混じり《Hybrid》【新世界戦記】
療養 2
「あんたは本当にそれで良いのかい?」
「はい。義手は俺達カクトメスト人の使う気との相性は良くないですから」
「そうかい。まあ、あんたが良いならそれでも良いけどね」
セルヒラードの診察が終わったようである。セルヒラードは左腕の義手の制作を辞退していた。
カクトメスト人の使う気の力は、自然の流れの中で蓄えられる力で、人工物である義手との相性が悪いのである。
フロンの両脚の手術は3日後に決まった。フロンの病室内に、泊まりで看病出来る様にベッドを一つ置いてもらい、テツ達3人は交代でここに泊まる事にした。
病院の近くには宿屋もあり、テツ達は一度病院を離れ宿屋の一室を借りた。話し合いでその夜はリオールがフロンの病室に詰める事に決め、テツとセルヒラードは宿屋で一夜を過ごした。
次の日の朝にはフロンも意識を取り戻した。テツ達は全員で病院に戻り、フロンも含めてもう一度医師達の説明を受けた。
フロンは気丈であった。己の手足が元に戻らぬと説明を受けても、取り乱す事なく冷静に受け止めていた。
「あんたが悪い訳じゃないんだから、下向いてんじゃないわよテツ。その方が余程気が滅入るわよ」
「でも・・・」
「でももヘチマもないわよ。それに義肢っていったってリハビリすれば自由に動かせるんだから、問題ないわよ」
問題ない訳がない。リハビリの苛酷さもたった今、説明を受けたばかりである。
「はははっ、その元気があれば大丈夫だよ。リハビリも厳しくいくよ」
「はい!」
「うん。良い返事だよ」
フロンを元気付けながら、ポーナがテツに耳打ちした。
「強い娘だけど空元気だよ。良い娘じゃないか、あんたが支えてやるんだよ」
小さな声でそう告げた。
「あまり焚きつける事じゃないよポーナ。いいかいフロン、手術後すぐにリハビリ出来る訳じゃないし、リハビリはやり過ぎても効果がない。根気良くやっていくんだ。焦りは禁物だね」
「はい!よろしくお願いします」
ネーナの言う事にもフロンはハッキリとした返事をした。そんなフロンの右手が小さく震えているのをテツは見逃さなかった。
テツは自分が支えなければという気持ちを強くしていったのである。
その日はリオールとセルヒラードはダウアン村に行き、長期入院の為に必要な物を揃える事になった。グリード氏への連絡も同時に行う。
テツはフロンの看病に残るついでに、病院の周囲にある商店等について、確認しておく事になった。
そしてその晩はセルヒラードがフロンの病室に詰める事になっている。
夜になりテツとリオールは宿屋に戻っていた。リオールがテツに今後の事について、ゆっくりと話し始めた。
「お嬢様の療養は、リハビリも含めればこの先何年もかかる事になるわ。テツ君は一度、一人で先に領主様の元に訪れた方が良いと思う。出来れば出発も早い方が良いわ」
「えっ!いや、それは」
突然のリオールの提案に、テツは目を丸くした。
「今のお嬢様を見る君の目は沈んでいるのよ。お嬢様がおっしゃっていた様に、お嬢様の怪我は君の責任ではないわ。でも君は誰に何を言われても、自分を責める事を止めはしないでしょう」
「・・・はい」
「それは君にとっても、お嬢様にとっても決して良い事とは思えないわ」
「それにね、テツ君には気分転換が必要よ。今の君は口数も少ないし、前の君と比べると全体的に暗くなっている感じがする」
「そ・・そんな事は」
「あるわ!」
リオールはキッパリと断言した。そして少し厳しい目つきになって話しを進める。
「君は今、お嬢様と一緒にいるべきではないのよ。今は君にもお嬢様にも時間が必要だと思う」
「テツ君の力なら、一人で旅を続けても問題はないでしょう。旅を続ければその時々でやらねばならない事があるから、余計な事を考える時間が減るし、冷静にもなれると思うわ」
「・・・・・」
「お嬢様の世話には二人いれば問題ないし、お医者様もいるのよ。テツ君に出来る事があるわけでもないでしょう」
「さっきも言った様にお嬢様の療養は何年も続く、いつまでかかるかもわからないわ。君には君のすべき事を終わらせて、今後の事も考えて戻ってきて欲しいと思う」
「・・・今夜一晩考えてみます」
「そうしてくれる。今晩だけはもう一部屋借りましょう。一人でゆっくり考えてみて」
「そうします」
「考え込んではいけないわよ。あくまで今後の君やお嬢様にとって、どうする事が良いかを考えてね」
そう言ってリオールは宿屋の受付に行って部屋を取った。幸い隣の部屋が空いていて借りる事が出来た。
「私ももう一度、今後の事に関して考えてみるわ。おやすみなさいテツ君」
「はい。色々と心配させてごめんなさい。おやすみリオールさん」
リオールは部屋を出て、隣の部屋に入っていった。一人になったテツは、リオールに言われた事を噛み締めていた。
「今後の事か・・・」
独り言が口をついた。リオールに言われた事は大切な事であった。
再構築から10年。必死に生きてきた人々に、先の事を考える余裕などなかったのである。何年も先の事まで考える事などテツにとっても初めての事であった。しかし今考えなければならない最も大切な事柄であった。
夜は更けていく。テツは考え続けていく。何よりもフロンの為に・・・。
