混じり《Hybrid》【新世界戦記】
殺意 10
『速い!』
凄いスピードで突っ込んできたダビルドが、長い右腕を振り下ろしてきた。ここまでの速さを予測していなかったテツの反応は遅れている。
「スパッ!」
テツは全力で右に横っ飛びしたが避けきれなかった。ダビルドの右手人差し指の爪が、テツの左のこめかみから左目の脇を通って左の頬までをスッパリと斬り裂いた。鋭く伸びた人差し指の爪は、先程の中指の爪とは比較にならない傷跡を残した。
どうにか致命傷だけは回避したテツが、もう一度刀を構え直して、ゆっくりと深く息を吐いた。傷口から出血は止まっている。テツも気の力で出血を止める術を身につけていた。
『これが混じりの覚醒ってやつなのか!』
テツは混じりと言われているが、自分の中に別の力の存在を意識した事はなかった。ただ単に自分の身体能力が他人より高いと言われているだけで、あくまで自分自身の身体能力という認識しかないのである。
しかし、今のダビルドの攻撃には、明らかにテツのものとは異質な力を感じた。ダビルドが自分の中にある別の力を意識的に引っ張ってきて、元々の自分の力にその別の力をプラスして使っている感じがしたのである。
しかし手傷は負ったが、テツはダビルドのその力を体感する事が出来た。次には対処出来る自信がテツにはあったのである。
「よぉくぅ避けたぁなぁ。だぁがぁ次でぇ殺ぉしてぇやるぅぜぃ、テツぅ」
ダビルドの方でも次の攻撃で決める自信がある様であった。必殺の右腕を大きく一回転させながら、自信満々にテツとの距離を詰めてくる。
テツはダビルドの大きな構えとは対照的に、脇を締めて、先程よりも小さな構えに変えている。
両者の距離が縮まる。
【殺してやる】
「うぉがぁあぁあぁあぁぁぁ!」
ダビルドの雄叫びを合図に両者同時に前に出た。
ダビルドは必殺の右腕を、テツは日本刀を振り上げ、擦れ違いざまに両者共にそれを振り下ろした。
「スバッシユッ」
宙を舞ったのはダビルドの右腕の方であった。
【殺してやる】
「なぁんだぁとぉお!」
ダビルドが絶叫した。ダビルドの右腕は肘から見事に切断されている。
【殺してやる】
テツは振り向きざまにダビルドの首に狙いをつける。
【殺してやる】
左に回転しながら刀を水平に振るう。
【殺してやる】
【殺して・・】
【殺すな!】
テツの中に、今までとは別の感情が突然湧き上がった。テツは急遽股を広げて体勢を低くして刀の軌道を強引に変えた。刀はダビルドの右肩から背中にかけてを薄く斬っただけであった。
【殺すな】
「うぎぃいぃいぃあぃ」
テツはダビルドの背後でもう一回転して、ダビルドの右脚を膝から切断した。
【簡単には殺すな】
「なぁんでえぇい、こりゃあぁいぁぁ!」
今度はテツは、右に傾いで崩れ落ちるダビルドの左に廻り刀を振るう。
「ちぃっくしょおぉぉ、なぁんなんじゃあぁあぃ」
ダビルドの左足の足首から先が宙を飛んで、ベランダの柵を越えて、下へと落ちて行った。
【簡単に殺してなどやるものか!】
「うぎゃうぅっ」
右に倒れてバランスを崩したダビルドは仰向けに転がった。その顔面目掛けてテツは指を落とした。ダビルドの両目に右手の人差し指と中指を突き入れて潰し、光を奪う。
「ぐぞぉおあぉ。ぢぐぅそあぁぁ」
立ち上がったテツは、喚き散らすダビルドを横目に、一旦ダビルドの元を離れる。まだ残っている山賊、2人のアース人を始末する為である。
この惨劇を見せつけられて、2人のアース人に戦う気力など残っているわけもなく、我先にと外階段に殺到する。だがテツに容赦する気はない。一瞬で距離を詰めて、2人まとめて一刀の元に斬り倒した。
ホンという男は、相当の見栄っ張りであったのだろう、この男には似つかわしくない大きな斧を武器として携えていた。その斧がテツの足元に転がっている。テツは刀を捨て、この斧を拾い上げた。
「ドガンッ、ガキャン、ガシャン」
テツは手にした斧で外階段を破壊し始めた。その外階段の造りは簡易的で強固には造られていない。こんな手斧でも叩き続ければ破壊出来る程度の物であった。
