混じり《Hybrid》【新世界戦記】

小藤 隆也

殺意 8

 住居棟は4階建てである。目指すダビルドはこの建物の屋上にいるはずであった。
 共同の玄関を入ると左右に大きな下駄箱があるが、山賊達は土足で住居棟を使用している為、この下駄箱は使われていない。
 玄関からは真っ直ぐに中廊下があり、その中廊下の右側に3部屋が並んでいる。各部屋には小さめなキッチンと物入れがついている。部屋自体の広さは6畳ほどで、広くはないが、2人での生活に支障はない広さだった。
 中廊下の左側には階段があり、その先には共同の物入れがある。
 中廊下の突き当たりのドアを開けると洗面脱衣場があり、その奥に風呂場、手前にはトイレがある。トイレは各階にあるが、洗面脱衣場と風呂場は1階と4階にしかなく、1〜3階の住人は全てここを使っている。
 1階から3階まで同じ作りになっているが、洗面脱衣場と風呂場の上は、2階は共同の納戸で、3階は4階のベランダに登る外階段がこの位置にある。3階はトイレもここにあって、1・2階のトイレの上はサイロに向かう外廊下と4階のベランダに上がる外階段への入口になっている。4階のベランダからは、屋上に上がる外階段も続いていて、ベランダ自体も広めの作りになっていた。
 ダビルドが使用している4階は2LDKで、風呂もトイレも専用の物が完備されていた。

 テツは住居棟の玄関を開けて中に入り、階段を登っていく。気を張り巡らせているが、人の気配は感じられなかった。山賊達は屋上で待ち構えているものと思われる。
 

 ーー話は少しさかのぼるーー


「ウゴオォアアァァァー」

「なんじゃぁあぁ、奴らぁルドぉロールまぁでぇ持ち出しぃやがったぁんかあぁ」
「ちいっとぉ覗いてぇ見ろぉやぁいい」

「へい〜、お頭」

 山賊の1人が酒の杯を置いて立ち上がった。立ち上がった男は長身のカクトメスト人である。屋上の端に移動して、そこからサイロの入口の方を見下ろした。

「ルドロールが暴れてますね〜。ありゃ〜また捕まえんの大変ですぜ〜」
「んっ?」

 カクトメスト人が言葉に詰まった。屋上の手摺から身を乗り出して、何かを確認している。

「どぅおしたぁ、ジャロンソぉ」

「やっぱり3人しかいね〜。いやね〜お頭、手下どもが〜3人しか残っていやがらね〜んです」

「なんだぁとぉ!なぁにぃやってやがぁるんだぁ、あぁのぉ馬鹿どぉもぉわぁ!」

「んでもってね〜お頭、奴らん中で〜外に出てきてんのがね〜、さっき震えてた〜あのガキ〜ひとりなんでさ〜」

「はぁぁ?なんじゃぁあぁ、そぉりゃぁぁ?」

 ジャロンソと呼ばれたカクトメスト人からの報告を受けて、ダビルドも杯を置いてベランダの端に向かった。他の手下達もダビルドに続いて立ち上がる。

「ウギャウアァァ」

「あっ!あのガキ〜、ルドロールに斬りかかりやがった〜」

「たぁしかぁにぃテツのガキぃだけだぁなぁ」

 ダビルドと他4人の山賊達も、ジャロンソの隣まで来てサイロの入口付近を見下ろしていた。

「ギャアウァッ」

「ルドロールの脚、切り落としましたね。あれがさっきまで震えてたガキとは思えませんね」
「あのガキ相手では、ホン達アース人の2人は戦力にはならんでしょうね」

「たぁしかぁにぃなぁ。テツのガキぃがぁ、あんだぁけぇやる様ぉにぃなってぇるぅとわぁなぁ」

「うるせえぞリバード!俺はテメエらと違って頭脳派なんだよ」

 山賊達がテツの闘い振りを見学しながら話している。屋上に残るダビルド以外の山賊達は以下の通りである。


 先ずはホンと呼ばれる古株で幹部のアース人である。ダビルドの前の首領の頃からこの山賊にいた人物で、ダビルドが牧場を襲う話しを山賊に持ちかけた時に、話しを取り持った人物であり、前の首領を殺す際にもダビルドに協力した男である。
 この人物については余り資料が残っていない。アースのアジア地方の出身らしく、韓国出身説と日本国出身説とがあるが、テツが日本国出身の為にこの小説では韓国出身説を採用している。ホンという名前も作者が仮につけているだけものである事を了承して頂きたい。

 2人目の幹部がジャロンソという名のカクトメスト人である。ダビルドと同郷で右腕的な立場の人物で、戦闘力も高い。ジュラやセルヒラードと同等か、それ以上であったとも言われている。

 3人目の幹部がリバードというマウルションタ人のブラック種で、後方支援専門の魔術部隊を統括していた人物である。この時にまだ20代の前半であったというから、幹部に上り詰めていた事からも、戦闘力はかなり高かったと推測される。

 残りの2人はホンの部下で、アース人と獣人であるが共に名前も出身もわかっていない。
 アース人はホンの補佐的な仕事をこなしていたらしい。
 獣人は新参ではあるが、戦闘力の高さからホンの用心棒的な存在であった。狼の獣人であったらしい。
 ダビルドからは、アース人は「腰巾着」獣人は「犬っころ」と呼ばれていた。


「ルドロールがやられましたね。残りの3人もやられるでしょう。あの新参のウィラード人には期待してたんですがね」

 テツがルドロールの首を切り落としたのを見て、リバードが切り出した。

「どうします〜お頭。わしらも〜下降りて、あのガキ〜殺ってきましょ〜か〜?」

「そぉのぉ必要わぁねぇなぁ。ここでぇ待ち構えぇてぇた方ぅがぁ良いだぁろぉうなぁ」

「そうですね。あのガキは魔術攻撃も避けきれてませんでしたし、ルドロール相手の戦いでも甘いところもありましたしね」

 ダビルドは少し考えてから待ち伏せの布陣を決めた。この男は狡猾である。

「ホン達ぃ3人わぁ3階のぉ外ぉ廊下ぁとぉ外ぉ階段でぇ待ちぃやぁ。相手ぇ出来んのぉわぁ犬っころぉぐらいだぁろぉうがなぁ」
「あのガキぃならぁ、お前らぁよぉりぃ先にぃ俺ぇ達ぃを狙ってぇ屋上にぃ飛びぃ移るぅだぁろぉからぁ、そこおぉリバードぉがぁ撃ちぃ落とせぇやぁ」
「俺ぇとぉジャロンソぉでぇ気ぃ探るぅからぁ、合図でぇ詠唱ぉ始めぇやぁ。トドメもぉ、俺ぇかぁジャロンソぉでぇ刺すからぁのぉ」

 山賊達の話し合いの間にテツは残りの3人を片付けた。

「てめぇらぁ配置ぃにぃつけやぁ!」

 ダビルドの声で山賊達が散る。万全の体制で待ち伏せる山賊達に、テツは挑む事となったのである。

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