転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第34話 やばい人に目を付けられました

「ガッハッハッ!!完全に俺の負けだな!ここまで手も足も出せなかったのは、久しぶりだぜ!」

暫く呆然としていたマックスだったが、急に笑い出した。トリスは気が狂ったのかと思ったが、どうやらあまりに呆気なく最高の一撃が破られた事に、寧ろ嬉しさを感じているらしい。

「なぁトリス。さっきの魔法は初級魔法なんだよな?」

「ええ、そうですよ。それがどうかしましたか?」

マックスは真面目な顔になって聞いてくる。

「トリスは中級魔法より上は使えるのか?」

「今のところは上級までしか試してませんね。それ以上だと、天変地異とか起こしそうで怖いんですよ。」

「ほ、ほう。それは凄いな。それに加えてあの体術か。誰か有名な者に師事していたのか?」

「いえ、特には。体術に関しては村の爺さんからで、魔法は独学ですね。」

「「「え?」」」

何故か、蚊帳の外になっていた2人も同じように声を揃えて驚く。

「お前さんはさ、宮廷魔術師にでもなった方が安定して収入を得られる分良いんじゃないのか?」

マックスは訝しげにトリスに問うてくる。どうやら変人扱いをされているようだ。トリスは『心外だ』とばかりに反論する。

「ほ、ほら。冒険者って憧れるじゃないですか。で、自分にはそこそこ・・・・その憧れを実現できる力があります。」

「お前の力がそこそこなら、俺は赤子も同然だ!」

トリスの言い回しに、マックスはついツッコミを入れてしまう。

「まぁそれは兎も角、アホだ何だと思われようと自分の夢を優先させたって事ですよ。」

「はぁ〜。成程な。にしてもトリス。お前が本気で戦ったらギルドなら即消滅しそうだよな!」

マックスは冗談めかしてそう言う。だがトリスは真面目に答えてしまう。

「まぁ、そうですけどね〜。実際10キロ先まで氷漬けにしたことがありますし。」

「「「え?」」」

「え?あ、あぁ、冗談ですよ、勿論。」

トリスは慌てて誤魔化す。
だがそんな事では彼らの疑念は消えないようだ。

「いやいや!冗談にきこえなかったぞ!」

「はい、確かにガチトーンでしたね。」

「彼を全く知らない私からも、冗談とはとても思えない言いぶりでしたね。」

「まぁまぁ。冒険者の手の内は探るもんじゃありませんよ?…まぁ、痛い目にあいたいなら構いませんが?」

トリスは威圧をたっぷり込めてそう言い放つ。すると3人は顔を青ざめさせて、話題を急に変えてくる。

「そ、それはそうと、トリスは昇格試験は合格だよな?」

「え、ええ。戦闘は言わずもがな分かると思いますが、筆記に関してもパッと目を通した感じは大丈夫そうでしたしね。結果は明日の正午に通知されるので、それ以降にギルドに来て頂ければ大丈夫ですよ。」

「はい、分かりました。では、また明日来ますね。」

トリスはスタコラと練習場をあとにする。それをぼーっと見送っていた3人だが、慌ててギルド長に報告しに動くのだった。因みに神官風の男性は別にギルドの人間という訳では無いので、そのまま教会へと帰って行ったらしいが。


『ドンドンドン!』

「失礼します!」

ギルド長のローマン・ヴァルプルギスは、焦った様子で執務室に入って来る受付嬢のニーナに、少し不愉快そうに眉を顰める。

「そんなに慌ててどうしました?おや?マックスも一緒ですね?」

ローマンは、いつもは豪快に笑っているマックスが深刻そうな顔付きをしているのを見て、意外そうに言う。
その発言に、待ってましたとばかりにマックスは叫びだす。

「それがだな!聞いてくれよロー!」

「聞くから落ち着いて喋ってくれ。それと呼び方が昔と同じようになってるぞ?」

ローマンは昔、マックスとパーティを組んで冒険者をやっていた事があるのだ。しかし斥候兼弓による後方支援役であったローマンは怪我により上手く動けなくなり、引退してしまったという過去があるのだ。
それはさておきローマンの指摘で幾らか冷静さを取り戻したマックスは咳払いをしてから説明を始める。

「成程。そんなことが。魔法の多重展開に無詠唱。それに最低5つは属性が使えると。加えてマックス以上の身体能力と身のこなしか…。」

マックスからの説明とニーナの補足を聞いたローマンは、目を瞑り顎に手を当てて考え始める。
その間マックスとニーナは大人しく無言で待つ。こうなるとローマンは長いのである。
だが今回はそこまで長くはなく、2、3分で目を開いてニヤリとしつつも言う。

「面白いな…。よし、ニーナさん。今度彼が結果を聞きに来た時にここに通してください。面接をしたいと思います。場合によってはBランクまで上げるかもしれませんね。」

「それは本気なのですか!?」

「おいおい。前代未聞だな。」

普通ではありえないローマンの言葉に、2人は驚いてしまう。Bランクというのは、それだけ重いものなのだ。

「ふふふふ…。会うのが楽しみですね〜。」

不気味に笑うローマンを見て、トリスも厄介な奴に目を付けられてしまったなとマックスとニーナは憐憫の情を抱くのだった。

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