転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第68話 入学前 4

トリス達が料理に舌鼓を打っていると、冒険者達の数が段々と増えてきた。

「大盛況だな〜。」

「魔物は人類の敵ではあるけれども、こういった点では恩恵も受けていると言えるよね。なんか複雑な心境だけど。」

魔物は人を襲うが、それらを討伐する必要があるため多くの人が冒険者になる。そのため、魔物の多い地域では人が集まり、一攫千金を狙って命を懸けた討伐へと赴くのだ。そうなればその地域の街は産業が発展し、また、討伐するために強い武器や防具が必要となり、その結果多くの人員や金が動くこととなる。
結局のところ地球で言う国の敵が、人間から魔物に置き換わっただけである。

「ま、まぁ持ちつ持たれつってやつじゃないか?いや、違うか。何方かと言えば、『人間の歴史とは戦争の歴史である』みたいな感じ?」

「お、後の格言みたいなものの方が的を射ているね。」

「要するに、魔物や魔族っていう脅威が無ければ、相手が人類に変わるってだけの話だね。」

なんとも救いようのない発言に、ホルスは苦笑いをする。毎度の事ながら、ヘタな貴族よりも良いことを言うトリスに、ホルスは言う。

「それでも、魔物は一定程度は殲滅しないとね。将来的には管理出来れば御の字なんだけれど。」

「管理ね〜。ちょっと非現実的だけど、言いたい事は分かるよ。やるなら一国を1つの大きな壁で覆うとか、そんなレベルじゃないと無理だよな。」

トリスの全力を以てしても面倒くさい・・・・・事を、何も考えずに言う。するとホルスはその言葉に反応して呟く。

「国を覆う壁…。王都の巨大な壁。あれをやった人物に頼めばいけるか?」

トリスになら出来ない事もないが、たった1人の力でそんな事をしてしまうのは、色々と面倒事が付随してくるため、全力で危うい流れを斬る。

「ま、それは兎も角、後30分くらいで講習が始まるな。」

「あ、うん、そうだね。…さっきの受付の人に言えばいいんだっけ?」

あの無表情を思い出し、ちょっと震えながら確認するホルス。どうやらあの視線がよっぽど堪えたようだ。一部の特殊性癖持ちなら喜ぶであろうが、残念ながらホルスにはなかったようだ。

「まぁ、それは置いておいて。…さっきから嫌な視線を感じないか?」

「感じるね。欲望に満ちた嫌な視線だね。」

トリスとホルスは渋い顔で頷き合う。と、そこにアホがやって来た。

「おうおう!お坊っちゃん達!ギルドに何か用か?」

ニタニタといやらしい笑みを浮かべて話しかけてくる冒険者。下衆を見る目でその冒険者を見ているのが一部居るが、その他はニヤニヤとしているのみで、周りには助けが求められそうにないため、仕方なくトリスが応対する。

「えぇ。自分達は新参者でして、初心者講習を受けようと考えています。」

「あぁん!新参者!?おいおい!お坊っちゃん達は冒険者なのか!?そんな弱っちい体で何が出来るんだ!?」

一々高圧的に言ってくる冒険者だが、トリスは全く動じずに落ち着いて返答する。

「ですので、これから基礎訓練を「おい!冒険者を舐めんじゃないぞ!」…はい?何でしょう?」

丁寧に説明しようとしたが、冒険者の男に遮られて笑顔で首を傾げるトリス。しかしよく見ると全く目が笑っていない。対面にいるホルスは俯いて表情が見えないが、肩が震えている。どうやら手を出してはいけない人物にちょっかいを出してしまった冒険者に、思わず笑いが堪えきれないようだ。

「あぁ!何笑ってやがる!余裕そうにしてるんじゃねぇぞ!相方なんて恐怖で震えてるじゃねぇか!」

どうやら自身の都合の良い風に捉えた冒険者は、どんどん図に乗ってきて、直接的な言い方となってきている。

「別に恐怖じゃないと思いますけど?なぁ、ホルス?」

トリスが声をかけるとホルスは顔を上げ、遂に堪えきれなくなったかのように笑い出す。

「…アハハハハ!何この人!自ら死地に飛び込んで来てるよ!以前トリスが言っていた、『飛んで火に入る夏の虫』とはまさにこの事だね!」

「な!恐怖で気でも違ったのか!?それとも舐めてんのか!?」

「「どっちかと言えば舐めてますね。」」

唖然とした冒険者が叫んだ疑問に、トリスとホルスで答えてやる。するとよっぽど馬鹿にしているのが伝わったのか、顔を真っ赤にしてぶるぶると震え出す。

「何の騒ぎですか!」

そこに先程の受付嬢が騒ぎを聞きつけて駆け付けてくる。そしてトリスとホルスの姿を確認すると、ため息ついて一言。

「はぁ、また貴方達ですか。」

その言葉に、トリスとホルスは立ち上がって抗議する。

「「いやいや!『また』って何ですか!?俺(僕)達特に騒ぎを起こした事無いですよね!?」」

自身を無視して行われた会話に、とうとう怒りが堪えきれなくなった冒険者が、いきなりトリスの後頭部を掴むとそのまま机に叩きつける。

「トリス!?」

ホルスの悲鳴に近い声が、ギルドに響き渡るのだった。

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