線の先には、からかうような笑みを浮かべる、トリスの姿があった。

「まさかトリス…。」

「違う違う!一応オススメの場所とかは教えてたけど、付けてなんか無いって!」

 ホルスからストーカーの容疑をかけられたので、全力で否定するトリス。リタからも同様の視線が送られているので、何としてでも誤解は解かねばならない。

「正直、どこかで鉢合わせするだろうとは思ってたけど、積極的には探してないよ?ただ少し美味しいお茶が飲みたかったから、ここに来ただけ。」

「くんくん…。そうだね。微かに紅茶と、果物の甘い香りがする。」

「犬か!?」

 顔を近づけて、匂いを嗅いできたホルスに、トリスは全力のツッコミを入れる。

「良かったです…。あんな様子をずっと見られていたんだったら、暫く立ち直れませんでした…。」

 ずっと腕を組んで居たのを思い出し、少し顔を赤くするリタ。

「あんな様子、ですか?」

 ほっとしたように呟くリタの言葉を聞き逃さず、面白い事を聞いたとばかりに、ニヤリと聞き返すトリス。

「い、いえ!何でもありませんよ!?ホルスさん!トリスさん!さようなら!」

「え、あ、うん。さようなら。」

 これ以上の追及は不味いと、早々に話を切り上げて別れの挨拶をするリタに、ホルスは戸惑いながらも手を振る。

「お疲れ様でした。」

 そんなリタを、満足そうに見送りながら、トリスも一緒になって手を振る。
 こうして、激動の3日間は、終わりを告げたのだった。

コメント

  • 血迷ったトモ

    まさかのヒロインを1人放置するという、とんでもミスを犯した、ポンコツ執筆者の血迷ったトモです!正直、この事実に気が付いた時点で、この小説を書く気はあるのか?と自問自答しましたが、心が折れそうになりながらも、どうにかリタ編を書ききり、まともに前に進む事が出来そうです。

    まぁ、少なくとも夏まではリアルがヤバいので、投稿頻度は間が空くとは思いますが、コツコツと書いていきたいと思っています。
    今後とも、こんなポンコツ人間ですが、見捨てないで頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。

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