転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第39話 現状確認

「2人とも、落ち着いてください。」

ワタワタと慌ただしく喋るニーナとマックスを、ローマンが必死に宥める。ギルドマスターとしてはっきりと事情を確認し、的確な指示を出さねばならないという使命感からか、どこか凄味のようなものを感じる。
2人ともそれを感じたのか、申し訳なさそうにしながらも深呼吸を繰り返して何とか落ち着きを取り戻す。

「「すぅ〜、はぁ〜…。」」

「落ち着きましたか?」

「は、はい…。」

「す、すまんな…。」

「まぁ、いいですけど。それで、一体今は何が起こっているんですか?」

落ち込んだ様子の2人を見て、ローマンはその空気を払拭するように話題を変える。まぁ、本題ではあるので全く問題は無いのだが。

「恐らく一番事情に詳しいと思う俺から話すぜ?」

マックスの話では、昨日の夜明けに深淵の迷宮から突如として魔族の大軍が出てきて、集落を次々と落としながらまっすぐこの王都に向かってきているとの事だ。深淵の迷宮の衛兵が報告のため早馬を走らせて、漸く今この王都に辿り着いたらしい。
また、今朝方無限の迷宮からも魔族が現れ、同じように侵攻を始めているとの事だ。こちらは同じく衛兵が配備されていた早馬を乗り継いだため比較的早く報告が出来たのだが、偶然か何かは分からないが深淵の迷宮からの早馬とほぼ同時刻に辿り着き、余計に混乱を齎しているようだった。

「…やられましたか。どうやら敵は我々を挟み撃ちにするつもりのようですね。敵の内訳はどのような感じですか?」

「…それが、どちらの魔族の集団もほぼ同数の3種類の魔族がいるらしいぞ!その数なんと合計10万は下らないそうだ!」

その圧倒的な数にローマンは顔を手で覆ってしまう。

「確か王都の人口が近年10万人を越えたところでしたよね…。兵力に関して言えば騎士は凡そ1パーセントの1500人。冒険者は下のランクまで総力を挙げても400人ほどですね。合計1900人がこの王都を守るための戦力ですか…。戦力差50倍って一体どうすればいいんですか!?」

ギルド内にローマンの叫び声が響き渡る。ニーナとマックスは完全に顔を青ざめさせている。蹂躙される運命しか見えないので、それは仕方なの無いことであろう。
しかしここにはありとあらゆる面で『規格外』が居ることをお忘れだろうか?

「…成程。ちょっと行ってきますね。」

「え?行ってきますって、何処にですか?今更逃げても遅いと思いますが?恐らく魔族は王都から10キロ圏内に居るでしょう。」

トリスが逃げようとしていると勘違いしたのか、ローマンは睨みつけながら問い詰めてくる。

「?逃げませんよ?ちょっとレベル上げ目的で魔族を数百体仕留めて来るだけです。『転移テレポーテーション。』」

『コンビニに行ってくるわ』とでも言う風にサラッととんでもない発言をされたローマンは唖然としつつ、トリスが転移テレポーテーションにより掻き消えるのを見送るしかなかった。他の2人もトリスが突然消えた事に驚き、口を開けてポカンとしている。

「か、彼は一体何者なんですか!?」

思わず叫んでしまったローマンの問に答える者はこの部屋には居らず、ギルド中に響き渡るだけとなってしまったのだった。


メニューのマップにより、比較的近くに居た無限の迷宮方面に居る魔族の集団から数キロ離れた場所に転移をした。
本来転移魔法は、1度行ったことがある場所しか転移出来ないという、在り来りな制限があるのだが、トリスはマップ見て明確に位置を決めれば自由に転移出来ることが判明していたのだ。その際、多少の・・・高さの誤差はあるのだが。

「お〜、随分と絶景だな〜。」

トリスは現在500メートル程の高さに居た。高さの誤差を知っているトリスは、転移した瞬間に無属性の上級魔法重力操作グラビティと風属性上級魔法の飛行フライを発動させておいたのだ。魔法については文字通りなので説明は省かせていただく。
その昔まだ地球に居た頃、中国の三国志にハマっていたトリスは、軍勢において兵力が10万を超えるのは当たり前という感覚を持っている。そのため魔族の数を聞いた時は別に何とも思っていなかったのだが、こちらの兵力を聞いて流石に唖然とした。一人十殺どころでは無い戦力差など、戦争を始める前から結果は分かりきっている。いかに天才軍師であろうとも勝ちを得ることは出来ないだろう。
そのためトリスは、自身のため出張ることを決めたのだ。だがそのためには、圧倒的に自身の魔力が些か心許ないのだ。よってレベルアップを図ることを兼ねて偵察に来たという訳だ。

「さて、魔族は…。あっちか。…もう少し高度を下げるか。」

あまりに高度が高かったため、木々に隠れて魔族の様子が上手く見れなかったので、トリスは幾らか高度を下げる。

「おぉ。魔族ってあんな感じなのか!思ったよりも人型っぽくなくて良かったよ…。」

トリスの視線の先には、明らかに人や通常の動物とは違う異形の存在が居た。どうやら彼らは先行部隊のようで、昆虫型と思しき魔族が中心となって5,600体が行軍していた。

「よし…。」

トリスは気合を入れると、彼らの進行方向とぶつかる場所に降り立つのだった。 

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