転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第139話 また転校生

「今日はこのクラスに、転校生がやって来ます。」

 朝の挨拶の後、マルティナにより、唐突に告げられたその言葉に、Aクラスの時間は数秒ほど停止する。
 
「今なんて?」

 ただでさえ珍しい転校生(104話参照)が、2人もこのクラスに入るとなれば、当然に驚いてしまうのは、マルティナから諸々の事情を聞いて分かっていたトリスが、助け舟を出す。

「えっと、転校生が来ます。」

 もう一度、転校生が来ることを告げたマルティナ。静寂の中発せられた声だったため、教室内によく響いた。

『おぉ〜!』

 その声により固まった状態から復活した生徒達に、どよめきが走る。『また転校生が来るのか』と。

「皆さん、落ちついて下さい。」

 鶴の一声により、Aクラスは一瞬で静まる。それを異様な光景だと感じたトリスは、思わず笑いそうになるが、ここは耐える。後でマルティナから、小言を言われそうだったからだ。
 
「では、入って来て頂きましょう。トートさん、どうぞ〜。」

 マルティナに声をかけられ、教室に入って来るトート。
 入って来たトートの見た目に、Aクラスの生徒達は、今度は声には出さずに感嘆していた。そして改めて思う。『このクラスの女子、レベルが高過ぎじゃね?』と。

「えっと、トート・ローヴァインと申します。フロレンティーナ様から手紙で誘われ、この学園へと入学する事にしました。世間をあまり知らないため、御迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします。」

 自己紹介が終わり、ぺこりと綺麗にお辞儀をするトート。

「はい、ではトートさんは、フロレンティーナさんの前の席にしましょうか。」

「は、はい。」

 フロレンティーナの名を聞き、少し複雑な顔をするトート。
 ダンクレスの事件の解決後、彼女はフロレンティーナに、自身を罰するように懇願したが、『わたくしは、貴女を責めるつもりはない』と、その願いはにべもなく却下され、丸く収まった形となっていた。しかし、彼女は長年何も出来ない自分を責めており、簡単には罪悪感から逃れる事は出来ないのだろう。
 後は時間が解決するか、若しくはショック療法的な意味合いで、別の何かに強い感情を抱けば、自ずと融解していくのではないのだろうか。

「トートさん。よろしくお願いしますわ。」

「ひゃい。よ、よろしくお願いします。」

 色々と考えるあまり、口が回らなくなったのか、カミカミのトート。

「よろしくお願いします、トートさん。」

「よろしくね、トート。」

 そんなトートに、面白そうに声をかけるトリスと、優しい声音のホルス。

「はい、よろしくお願いします。」

  今度は噛まずに返事をするトートだが、その顔は少し紅潮している。…別の何かに強い感情を抱くという条件は、既にクリアしているのかもしれない。
 それは兎も角として、休み時間のホルス、フロレンティーナ、トートの話題は、何時になったらトリスは正体を明かすのかというものになっていた。

「えっと、先方にアポイントメントを取ろうと思ってんだけどさ、何分忙しいみたいで、中々予定が合わないんだよ。」

「忙しい?」

 自分に不利な話題が出たところで、謎の言い訳をするトリス。

「うん、ちょっとね。一応あっちは大物だからな。」

「大物?…まさかね。」

「トリスさんの正体は、実は貴族だったとかいう事ですか?」

 トリスの謎めいた発言に、ホルスは何かを察したようだが、トートはコテンと首を傾げている。

「いや、俺は貴族じゃないですよ。」

 トートの質問に、トリスは真っ向から否定する。そんなトリスに、フロレンティーナが食いつく。

「その言葉に、嘘偽りはありませんね?」

「え、あ、はい。誓って俺は貴族じゃないです。」

「そうですか。分かりましたわ。」

「…。」

 どこに食いつく要素があったのかと、不思議に思うトリスだが、言葉には出さない。何故ならフロレンティーナが、トリスの思い出せない、何か重要な事実を知っている可能性があると、そう感じているからだ。些細な事で本当・・の正体がバレてしまっては、今までの努力が水泡と帰すだけでは無く、この楽しい日常をも失うことになってしまう。

「さ、さて、そんな事よりも、トートさんって、16歳だった気がするんですけど、この学園は、その年度に15歳になる者しか入学出来ないのでは?」

「あれ?そういえば、確か16歳って聞いてたような。」

 苦し紛れのトリスの話題変更に、ホルスは無自覚でのっかる。
 『ありがと〜!まじで助かった〜!』という心の声は必死に抑え、トリスはトートに目を向ける。するとトートは、微妙な表情で入学出来た理由を語り出す。

「えっとですね、実はこっちに来て直ぐに、差出人の名前が無い便箋が届いて、中に入学手続きとかの書類が入ってたんです。それで、中に入っていた注意書きの通りに記入して、便箋に一緒に入っていた印璽で封をして、学園に提出したら、簡単な実技と座学の試験だけで入学出来たんです。」

 おっとりとしていて、喋りの遅いトートに、途中何個か言いたい事を我慢して聞き続けたトリス達は、漸く質問を開始する。

「印璽はどうしたんですか?」

「注意書き通りに焼却したよ。」

  印璽から、差出人がどのような勢力なのかを突き止める事が出来るため、トリスはそんな質問をしたが、差出人も抜かりはないようであった。

「便箋は誰かに手渡しされたの?」

 この世界では、手紙は基本的には旅人か冒険者に依頼するか、遣いに持って行かせるかぐらいしか手段は無いのため、そこから差出人を割出せないかと考えたホルス。

「い、いえ。机の上に置いてありました。」

 しかし、そんな考えも悉く砕かれてしまう。

「誰かがわたくしの屋敷に侵入したという事でしょうか?」

 フロレンティーナは不安げに呟く。
 事件の後、トートの住まいとして、自身の屋敷の部屋を貸し出したのだ。そんな彼女の住まいは、通常の屋敷よりも強固な警備である上に、手紙等は使用人が危険性を確認してから、直接手渡しされるのが常である。そのため机の上に投げておくなど、有り得ないのである。
『一体どういう事だろうか?』と、3人・・は首を傾げるが、そんな中、若干1名は心の中でほくそ笑んでいるのだった。

コメント

  • ノベルバユーザー324322

    まだですか?

    1
  • ノベルバユーザー324322

    もうすこしでいいから更新早くしてほしいです

    1
  • ノベルバユーザー324322

    部活みたいなものはないんですかる

    1
  • 血迷ったトモ

    更新が遅くなり、申し訳ございません。ここから少し、物語を一転、二転させていこうと考えております。なるべく早くに更新出来るように努力します(フラグ)。ですので、どうぞ暖かい目で今後の展開を見守って頂ければ、幸いです。

    1
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