混じり《Hybrid》【新世界戦記】
殺意 4
フロンの変わり果てた姿を目の当たりにして、テツは思考までもが止まってしまったかの様である。
「なんとか言えや、ゴラァ」
時が止まった様に何の反応も示さないテツを気味悪るく感じたガレン人が怒鳴り続けている。それでもテツはボオッと突っ立ったままである。
ここで作者としては重要な場面であるので、フロンの状態について詳細に書かねばならない。が、気乗りしない作業である。よって淡々と無機質に書き連ねていく事を許していただきたい。
フロンは首と両肩をロープで縛られ、そのロープで吊るされる様に無理矢理立たされている。容赦の無い暴力を受けて至る所傷だらけであり、歯も何本か折られていた。
左手はケルトースにより手首から噛みちぎられている。皮一枚だけは繋がっていて、左手は手首から80センチ下まで延びてぶら下がっていた。
両脚も膝を完全に破壊されている。2頭のケルトースが今も両脚の指や足首に噛みついて、引っ張っているが、既に破壊された膝がおかしな方向にグニャリと曲がるだけであった。
出血の多い傷に関しては、死なせない為に粗末な応急処置が施してある。処置といっても、出血を止める為に布でグルグル巻きにしてあるだけである。
フロンは意識はあったが、その意識もハッキリとはしていない。既に痛みは感じてはいなかったが、顔にはいくスジもの涙の跡があった。
テツが目にしたのはこういう光景であった。
ガレン人が右腕を挙げた。ケルトースへの指示である。
テツはまだ動けない。
「テツ君しっかりしなさい!」
後ろから突然、女性の声が響いた。その声にテツは反応した。
「うわああぁぁぁ〜」
叫び声と共にテツは、向かってくる2頭のケルトース目掛けて、力任せに鎌を振るった。
鎌は2頭のケルトースを串刺しにした。鎌の先は1頭目のケルトースの左前脚の付け根から入り、裏側まで突き抜け、そこから力づくで2頭目のケルトースをも貫き通したのである。深く突き刺ささった鎌の刃は大きくひん曲がってしまった。2頭もの獣の肉に深く突き刺さってしまった鎌の刃は引き抜く事も出来ないだろう。
「何だこのガキ!何なんだよお前はぁ」
2頭のケルトースを一撃で倒され、狼狽したガレン人は持っていた両刃の剣を振り上げ、闇雲に襲いかかってきた。
「ああああああああぁぁぁ〜」
もう一度叫んだテツは、無造作にガレン人の顔面に右拳を減り込ませる。ガレン人は剣を振り下ろす前に鼻を砕かれた。
「ああああぁぁぁぁ〜」
テツは叫び続けながら、左拳をガレン人の腹に叩きつけ、蹲ったガレン人の後頭部目掛けて右肘を落とした。
更に倒れたガレン人の頭を右足で思い切り踏みつけ、その右足を後ろに振り上げて、倒れて動かなくなったガレン人の腹を蹴り上げて、サイロの壁まで蹴り飛ばした。そこでようやくテツの叫びは止まったのである。
「お嬢、お嬢!」
セルヒラードがサイロに飛び込んできた。真っ直ぐフロンの元に向かい泣きながらフロンを抱き支えた。
次いでリオールもサイロに入り、叫び終えて動かなくなったテツの肩を抱きながら、共にフロンの元に向かう。先ほどの声の主である。
「フロン」
リオールに抱き抱えられたまま、小さな優しい声でテツがフロンに声をかける。
「・・・・・・・・」
フロンは何か小さな声でブツブツ言っているが聞き取れない。
「・・・なさ・・・・て・・さい・・」
「ごめん・さい・・・ご・・なさい・・」
「ゆるし・・ださい・・・るし・くださ・」
フロンはテツ達に気づいていなかった。気丈なフロンが小さな声で許しを懇願していた。
「僕だよフロン。ごめんね。遅くなってごめんね」
もう一度テツが呼びかける。その目には涙が溢れていた。
「テツ?」
小さな声でフロンが尋ねた。その目に微かだが光が戻る。
「そうだよ。僕だよフロン」
