転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第28話 初・体・験(お酒です)

『ドンドン』

トリスは扉を叩く音に目を覚ます。

「はっ!?」

辺りを見回すと、部屋に設置されている窓からはすっかり夜になってしまった街並みが確認できた。

『トリスさ〜ん。起きてますか〜?夕食の御用意が整いましたので、お運び致しました〜。』

扉の向こうから、若い女性の声が聞こえる。その声にトリスは、『どんだけ寝てたんだ!?』と驚愕する。

「は、は〜い。今開けます。」

何とか声を絞り出すと、トリスは部屋のドアを開ける。
すると扉の前には15、6歳の少女が食事の乗ったお盆を持って立っていた。

「はい。こちらが本日の夕食となっています。お食事が終わりましたら、扉の横にお盆を置いておいてください。」

「はい、分かりました。」

トリスはお盆を受け取り、部屋の中へといそいそと引き返す。
漸く落ち着けるとトリスはベッドに腰を下ろし、メニューで時刻を確認する。時刻は19時半を回っていた。元々トリスは冒険者登録を終えた後は、アリアーヌと中級無属性魔法の対話インター・アクティブにより連絡を取る予定だった。対話インター・アクティブとは、離れた相手と会話が出来るという魔法だ。会話出来る距離は、使用者の魔力量と技量に依存する。
そんな魔法を使い、現状報告と影分身ドッペルゲンガーによるアリバイ作りが上手く出来ているかを確認するはずだったのだ。
アリアーヌとの約束の時間から大幅に遅れてしまったトリスは、胃を抑えながらも魔法を行使する。

《もしもし。アリアーヌさん。その、遅れてしまってすみません。》

《!何だトリスか。あんまり驚かせるな。なに、問題は無い。お前の影分身ドッペルゲンガーは本当に優秀だな。本物と言われても私でも気付かんかもしれないぞ。》

その言葉にトリスはホッとする。

《という事は上手くいっているという事ですね?》

《あぁ、大丈夫だ。お前は思う存分冒険を楽しむと良い。》

《はい、ありがとうございます。では、おやすみなさい。》

《うむ。》

トリスは魔法を解除する。

「ふぅ。失敗してたら目も当てられなかったぞ…。運の良さに感謝だな。」

トリスは勢い良く寝転びながら天井を見上げる。

『ぐぅ〜』

そんなトリスのお腹が盛大に音を立て、思わず吹き出してしまう。

「ぷっ!そういえば昼から何も食べて無かったな〜。さて冷めないうちに頂こうか!」

トリスはベッドの脇に備え付けられた机に置いてあるお盆の上を見る。
パンに具沢山のシチューのようなもの。それに何の肉かは分からないがサイコロステーキ。そして果実酒が乗っている。

「うん。美味しそうだ。では、いただきます。」

トリスは両手を合わせて食事にとりかかる。

「おぉ!これは美味しい!たまにはこういう質素な・・・食事も良いな!」

すっかり王族の生活に慣れたトリスは、一般的な宿にしては比較的豪華な食事を質素と言い切りつつも掻き込む。

「そして、酒だ!まさか異世界に来てから酒を飲むようになるとはね!」

前世においては比較的真面目で、且つチキン出会った彼は、未成年のため酒は飲んでいなかったのだ。
そのためトリスにとってはこの果実酒が初めての酒なのだ。
すっかり食事満足したトリスはお盆を下げ、ベッドに横になる。そしてそのまま今度こそ、朝までぐっすりと眠るのだった。

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