転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第57話 あっという間に試験日です

学園都市に到着してから4日後、いよいよ試験当日がやってきた。その間ローゼマリーがレンバッハ家にやって来て予行練習をしたりなどやる事はあったものの、これといったイベントも無く平和に過ごしていた。
この世界では、暦が地球と全く同じであるという何やら神の作為を感じるが、兎に角、学校は4月頃から新学期がスタートする。そのため試験も自動的に地球と同じ時期に行われることとなる。この辺りには四季はあまりないのだが、やはり1年でも少し寒さを感じる時期であり、ちょっと厚着をした多くの子供たちが試験会場となる各学校へと向かう事となる。
各学校では試験料を払い、市民証を提示してから自身の番号を貰ってから会場内に入って待機する。
この流れでは、人気のある1つの学校に集中してしまい倍率が高くなってしまうのではと思われるかもしれないが、試験料が馬鹿高いためそんな事にはなり得ないのだ。毎年各学校の倍率は安定しており、落ちる人もそんなには居ない。また多いとはいっても人口が人口であるのでそんなに大した人数は受験せず、寧ろキャパ的には1.5倍は学べるような学校も多いので二次募集も充実している。
だがそんな事には関係なく毎年定員の4倍近く集まる学校がある。それはエコールにおいて圧倒的な実績と実力を誇るトゥール学園である。
という訳でトリスとホルスは人混みで押しつぶされそうになっていた。

「人が多い!満員電車か!?」

「うっ!キツい!」

朝9時半に開始される試験に間に合うよう、7時半には屋敷を出てきた2人であったが、トゥール学園に馬車で向かうとそこはもう地獄であった。開門は8時からであるのに、トゥール学園の門の前は人で埋め尽くされており、もはや身動きすら許されない状態なのだ。

「ちょ、ちょっと外れてあっちの方で待ってようぜ。」

「う、うん。」

何とか苦労して人混みから抜け出すと、トリス達は道のわきにある石に腰掛けて一息つく。

「ふぅ〜。人多すぎだよな?」

「うん。僕達とは違って保護者が来ている人も多いし。」

「あ〜、成程。実質受験者の3倍は居ると見ていいのか。ったく、試験前に体力使い果たす奴とか居るんじゃないのか?」

トリスは苦笑いしながら言う。

「確か毎年救護班が門の近くに居るらしいよ?熱気に当てられたり押しつぶされて怪我した人を速攻で光魔法で回復させるみたい。あ、ほらあそこ。」

ホルスが説明の途中で何かに気づいたようで、人混みの外れの方を指さす。
トリスがそちらを見ると、受験生と思しき少年が倒れていた。それを見て助け起こそうとトリスが向かおうとした時、白い服を来た3人の男達が疾風のような速さで駆けつけ、あっという間に意識を取り戻させていた。そしてその少年が問題無く立ち上がると、すぐさま無言で次の患者の所へと消えるのだった。

「…すげぇーな。というか倒れたあの少年が帰らない所が、また恐ろしいわ。」

「あはは。まぁ一生に1度きりしかここの受験のチャンスは無いからね。おめおめと試験も受けずに帰る訳にはいかないんだろうね。」

見ると倒れていた少年は握りこぶしを作り、また元気に人混みに突撃するのだった。

「いや、何で突撃するんだよ!そのまま外れで待ってりゃあいいだろうに。」

「何でだろうねぇ?人間、危ないって分かってても人混みには紛れたくなるんじゃないの?」

「んな訳あるかい!というか普段は俺がボケだろ!?何で俺がツッコミ入れてんの!?」

「さぁ?」

そんなやり取りをしていると、時間になったようで門が開き、人々がダッシュで中に入っていった。

「ねぇ、皆アホちゃうの!?バーゲンじゃないんだから、焦る必要無いだろうに!」

「おぉ!今日もトリスのツッコミはキレッキレだね。ところで満員電車とバーゲンって何?」

「今更かい!…満員電車ってのは俺の親が言ってたんだけど、満員の馬車の事みたいだな。で、バーゲンはこれまた親が言ってたんだが、お店で限定の商品が安く売られる事らしいぞ。」

思わず口に出てしまった言葉は取り消せないので、ちょっと考えて当たり障りの無い解答を心がけてホルスに伝える。

「ふ〜ん。何か変わった事を言う人なんだね、トリスの両親って。」

「ま、まぁね。…おっと!それよりも早く行かないと!」

トリスはこの話から遠ざけるためにホルスを急かす。

「あ!まぁでも受付も混んでるだろうから、ゆっくり歩いて行こうよ。」

「そうだな。」

しかし焦る必要も無く話題は変わったので、2人はゆっくりと歩を進めるのだった。

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