「ドガラガシャシャアァァン」
外階段と屋上の結合部は完全に破壊され、外階段は4階のベランダへと落ちていった。
「こんな馬鹿な〜、お頭〜」
テツは、多量の出血で声もか細い物になっているジャロンソの元に移動してトドメを刺した。そしてダビルドの元へと戻って行く。
「うごぉおぉおぉ、くぞぉおぉおぉ」
ダビルドはうつ伏せになり、四肢の内で最後に残った左手を突っ立てて蠢いている。
「ダァンッ」
「あぎゃあぁぁぁぁ」
テツはダビルドが突っ立てている左手を、斧を平にして上から叩き潰した。
「いでぇえぇあぇ。殺せぇやぁあ、いぃかぁげんにぃ殺せぇやぁあ」
「うるさいなあ。ちょっと黙れよ」
テツは冷たい声でそう言い放ち、ダビルドの髪を掴んで仰向けにひっくり返した。左手は髪の毛を掴んだまま、右手は拳を握り締め、その右拳をダビルドの喉に叩き落とした。何度も何度も喉を叩き続け、ダビルドの声帯を叩き潰して漸く止まった。
「ぁぁぁ・・ぁ・ぁぁ・・・ぁ」
ダビルドは呻き声を上げる事も出来なくなり、身動きをする事すら諦めていった。目も潰され確認は出来ないが、おそらくその目にも生気は残っていなかっただろう。
「殺さない。俺はお前を殺さない」
小さく冷たい、それでいて穏やかな口調でテツはダビルドに語りかけ始める。
「お前はその姿で生きていけ。自分のやった事を噛み締めながら、惨めに死ぬまでそのままの姿で生きていろ」
そう言ってテツは立ち上がり、屋上の柵から4階のベランダへと飛び降りた。
ダビルドは死ぬ事も出来なかった。彼は傷を負った時に反射的に自らの出血を止めてしまっていたのである。このまま餓死するのを待つか、手探りでベランダの柵をよじ登り、飛び降り自殺を図るかしか彼に選択肢は残されてはいないであろう。
「・・・・ぁぁ・・ぁ・」
誰も動くもののいなくなった屋上で、ダビルドの身体が小さく蠢いていた。
凄いスピードで突っ込んできたダビルドが、長い右腕を振り下ろしてきた。ここまでの速さを予測していなかったテツの反応は遅れている。
「スパッ!」
テツは全力で右に横っ飛びしたが避けきれなかった。ダビルドの右手人差し指の爪が、テツの左のこめかみから左目の脇を通って左の頬までをスッパリと斬り裂いた。鋭く伸びた人差し指の爪は、先程の中指の爪とは比較にならない傷跡を残した。
どうにか致命傷だけは回避したテツが、もう一度刀を構え直して、ゆっくりと深く息を吐いた。傷口から出血は止まっている。テツも気の力で出血を止める術を身につけていた。
『これが混じりの覚醒ってやつなのか!』
テツは混じりと言われているが、自分の中に別の力の存在を意識した事はなかった。ただ単に自分の身体能力が他人より高いと言われているだけで、あくまで自分自身の身体能力という認識しかないのである。
しかし、今のダビルドの攻撃には、明らかにテツのものとは異質な力を感じた。ダビルドが自分の中にある別の力を意識的に引っ張ってきて、元々の自分の力にその別の力をプラスして使っている感じがしたのである。
しかし手傷は負ったが、テツはダビルドのその力を体感する事が出来た。次には対処出来る自信がテツにはあったのである。
「よぉくぅ避けたぁなぁ。だぁがぁ次でぇ殺ぉしてぇやるぅぜぃ、テツぅ」
ダビルドの方でも次の攻撃で決める自信がある様であった。必殺の右腕を大きく一回転させながら、自信満々にテツとの距離を詰めてくる。
テツはダビルドの大きな構えとは対照的に、脇を締めて、先程よりも小さな構えに変えている。
両者の距離が縮まる。
【殺してやる】
「うぉがぁあぁあぁあぁぁぁ!」
ダビルドの雄叫びを合図に両者同時に前に出た。
ダビルドは必殺の右腕を、テツは日本刀を振り上げ、擦れ違いざまに両者共にそれを振り下ろした。
「スバッシユッ」
宙を舞ったのはダビルドの右腕の方であった。
【殺してやる】
「なぁんだぁとぉお!」