僅かに自我を取り戻したフロンが精一杯の小さな笑顔を作って、小さな声でテツと言葉を交わす。
「馬鹿ね。何泣いてるのよ。私なら大丈夫よ」
フロンの精一杯の強がりだった。
「お嬢。すいませんお嬢」
「早くお嬢様を下ろしてセルヒラード。私はお嬢様の手当てを」
「ゲヒャヒャヒャヒャッ。しぶといなぁセルヒラードぉ」
テツの後を必死に追い、漸く追いついたセルヒラードとリオールが、惨い姿にされてしまったフロンを助け下ろそうと動きだした時である。サイロの内壁をぐるりと囲む廊下の上にダビルドが現れた。
【殺してやる!】
フロンの事で頭が一杯になっていたテツが、その下卑た笑い声が聞こえてきた方向に視線を上げた瞬間の事である。彼の内から今まで経験した事のない感情が、突如とした湧きあがった。
「リオールもよぉ、会いたかったぜぇ。なつかぁしぃなぁ」
「て前ぇテツかぁ、ゲヒャヒャヒャッ。て前ぇもよぉ、なつかぁしぃなぁ、ヒャヒャハァ」
「ダビルド!貴様アッ」
「何だぁよぉ、死にぃぞこないがぁよぉ。ゲヒャヒャヒャヒャッ」
ダビルドとセルヒラードが舌戦を始めた時である。リオールがダビルド以外の気配を察知して冷静に周りを見渡すと、舌戦の間に残りの山賊達も集結していた。山賊達はサイロの出口を既に固め、ニヤニヤとこちらを見物していたのだ、
その時にリオールはもう一つの異変に気がついた。テツの様子がおかしい。先ほどから抱き抱えていたテツの両肩が激しく震えている。その震えは尋常ではなく、ガタガタと震え続けていた。
「テツ君?」
「大丈夫?テツ君」
只ならぬ様子に心配になり、リオールはテツに話しかけたが返事はない。テツは眼を見開いて、只々ダビルドを見つめて立ち尽くしていた。
【殺してやる】
テツは自分の身体の異変に気がついていない。ただ黙ったまま眼を大きく見開いて、ダビルドの方を見つめている。
「ゲヒャヒャヒャッ。テツよぉ〜、お前ぇ何か震えてねぇかぁ。ゲヒャヒャヒャヒャ」
「ダ・・・ダビ・ド・・・フロ・・・にお・た・・」
[んっ?何だこれ?上手く喋れない]
口を開いて初めて、テツは自分の異変に気がついた。喋ろうと口を開けると、途端に口が震え出したのだ。ガチガチと音を立てて上下の歯がぶつかった。
気づいてみると震えているのは口だけではなかった。肩も手も足も、膝などはガクガクと揺れている。全身が小刻みに震えていたのだ。
[何だこれ?僕の身体はどうしたんだ?]
【殺してやる】
「ゲヒャヒャアァ。震えてぇやがらぁ、このガキぁ。そんなにぃ俺様ぁがぁ怖えぇのかあぁヒャヒャッ」
[怖い?ダビルドを僕が怖がっている?]
[いや怖くはない。何で僕の身体は震えてるんだ?]
「どうしたんだテツ。大丈夫か!」
セルヒラードも心配になり、テツに声をかけた。
「だい・・う・こわ・な・・ない」
[ダメだ。やっぱり喋れない]
「ギャハハハ。本当に震えてやがるぜ、あのガキ」
「おい小僧!お前何しにここまで来たんだ。ガハハハハ」
《見えているのは10人くらいか、奥の奴らを含めると倍以上いるな》
出口を塞ぐ山賊達も、テツの様子を見て、次々に嘲笑し始めた。
「まあぁよぉ、このガキぃぁよぉ、小せぇ頃からぁよぉ、俺ぇにぃいたぶらぁれてぇもぉ文句ぅ一つぅ言えねぇガキぃだったからぁなぁ。ゲヒャヒャヒャヒャ」
[そうか!怖いんじゃない。緊張してるんだ]
山賊達の嘲笑を受けながらも、テツは自分の身体の異変について考え続けていた。そして一つの答えに行き着いたのである。
緊張している。しかも極度に緊張している。緊張が極限まで達すると、人の身体はこの様に震え始める事を、テツはこの時に初めて知ったのである。
そしてテツは、もう一つの初めて経験している感情についても、答えに辿り着いた。殺意である。これまでテツは人に対して強い怒りを抱いた事がなかった。初めて抱いた人を許せないという感情が、明確な殺意となって湧きあがってきているのである。
