本物は誰だ

桜井かすみ

入学

本体争いの場所は、学校だった。
私が目覚めたこの部屋は、多分、この学校の寮だった。
一番不憫な十号。私は、外の世界を知らないままここに生み落とされる。他の偽物はどんな人生を歩んでいたのだろうか。
 十体目が生まれた瞬間に、この闘いがはじまるということは、私は何も知らないまま、この本体争いに参加させられてしまうのだ。
 そんな私を生み出してしまった本体は、どれだけつらい人生を送ってきたのか。
そんなに死にたいのなら、いっそ偽物になって寿命を縮めてしまえばいいのに。
そう思いながら、私は自分の存在を受け止めるしかなかった。
 机の上の誓約書は、この学校へ入学するための書類だった。
十号という字と、私の薄っぺらい指紋。馴染みもない、ちょっと乾燥している指先。こんなもので、自分を証明してしまえる。
 もう何もかもが、理解すること、受け止めること、それが精一杯でしかなかった。


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