転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第35話 腹の探り合いは面倒ですね

ギルドから宿屋に戻ったトリスは、再び対話インター・アクティブによりアリアーヌに連絡をとった。
そして問題が無いことを確認してから、ベッドの上で寝転がりながら収納インベントリーから取り出した本を読んで夕食までの時間を潰す。今の時間帯は王都の外から帰還してくる冒険者達で街は賑わい、あまり人混みが好きではないトリスは外に出づらいのだ。
そんなこんなでどうにか時間を潰したトリスは、夕食を運んできたレベッカと仲良く話しているのを冒険者達に見られて、敵意の篭った目線で睨まれるという些細なイベントをこなしてから、眠りにつく。
トリスはまだ、ギルドマスターに目を付けられてしまったことを知らない。


翌朝、トリスはギルドに行く前に街を探索する事にした。別に地図でどこに何があるかは分かるのだが、実際に目で見て覚えた方が良いと考えた事と、中世風の街並みを見るのは現代日本に生きていたトリスには新鮮な事であるからだ。
トリスは市場付近を重点的に練り歩く。呼び込みの声がまるで熱量をもったかのように熱気となってトリスに襲いかかる。衛生面的に屋台の料理はどうかと思うので、雑貨を中心に冷やかし、気に入った物や気になる物を買っていく。どうやら値切りが基本であるようで、言い値で買おうとしたらキョトンとした顔を店主にされ、挙句に大笑いされてしまった。

「おいおい、兄ちゃん!アンタ田舎モンかい!?もの知らないと悪い奴らに酷い目にあわされるぜ?」

「う。返す言葉もありません…。ここは一つ哀れな田舎者の門出祝いとして店主さんが御教授してくれませんか?」

「しょうがねぇな!この間兄ちゃんと同じような格好した男が、迷惑者をとっちめてくれたらしいから、その誼で俺が教授してやろうじゃねぇか!」

店主曰く、態々高く値段設定しているのかわけがあるらしい。不勉強者や余所者は物価を知らず、店側としても市場価格より高く売れる可能性があるのであればそれだけで儲けものなのだ。また一種の慣習のようなものであり、値切り交渉の際の話術や胆力を楽しみ、また会話をして客に自身の店を印象づけるのが目的でもあるそうだ。

「という訳だ!覚えておけよ!」

「はい、ありがとうございます。じゃあこれとこれを買っていきます。」

トリスは言われた事を念頭に値切り交渉をし、何とか3割引に留めることに成功した。

「俺の話をよく聞いていたみたいじゃないか!でもまだまだだがな!ガハハハハ!」

トリスはチップとして言われた値段にプラスして銅貨1枚多く店主に渡す。

「ん?ちょっと多いぞ?」

「えぇ、態とですよ。店主さんにはお世話になりましたし、今後もこの店で買うつもりですから、その時に幾らか甘く値段設定してくれればなと思いましてね。」

「そ、そうか。俺はてっきり教えてもないことをしてきたから、今まで素人のフリをしてきたんじゃないのかと思ったんだが。兄ちゃん案外筋がいいかもしれんぞ?」

「そうですか?ありがとうございます。でも店主さんに教えてもらわなければ、ぼったくられまくってましたけどね。」

次にトリスはスキルの芸術神に含まれる『交渉』を意識して買い物をしてみる。
すると拍子抜けするくらいにあっさりとこちらの言い値で買えるのだ。下手したら原価を切っているのではないのか?と疑ってしまうほどだ。

-これは流石に悪いかな?まるで俺の言うことに疑問を持たないとか、逆に怖いわ。よし、封印決定!-

幸い、スキルを意識しなければ何故か効果が出にくいので、生活に支障はないだろうと思われる。
そんなこんなで時間を潰したトリスは、正午前にギルドへと向かうのだった。

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