転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第86話 入学前 22

「おっと!こんな事してる場合じゃなかったな!早くリアさんのお姉さんを助けに行かないと!」

ホルスの問い詰めがいつまでも続いていたため、いい加減疲れてきたトリスは大きな声で態とらしくそう叫ぶ。

「うっ!それはそうだけど…。分かったよ!事が終わってから、もう一度尋問するからね!?」

「ま、まだ続くのか…。リアさん、ごめんね。待たせてしまって。」

「う、ううん、大丈夫だよ。それよりも、ホルス君は一体何をする気なの?」

ホルスの言葉に『もううんざり』という表情をしながら、リアに謝罪するトリス。ホルスに罪悪感を植え付けてやろうというトリスなりの仕返しだったのだが、それを聞かずにホルスはさっさと何も無い行き止まりの壁に向かっていく。
それを見たリアは不思議そうにしている。

「あ〜、そうですね。取り敢えず、耳を塞いだ方が良いですよ?というか早く塞いで!」

「?う、うん。」

最初はのんびりと答えていたトリスだが、ホルスが壁に向かって掌を向けたのを見て慌ててリアに言う。
リアは尚も不思議そうにしながらも、急に慌てだしたトリスを見て大人しく従って耳を塞いだ。

「う〜ん。この辺かな?『断罪せよ 光の剣クラウ・ソラス』!」

「!?」

「五月蝿っ!」

『ズガーン!』と大きな音をたてて粉砕される壁。あまりの音の大きさにリアは目を白黒させて驚き、トリスは耳を塞いで叫んでいる。

「ふぅ〜。お!あったあった!お〜い、2人ともこっちに来て〜!」

ホルスが呼ぶのでトリスとリアは粉砕された壁の方に向かって行く。すると瓦礫の奥に、更にその奥へと進む道があるのが見えた。日常的に人が使うようで、松明がセットされていて、中は良く見えるようになっていた。

「おぉ〜、やっぱりか。」

「え!?隠し部屋!?私が逃げてきた時にこんなのあったっけ?」

ホルスは驚きもせずに、寧ろ納得の声をあげる。しかしリアは全く気づかなかったので、驚きの声をあげている。

「リアさんが逃げ出してくる時は、たまたま開いていたんじゃないんですか?」

トリスはのほほんと答える。

「そ、そうなのかな?あれ?でもこっちに奥に続く道とは別に空間があるよ?何だろ?この空間。」

しかしリアが納得いかなそうな顔でそちらに行くと、壁面を調べ始めた。

「何かあった?」

その様子を見ていたホルスが話しかけると、リアが声をあげる。

「あっ!こんなところに引き戸に付いているような窪みがある!じゃあ引っ張ってみると…あ。」

「「あ。」」

リアが窪みに手を入れて横にスライドさせると、本当に引き戸になっていたようで、先程トリス達が居た部屋に繋がっていた。

「「「…。」」」

一同に微妙な雰囲気が流れる。

「は、早く先を急ごうよ!」

「「了解…。」」

「ほ、ホルス君の凄い魔法が見られて良かったから、いいんじゃないかな?」

「そ、そう?ありがとう…。」

「何もせずに得意ぶっていた俺って…。」

「あははは…。」

リアが慰めの言葉をかけるが効果は薄く、一行はそのままの雰囲気のまま奥へと進むのだった。


数百メートルも進むと、トリス達の前に再び行き止まりが現れる。それを見たトリスは、無言で行き止まりに近づいて行き、そのまま窪みを見つけると一気に引き戸をスライドさせる。
するとそこには白衣を着た男達が、部屋の奥の方でずらりと横に並んで待ち構えていた。

「ふはははは!よく来たな!侵入者共!我が名はマッド・サイエンス!ここ研究所の責任者だ!運良く我々の最高傑作の隙を見てここまで来たとはいえ、所詮子供は子供!そのうちお前達が放置してきたであろう最高傑作は、お前達を追いかけてここまで来る!そしてこれを見ろ!」

「「…。」」

マッドは一息でこの長ゼリフを言い終えると、研究員達が集まっている部屋から、捕らえた者を閉じ込めおく牢屋に続くドアから、一組の男女が現れる。

「お姉ちゃん!」

そう。リアの姉であるリタ・ベッセルが、猿轡された状態で両手を後手にされ、1人の研究員に首筋にナイフをあてられた状態で現れたのだ。リタは憔悴しきっているようで、ぐったりとしてそれを振りほどく元気も無いようだ。
それを見てリアは顔を真っ青にして叫ぶ。
どっからどう見ても、最大のピンチなのだから仕方が無いだろう。何故ならトリスやホルスの様な、見ず知らずの怪しい人間の頼みを聞いてこんな所まで来てくれるお人好しが、人質をとられてそれを見捨てるはずがないのだ。

「「…。」」

トリスとホルスはその状況を見ても尚、顔を俯かせて無言でいるため、どんな表情をしているのかが分からない。

「おい!どうした!お前達はこれで終わりなんだ!そこの女の姉を殺されたくなければ、さっさとこちらに拘束されろ!」

「ホルスさん、トリスさん…。」

リアが諦めた表情で、トリス達を見る。が、次の瞬間2人の姿が掻き消える。

「ぐぎゃぁ!?」

「死んで身の程を弁えろ、屑共が。」

「そうだね。予想はしていたけど、ここまで屑だとは。…もう大丈夫だよ。僕達が君達を解放してあげる。」

トリス達は次の瞬間、何と10メートルは離れた位置にいた、リタを人質にとっている男の後に現れると、トリスが軽く男の首の骨を折り、ホルスが力尽きた男から開放されたリタを抱きとめて、優しく話しかける。

「な、何!?」

「馬鹿な!?」

「こ、殺しやがった!」

「ひいっ!」

トリス達の行動に、研究員達は混乱して場は騒然となるのだった。

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