「はい。義手は俺達カクトメスト人の使う気との相性は良くないですから」
「そうかい。まあ、あんたが良いならそれでも良いけどね」
セルヒラードの診察が終わったようである。セルヒラードは左腕の義手の制作を辞退していた。
カクトメスト人の使う気の力は、自然の流れの中で蓄えられる力で、人工物である義手との相性が悪いのである。
フロンの両脚の手術は3日後に決まった。フロンの病室内に、泊まりで看病出来る様にベッドを一つ置いてもらい、テツ達3人は交代でここに泊まる事にした。
病院の近くには宿屋もあり、テツ達は一度病院を離れ宿屋の一室を借りた。話し合いでその夜はリオールがフロンの病室に詰める事に決め、テツとセルヒラードは宿屋で一夜を過ごした。
次の日の朝にはフロンも意識を取り戻した。テツ達は全員で病院に戻り、フロンも含めてもう一度医師達の説明を受けた。
フロンは気丈であった。己の手足が元に戻らぬと説明を受けても、取り乱す事なく冷静に受け止めていた。
「あんたが悪い訳じゃないんだから、下向いてんじゃないわよテツ。その方が余程気が滅入るわよ」
「でも・・・」
「でももヘチマもないわよ。それに義肢っていったってリハビリすれば自由に動かせるんだから、問題ないわよ」
問題ない訳がない。リハビリの苛酷さもたった今、説明を受けたばかりである。
「はははっ、その元気があれば大丈夫だよ。リハビリも厳しくいくよ」
「はい!」
「うん。良い返事だよ」
フロンを元気付けながら、ポーナがテツに耳打ちした。
「強い娘だけど空元気だよ。良い娘じゃないか、あんたが支えてやるんだよ」
小さな声でそう告げた。
「あまり焚きつける事じゃないよポーナ。いいかいフロン、手術後すぐにリハビリ出来る訳じゃないし、リハビリはやり過ぎても効果がない。根気良くやっていくんだ。焦りは禁物だね」
「はい!よろしくお願いします」
ネーナの言う事にもフロンはハッキリとした返事をした。そんなフロンの右手が小さく震えているのをテツは見逃さなかった。
テツは自分が支えなければという気持ちを強くしていったのである。
その日はリオールとセルヒラードはダウアン村に行き、長期入院の為に必要な物を揃える事になった。グリード氏への連絡も同時に行う。
テツはフロンの看病に残るついでに、病院の周囲にある商店等について、確認しておく事になった。
そしてその晩はセルヒラードがフロンの病室に詰める事になっている。
夜になりテツとリオールは宿屋に戻っていた。リオールがテツに今後の事について、ゆっくりと話し始めた。
「お嬢様の療養は、リハビリも含めればこの先何年もかかる事になるわ。テツ君は一度、一人で先に領主様の元に訪れた方が良いと思う。出来れば出発も早い方が良いわ」
「えっ!いや、それは」
突然のリオールの提案に、テツは目を丸くした。
「今のお嬢様を見る君の目は沈んでいるのよ。お嬢様がおっしゃっていた様に、お嬢様の怪我は君の責任ではないわ。でも君は誰に何を言われても、自分を責める事を止めはしないでしょう」
「・・・はい」
「それは君にとっても、お嬢様にとっても決して良い事とは思えないわ」
「それにね、テツ君には気分転換が必要よ。今の君は口数も少ないし、前の君と比べると全体的に暗くなっている感じがする」
「そ・・そんな事は」
「あるわ!」
リオールはキッパリと断言した。そして少し厳しい目つきになって話しを進める。
「君は今、お嬢様と一緒にいるべきではないのよ。今は君にもお嬢様にも時間が必要だと思う」
「テツ君の力なら、一人で旅を続けても問題はないでしょう。旅を続ければその時々でやらねばならない事があるから、余計な事を考える時間が減るし、冷静にもなれると思うわ」
「・・・・・」
「お嬢様の世話には二人いれば問題ないし、お医者様もいるのよ。テツ君に出来る事があるわけでもないでしょう」
「さっきも言った様にお嬢様の療養は何年も続く、いつまでかかるかもわからないわ。君には君のすべき事を終わらせて、今後の事も考えて戻ってきて欲しいと思う」
「・・・今夜一晩考えてみます」
「そうしてくれる。今晩だけはもう一部屋借りましょう。一人でゆっくり考えてみて」
「そうします」
「考え込んではいけないわよ。あくまで今後の君やお嬢様にとって、どうする事が良いかを考えてね」
そう言ってリオールは宿屋の受付に行って部屋を取った。幸い隣の部屋が空いていて借りる事が出来た。
「私ももう一度、今後の事に関して考えてみるわ。おやすみなさいテツ君」
「はい。色々と心配させてごめんなさい。おやすみリオールさん」
リオールは部屋を出て、隣の部屋に入っていった。一人になったテツは、リオールに言われた事を噛み締めていた。
「今後の事か・・・」
独り言が口をついた。リオールに言われた事は大切な事であった。
再構築から10年。必死に生きてきた人々に、先の事を考える余裕などなかったのである。何年も先の事まで考える事などテツにとっても初めての事であった。しかし今考えなければならない最も大切な事柄であった。
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