【殺してやる!!!】
「なんとか言えや、ゴラァ」
時が止まった様に何の反応も示さないテツを気味悪るく感じたガレン人が怒鳴り続けている。それでもテツはボオッと突っ立ったままである。
ここで作者としては重要な場面であるので、フロンの状態について詳細に書かねばならない。が、気乗りしない作業である。よって淡々と無機質に書き連ねていく事を許していただきたい。
フロンは首と両肩をロープで縛られ、そのロープで吊るされる様に無理矢理立たされている。容赦の無い暴力を受けて至る所傷だらけであり、歯も何本か折られていた。
左手はケルトースにより手首から噛みちぎられている。皮一枚だけは繋がっていて、左手は手首から80センチ下まで延びてぶら下がっていた。
両脚も膝を完全に破壊されている。2頭のケルトースが今も両脚の指や足首に噛みついて、引っ張っているが、既に破壊された膝がおかしな方向にグニャリと曲がるだけであった。
出血の多い傷に関しては、死なせない為に粗末な応急処置が施してある。処置といっても、出血を止める為に布でグルグル巻きにしてあるだけである。
フロンは意識はあったが、その意識もハッキリとはしていない。既に痛みは感じてはいなかったが、顔にはいくスジもの涙の跡があった。
テツが目にしたのはこういう光景であった。
ガレン人が右腕を挙げた。ケルトースへの指示である。
テツはまだ動けない。
「テツ君しっかりしなさい!」
後ろから突然、女性の声が響いた。その声にテツは反応した。
「うわああぁぁぁ〜」
叫び声と共にテツは、向かってくる2頭のケルトース目掛けて、力任せに鎌を振るった。
鎌は2頭のケルトースを串刺しにした。鎌の先は1頭目のケルトースの左前脚の付け根から入り、裏側まで突き抜け、そこから力づくで2頭目のケルトースをも貫き通したのである。深く突き刺ささった鎌の刃は大きくひん曲がってしまった。2頭もの獣の肉に深く突き刺さってしまった鎌の刃は引き抜く事も出来ないだろう。
「何だこのガキ!何なんだよお前はぁ」
2頭のケルトースを一撃で倒され、狼狽したガレン人は持っていた両刃の剣を振り上げ、闇雲に襲いかかってきた。
「ああああああああぁぁぁ〜」
もう一度叫んだテツは、無造作にガレン人の顔面に右拳を減り込ませる。ガレン人は剣を振り下ろす前に鼻を砕かれた。
「ああああぁぁぁぁ〜」
テツは叫び続けながら、左拳をガレン人の腹に叩きつけ、蹲ったガレン人の後頭部目掛けて右肘を落とした。
更に倒れたガレン人の頭を右足で思い切り踏みつけ、その右足を後ろに振り上げて、倒れて動かなくなったガレン人の腹を蹴り上げて、サイロの壁まで蹴り飛ばした。そこでようやくテツの叫びは止まったのである。
「お嬢、お嬢!」
セルヒラードがサイロに飛び込んできた。真っ直ぐフロンの元に向かい泣きながらフロンを抱き支えた。
次いでリオールもサイロに入り、叫び終えて動かなくなったテツの肩を抱きながら、共にフロンの元に向かう。先ほどの声の主である。
「フロン」
リオールに抱き抱えられたまま、小さな優しい声でテツがフロンに声をかける。
「・・・・・・・・」
フロンは何か小さな声でブツブツ言っているが聞き取れない。
「・・・なさ・・・・て・・さい・・」
「ごめん・さい・・・ご・・なさい・・」
「ゆるし・・ださい・・・るし・くださ・」
フロンはテツ達に気づいていなかった。気丈なフロンが小さな声で許しを懇願していた。
「僕だよフロン。ごめんね。遅くなってごめんね」
もう一度テツが呼びかける。その目には涙が溢れていた。
「テツ?」
小さな声でフロンが尋ねた。その目に微かだが光が戻る。
「そうだよ。僕だよフロン」
僅かに自我を取り戻したフロンが精一杯の小さな笑顔を作って、小さな声でテツと言葉を交わす。
「馬鹿ね。何泣いてるのよ。私なら大丈夫よ」
フロンの精一杯の強がりだった。