ダビルドが絶叫した。ダビルドの右腕は肘から見事に切断されている。
【殺してやる】
テツは振り向きざまにダビルドの首に狙いをつける。
【殺してやる】
左に回転しながら刀を水平に振るう。
【殺してやる】
【殺して・・】
【殺すな!】
テツの中に、今までとは別の感情が突然湧き上がった。テツは急遽股を広げて体勢を低くして刀の軌道を強引に変えた。刀はダビルドの右肩から背中にかけてを薄く斬っただけであった。
【殺すな】
「うぎぃいぃいぃあぃ」
テツはダビルドの背後でもう一回転して、ダビルドの右脚を膝から切断した。
【簡単には殺すな】
「なぁんでえぇい、こりゃあぁいぁぁ!」
今度はテツは、右に傾いで崩れ落ちるダビルドの左に廻り刀を振るう。
「ちぃっくしょおぉぉ、なぁんなんじゃあぁあぃ」
ダビルドの左足の足首から先が宙を飛んで、ベランダの柵を越えて、下へと落ちて行った。
【簡単に殺してなどやるものか!】
「うぎゃうぅっ」
右に倒れてバランスを崩したダビルドは仰向けに転がった。その顔面目掛けてテツは指を落とした。ダビルドの両目に右手の人差し指と中指を突き入れて潰し、光を奪う。
「ぐぞぉおあぉ。ぢぐぅそあぁぁ」
立ち上がったテツは、喚き散らすダビルドを横目に、一旦ダビルドの元を離れる。まだ残っている山賊、2人のアース人を始末する為である。
この惨劇を見せつけられて、2人のアース人に戦う気力など残っているわけもなく、我先にと外階段に殺到する。だがテツに容赦する気はない。一瞬で距離を詰めて、2人まとめて一刀の元に斬り倒した。
ホンという男は、相当の見栄っ張りであったのだろう、この男には似つかわしくない大きな斧を武器として携えていた。その斧がテツの足元に転がっている。テツは刀を捨て、この斧を拾い上げた。
「ドガンッ、ガキャン、ガシャン」
テツは手にした斧で外階段を破壊し始めた。その外階段の造りは簡易的で強固には造られていない。こんな手斧でも叩き続ければ破壊出来る程度の物であった。
「ドガラガシャシャアァァン」
外階段と屋上の結合部は完全に破壊され、外階段は4階のベランダへと落ちていった。
「こんな馬鹿な〜、お頭〜」
テツは、多量の出血で声もか細い物になっているジャロンソの元に移動してトドメを刺した。そしてダビルドの元へと戻って行く。
「うごぉおぉおぉ、くぞぉおぉおぉ」
ダビルドはうつ伏せになり、四肢の内で最後に残った左手を突っ立てて蠢いている。
「ダァンッ」
「あぎゃあぁぁぁぁ」
テツはダビルドが突っ立てている左手を、斧を平にして上から叩き潰した。
「いでぇえぇあぇ。殺せぇやぁあ、いぃかぁげんにぃ殺せぇやぁあ」
「うるさいなあ。ちょっと黙れよ」
テツは冷たい声でそう言い放ち、ダビルドの髪を掴んで仰向けにひっくり返した。左手は髪の毛を掴んだまま、右手は拳を握り締め、その右拳をダビルドの喉に叩き落とした。何度も何度も喉を叩き続け、ダビルドの声帯を叩き潰して漸く止まった。
「ぁぁぁ・・ぁ・ぁぁ・・・ぁ」
ダビルドは呻き声を上げる事も出来なくなり、身動きをする事すら諦めていった。目も潰され確認は出来ないが、おそらくその目にも生気は残っていなかっただろう。
「殺さない。俺はお前を殺さない」
小さく冷たい、それでいて穏やかな口調でテツはダビルドに語りかけ始める。
「お前はその姿で生きていけ。自分のやった事を噛み締めながら、惨めに死ぬまでそのままの姿で生きていろ」
そう言ってテツは立ち上がり、屋上の柵から4階のベランダへと飛び降りた。
ダビルドは死ぬ事も出来なかった。彼は傷を負った時に反射的に自らの出血を止めてしまっていたのである。このまま餓死するのを待つか、手探りでベランダの柵をよじ登り、飛び降り自殺を図るかしか彼に選択肢は残されてはいないであろう。
「・・・・ぁぁ・・ぁ・」
誰も動くもののいなくなった屋上で、ダビルドの身体が小さく蠢いていた。
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