転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第137話 とある休日のドタバタ 12(リア編)

「こ、これは、一体どんな仕組みに?」

 半透明の扉が近付くと自動で開き、そこにもビックリしていたホルスだが、扉の先の光景により驚く。
 そこは、一面水の中と勘違いするような、そんな光景が広がっていた。

「ほ、ホルス君?だ、大丈夫?」

 そう言って、呆気にとられているホルスの目の前で、手を振っているリアの声も震えている。

「え?あ、うん。…それで、ここは一体?」

 ようやく正気に戻ったホルスは、疑問を口にする。良く見ると周りには水は無く、壁際に透明の板を隔ててその向こう側を、魚が泳いでいるらしい構造になっていた。

「えっとね、ここは水族館っていうの。なんでも、ここのオーナーのカレンベルク商会の会長さんが、10年くらい前に見せてもらった、海中の様子を再現したいって言い出して、それで作られたんだって。」

「か、海中の様子!?海の中ってこんな風になってるの!?」

 リアの言葉に、ホルスは透明の板まで駆け寄って、中をじっくりと覗き見る。

「あはは。ホルス君ってば、はしゃぎ過ぎじゃない?」

 子供じみたテンションのホルスを見て、微笑ましそうに笑うリア。

「う、ごめん。」

 リアの微笑ましそうな表情に、ホルスは気恥ずかしくなってしまう。
 だがリアにとっては、そんなホルスの一面が見られるのは良い事なので、ご機嫌な様子だ。

「ねぇ、腕組んで良い?」

「へ?…い、良いよ?」

 ホルスは最初、リアが腕組みをするのかと思い、意味が分からなかったが、直ぐに周りのカップルの様子に気付き、そうでは無いと理解し、照れくさそうにしながらも、腕を差し出す。

「やった!ありがとう!」

 本当に嬉しそうな笑顔浮かべ、リアは勢い良くホルスの腕に、自分の腕を絡め、そして身体を精一杯寄せる。こうして、本日のホルス&リアのデートは始まった。


 薄暗い水族館の中。隣に感じる暖かく、柔らかい感触。そして時折良い匂いが漂ってくる。そんな状況で、ホルスはトリスがここをデート場所に指定する、その意図を今更ながらに察した。

-と、トリスめ。昨日の王道系のデートが駄目なら、今度は雰囲気で落とそうって考えなのかな?さっきから、大事な物がゴリゴリと削られていくのが、目に見えて分かるよ!-

 この世界でもショッピングは、デートの王道であるため、昨日は『まぁ妥当なコースだな』と思っていたホルスだが、こうまであからさまに、的確に自身の理性を削るシチュエーションに、トリスが本気で3人のうちの誰かとくっ付けようとしているという、甘い結論を出す。
 その実、3人のうちの誰かどころか、全員にプラスしてもっと大勢とくっ付けようとしているとは、夢にも思っていないのだろう。

「ホルス君?どうしたの?」

 そわそわと落ち着かないホルスに、リアは顔を寄せて心配する。

「い、いや、何でもないよ?」

 そんな何気ない仕草にも、一々ドギマギしてしまうホルス。

「そう?なら良いんだけどさ。」

-全然良くないですよ!ちょっと距離を置いてください!-

 リアの呑気な言葉に、ホルスは心の中で全力のツッコミを入れる。どうやら、よっぽど余裕が無いようだ。
 だが口にも態度にも一切出していないため、天国のような、それでも地獄のような時間は続く事となる。


 1時間半後、ほぼ全ての水槽を見終わったホルス達は、水族館の土産屋に来ていた。

「へ〜、結構凄い再現度の飾りだね。」

「あ、それは、ストラップっていう商品らしいね。何でも今はあんまり需要無いけど、今後は爆発的にヒットするはずだってトリス君が言ってたよ?」

 イルカの付いたストラップを見て感嘆の声を上げるホルスに、リアがトリス情報を教える。

「ヒットするはずって。トリスは一体、何を企んでるんだろう?」

 トリスの予想を聞き、ホルスは呆れ顔で言う。トリスのぶっ飛び加減にも、いい加減慣れてきたのだろうか。

「さぁ?それよりも、ほら。記念に色違いで買ってこうよ。」

 リアはピンク、ホルスは青のイルカのストラップを買う。

「さて、ちょっと遅いけど、お昼ご飯食べに行こう。」

「うん。今までで気付かなかったけど、もうこんな時間なんだね。」

 館内に設置されている時計を見て、もう既に3時前になっている事を、今更ながらに気付く2人。

「何処かに良いお店があるの?」

 ホルスの問に、リアは自信満々に答える。

「うん!ちゃんと調べ済みだよ!このお土産屋さんの奥に、海の幸をふんだんに使った、海鮮料理屋さんがあるんだよ!」

「え?それは凄いね!」

 両者興奮気味である。何故ならば、ここ学園都市エコールは内陸部であり、滅多に魚を食べる事が出来ないからだ。
 浮き足立った様子で、2人は仲良く海鮮料理屋に入ってゆく。
 店の中に入ると、時間も時間だったためか、人はチラホラ見られるものの、直ぐに店員が席に案内してくれるくらいには空いていた。

「この店ではね、他のお店とは違って、生の魚料理が有名なんだって。」

「な、生?食べて身体を壊したりしないの?」

 生の魚を食べる文化の無いこの世界では、生の魚を食する事は、少し抵抗のある事らしい。

「勿論。ちゃんと火を通した料理もあるらしいから、安心してね。」

「い、いや、大丈夫。この、海鮮丼とかいうやつは、注意書きに『生です』って書いてあるから、多分これが有名なんだよね?付いてる絵も、生みたいだし。」

「うん、聞いていた話だと、そうみたいだね。私はそれにしようと思うんだけど、ホルス君は?」

「じゃあ僕は、このマグロ丼にしようかな?何か興味惹かれるから。店員さん!注文お願いします!」

 そう迷うまでもなく、頼む料理が決まった2人。こうして、穏やかに時間は流れていくのだった。

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