「お嬢。すいませんお嬢」
「早くお嬢様を下ろしてセルヒラード。私はお嬢様の手当てを」
「ゲヒャヒャヒャヒャッ。しぶといなぁセルヒラードぉ」
テツの後を必死に追い、漸く追いついたセルヒラードとリオールが、惨い姿にされてしまったフロンを助け下ろそうと動きだした時である。サイロの内壁をぐるりと囲む廊下の上にダビルドが現れた。
【殺してやる!】
フロンの事で頭が一杯になっていたテツが、その下卑た笑い声が聞こえてきた方向に視線を上げた瞬間の事である。彼の内から今まで経験した事のない感情が、突如とした湧きあがった。
「リオールもよぉ、会いたかったぜぇ。なつかぁしぃなぁ」
「て前ぇテツかぁ、ゲヒャヒャヒャッ。て前ぇもよぉ、なつかぁしぃなぁ、ヒャヒャハァ」
「ダビルド!貴様アッ」
「何だぁよぉ、死にぃぞこないがぁよぉ。ゲヒャヒャヒャヒャッ」
ダビルドとセルヒラードが舌戦を始めた時である。リオールがダビルド以外の気配を察知して冷静に周りを見渡すと、舌戦の間に残りの山賊達も集結していた。山賊達はサイロの出口を既に固め、ニヤニヤとこちらを見物していたのだ、
その時にリオールはもう一つの異変に気がついた。テツの様子がおかしい。先ほどから抱き抱えていたテツの両肩が激しく震えている。その震えは尋常ではなく、ガタガタと震え続けていた。
「テツ君?」
「大丈夫?テツ君」
只ならぬ様子に心配になり、リオールはテツに話しかけたが返事はない。テツは眼を見開いて、只々ダビルドを見つめて立ち尽くしていた。
【殺してやる】
テツは自分の身体の異変に気がついていない。ただ黙ったまま眼を大きく見開いて、ダビルドの方を見つめている。
「ゲヒャヒャヒャッ。テツよぉ〜、お前ぇ何か震えてねぇかぁ。ゲヒャヒャヒャヒャ」
「ダ・・・ダビ・ド・・・フロ・・・にお・た・・」
[んっ?何だこれ?上手く喋れない]
口を開いて初めて、テツは自分の異変に気がついた。喋ろうと口を開けると、途端に口が震え出したのだ。ガチガチと音を立てて上下の歯がぶつかった。
気づいてみると震えているのは口だけではなかった。肩も手も足も、膝などはガクガクと揺れている。全身が小刻みに震えていたのだ。
[何だこれ?僕の身体はどうしたんだ?]
【殺してやる】
「ゲヒャヒャアァ。震えてぇやがらぁ、このガキぁ。そんなにぃ俺様ぁがぁ怖えぇのかあぁヒャヒャッ」
[怖い?ダビルドを僕が怖がっている?]
[いや怖くはない。何で僕の身体は震えてるんだ?]
「どうしたんだテツ。大丈夫か!」
セルヒラードも心配になり、テツに声をかけた。
「だい・・う・こわ・な・・ない」
[ダメだ。やっぱり喋れない]
「ギャハハハ。本当に震えてやがるぜ、あのガキ」
「おい小僧!お前何しにここまで来たんだ。ガハハハハ」
《見えているのは10人くらいか、奥の奴らを含めると倍以上いるな》
出口を塞ぐ山賊達も、テツの様子を見て、次々に嘲笑し始めた。
「まあぁよぉ、このガキぃぁよぉ、小せぇ頃からぁよぉ、俺ぇにぃいたぶらぁれてぇもぉ文句ぅ一つぅ言えねぇガキぃだったからぁなぁ。ゲヒャヒャヒャヒャ」
[そうか!怖いんじゃない。緊張してるんだ]
山賊達の嘲笑を受けながらも、テツは自分の身体の異変について考え続けていた。そして一つの答えに行き着いたのである。
緊張している。しかも極度に緊張している。緊張が極限まで達すると、人の身体はこの様に震え始める事を、テツはこの時に初めて知ったのである。
そしてテツは、もう一つの初めて経験している感情についても、答えに辿り着いた。殺意である。これまでテツは人に対して強い怒りを抱いた事がなかった。初めて抱いた人を許せないという感情が、明確な殺意となって湧きあがってきているのである。
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