混じり《Hybrid》【新世界戦記】

小藤 隆也

殺意 5

 ダビルドはテツを舐めきっていた。いや、ダビルドだけではない。集結した山賊達もテツの事を舐めきっていた。何せテツはまだ15歳の子供なのである。
 かつてはグリード氏の元で働いていたダビルドは、当然テツの幼い頃を知っている。テツはその頃から混じっていると噂されていた。その身体能力の高さは幼い頃からなのである。しかしダビルドが認識していたテツの身体能力は、あくまでアース人の中では高いという程度のものに過ぎなかった。たとえ成長していても、自分達カクトメスト人には、遠く及ばないと考えている。

 テツとリオールがダウアン村に戻った事により、今回の山賊達の襲撃計画は大幅に変更されていた。当初ダビルドが考えた襲撃計画でも、テツの存在は重要視されていなかったのである。
 元々の襲撃計画は次の通りであった。襲撃すれば一行の内のカクトメスト人の二人が前に出て来る事は分かりきっていた。
 先ずは一行の前方を9人で塞ぐ。次に一行を付けていた3人が退路を塞ぐ。そうして置いて、伏せてあるガレン人と5頭のケルトースの内の3頭で、セルヒラードとジュラのどちらか、位置的に襲い易い方を奇襲する。その奇襲を合図に、後方の3人の内の2人と5頭のケルトースの内の1頭がリオールを、残りの1人と1頭のケルトースでフロンを確保し、前方の9人の内のダビルドを含む5人が奇襲を受けていない方のカクトメスト人を、2人がテツを襲い、残りの1人は奇襲を援護しながら、状況を見て臨機応変に動くというものだった。
 つまり、一行の戦力で危険視していたのは、二人のカクトメスト人とエサール人だけで、最優先で確保すべきフロンを1人と1頭で抑え、アース人であるテツには基本的に2人で十分だと考えていたのである。混じりの成長度合いを考えて、臨機応変に動く1人にはテツの動きに注意する様に伝えてはいたが、最初からテツに戦力を割く程には考えていなかったのだ。
 現在の状況も、テツが一人で潜入してきたとは夢にも思っていない。目の前で倒されている人もケルトースも、リオールと傷を受けながらも死力を振り絞ったセルヒラードがやったと思っている。
 今、目の前で震え続けているテツを見て、そう確信している。ましてや牛舎のケルトース達が、テツの手によって全滅させられているなど考えもつかない事であったのだ。


「ゲヒャヒャヒャヒャ。んじゃぁ俺ぁ屋上でぇ呑んでっからぁよぉ。そこのぉエサールのぉ女ぁ連れてぇ来いやぁ」

【殺してやる】

「セルヒラードぉとぉそこでぇ震えてぇるぅガキゃぁ殺して構わねぇがぁ、お嬢ちゃんわぁ殺すなぁよぉ〜」
「何処ぉでぇもぉいいからぁよぉ、どっかぁぶち込んどけぇやぁ」

「ふうううぅぅぅ〜・・・」

 ダビルドの話しの最中に、テツはゆっくりと深く深呼吸をしている。

《ダビルドを含めて18人か》

「頭あ、エサールの女は俺らにも廻してもらえるんでしょうね」

「壊ぁれてぇなかったらぁなぁ。ゲヒャヒャヒャヒャ」

『ごめんねフロン』
「ダ・・・ダビルド」
[よし。なんとか喋れる]

 テツはダビルドの方を向き、喋り出したがダビルドへは届かない。

「こいつらぁにぃ全員わぁ多かったわなぁ。幹部ぅ連中わぁ上がってぇ来いやあぁ」

【殺してやる】
「ダ・・ダビルド」

「俺ひとりぃでぇ呑んでぇてぇもぉ、退屈ぅだからぁよおぉ」

『ごめん』
[もっと大きい声を出せ]
「ダ・ダビルド。ま・待ってろ」

「うあぁん?」

 漸くテツの声がダビルドに届き、ダビルドは反応を返した。

「す・直ぐそこに行くから待ってろ・・」

「なぁにぃ言ってぇやがるんだあぁこのぉガキゃぁ」

「待ってろ!」
【殺してやる】

「ゲヒャヒャヒャ。だったらぁ早ぁくぅ来いやあぁ」
「てめぇらぁ、やっちまってぇいぃぜえぇ」
「ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ〜」

 下卑た笑い声と共にダビルドの姿は消えていった。時を同じくして、幹部と思われる数人の山賊達もサイロの入り口から姿を消す。
 テツはフロンの方へ向き直った。

『僕は・・』
「ごめんねフロン」
『僕は守れなかった・・』
「もうちょっと待っててくれる?」
『僕は』

 フロンにはもう言葉を返す力は残ってなかったが、テツの問いかけに小さく、しかしはっきりと頷きを返した。

『俺はフロンを守れなかった』

「リオールさん、セルヒラードさん、フロンの事をよろしくお願いします」

「テツ君」

「テツ」

 二人にフロンを託して、テツはゆっくりと山賊達の方を向いた。先ほどまで大きく見開いていたテツの眼は、今は半分瞑っている様な、いわゆる半眼と言われる状態に変わっていた。

《内に入って来たのは5人か》
[よし、落ち着いている。さっきまでは焦って狼狽えていたんだな、俺]

 腹を括ったのか、ここにきてテツは冷静さを取り戻した。いざ冷静になってみると、先ほどまでの自分が如何に焦っていたのかがよくわかった。
 テツは足元に落ちている、ケルトースの指示役であったガレン人の使っていた、両刃の剣を拾い上げた。

[手の震えも止まっているな]
《後ろの方はアース人が多いな、いやマウルションタ人かもしれないから詠唱に注意だな》
『・・・・・』
[・・・・・]
《・・・・・》

 テツの周囲から音が消えていった。集中力が増していっているのだ。それに伴って先程からテツの身に起きていたおかしな現象、幾つかの事を同時に考えていた現象も通常の一つに収束していった。
 だが、それらとは異なる一つの感情だけは、別のものとしてテツの内に留まり続けていた。

 テツが拾った剣を構える。そして戦闘は唐突に開始された。山賊の先頭のカクトメスト人が、テツとの距離を詰める為に左足を踏み出した瞬間の事であった。テツは躊躇する事なく、一気に襲いかかったのである。

【殺してやる!】

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