転生王子は何をする?

血迷ったトモ

第20話 商談をしよう 1

トリスの突然の発言に、グレゴールは呆気にとられて固まる。

「しょ、商談?君は今商談と言ったのかい?」

「?ええ、そうですけど。」

「しかしいきなりそんな事を言われてもね。君はご両親とここに来たのかい?」

どうやらグレゴールは、トリスをあくまでも子供として扱うようだ。しかしトリスはそうはさせまいと反論する。

「いえ、1人で来ましたが?それと気付いて下さいよ。先程まで誰も居なかった所から急に現れたんですよ?それにいきなり魔法も発動させてますし。どう考えても普通じゃないですよね?」

「た、確かに言われてみれば。となると君は私の暗殺でも命じられたのかな?」

「だからさっきから言ってるじゃないですか。『商談をしませんか?』と。暗殺をしたいのならば、私はこうしますが?」

トリスはそう言うと同時に収納インベントリーから、投げナイフ(マルティナを襲っていた男達から奪った)を取り出して、持ち前のステータスで座っているグレゴールに一気に近付いて、その首筋にナイフを当てる。

「と、まぁこのように簡単に出来ます。ですので騙されたと思って話だけでも聞いてもらえませんか?」

「…あ、あぁ分かったよ。…どうやら私は君に一切の生殺与奪を握られているようだね。」

トリスの実力を見て、どんなに抵抗しても無駄であると判断したのか、逆に冷静になった。

「はい、そうして頂けるとありがたいですね。対人戦はつい先程初めて行ったので、上手く手加減が出来ないかも知れませんし。」

その言葉に戦慄を覚えたグレゴールは、あまり深く突っ込まないことにして、トリスに話を促す。
こういう切り替えの速さが、一代で大幅に業績をアップさせることが出来た理由なのかもしれない。

「それで、儲け話というのは一体どういうことなんだい?」

「ええ、ではとても大掛かりなものと、そうでもないもの、どちらが先がいいですか?」

トリスは選択肢を提示する。
別に提案したいものが2つだけであるわけではないが、何となく選ばせたくなったのだ。

「じゃあ大掛かりな方でよろしく。」

グレゴールは迷いもせずに言う。
するとトリスはローブの下でニヤリと笑う。

「分かりました。では紹介する前にこれを付けてください。」

そう言って指輪を一つ差し出す。

「これは?」

当然の質問を行うグレゴール。

「これは空気調整エアー・コンディショナーが付与されていて、周囲の空気の状態を一定に保てるようになっている魔道具マジックアイテムですよ。水中だろうが真空だろうが、どこであろうとです。」

その説明にグレゴールは少し固まったが、すぐに復活して食い付いてくる。

「…え?コレの性能を売りにしたいわけかい?というか売ってくれ!!」

「ちょ、待ってくださいよ!別にこれは売るつもりはありません。これと似たような物ならこの後提案するつもりですよ。」

「そうか…。残念だけど今は我慢しよう。で、次はどうするんだい?」

「…そうですね。では『ちょっと留守にする』と机の上に書置きでもしておいて下さい。」

トリスは紙とペンを取り出し、グレゴールに渡すとそう指示する。

「わ、分かったよ。ということはどこか外に出るのかい?」

「ええ、ちょっと遠出しますね。でも10分もしないうちに帰って来れるので大丈夫でしょう。」

そう言ってトリスはグレゴールが書き終えるのを待つ。
十数秒後書き終わったグレゴールは言う。

「じゃあ、行こうか。普通に一階から出るのかい?それとも窓から?」

「いえ、そのどちらでもありませんよ。取り敢えず私の肩に触れて下さい。」

「?分かった。言う通りにしよう。」

グレゴールは首を傾げつつもトリスに従い、その肩に触れる。

「じゃあ、この後何が起こっても騒がないで下さいね?魔物に襲われかねないので。まぁ襲ってきても私が対処するんで大丈夫ですけどね。」

グレゴールは頷いて、肯定の意を示す。
それを見てトリスは頷きながら言う。

「では行きますよ?『転移テレポーテーション』!」

トリスの発したキーワードに、グレゴールは大きく目を開いて叫ぶ。

「な!転移魔法!」

だが次の瞬間、グレゴールは更に信じられない光景を目にすることになる。
なんとトリスが転移した先は海底だったのだ。

「…。」

今度こそ完全に固まってしまったグレゴールを見て、トリスは溜息をつきながら放置することに決めたのだった。

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