混じり《Hybrid》【新世界戦記】

小藤 隆也

殺意 3

「こんだけぇ早く来たってぇこたぁ、奴らぁ人数集めちゃぁいねぇやなぁ」
「奴らぁ、そんなにぃ早くぅ俺にぃぶっ殺されてぇのかぁねぇ。ゲヒャヒャヒャヒャ」

 ダビルドは部下達の前で、慌てもせずに余裕の高笑いを上げていた。テツは三つ目の牛舎内での戦闘の最中には、山賊達に潜入が気付かれているものだと思っていたが、どうやら最後のケルトースの断末魔で、初めて山賊達は敵の潜入に気が付いたようである。これにはダビルドの油断が関係していた。
 ダビルドは、テツ達が人数を集めるてから向かって来るものと決めてかかっていた。まさか、こんなに早くしかもテツ一人で進入して来るとは考えもしなかったのだ。いや今も、潜入しているのがテツ一人だとは考えていないであろう。

 街道での襲撃から戻った山賊達は、先ずは各々の部屋に戻り若干の休息を取ってから、ダビルドの命令により、この首領のお気に入りの場所である住居部分の屋上に集められた。討伐隊を迎え撃つにしては、実にのんびりとしたものであった。この状況はダビルドの油断からきている。
 襲撃から戻ったダビルドは、先にフロンを捕まえて戻っているガレン人と2頭のケルトースの元に様子を見に行った。予定通りフロンはサイロの中に入れられていた。
 フロンは連れ去られている途中のかなり長い距離を引きづられ、立たされて歩かされている最中も、ケルトース達に散々噛み付かれていた為に、かなり憔悴していたが、サイロに放り込まれてからは、まだ拷問は受けていなかった。
 ダビルドは部下達に、フロンを好きなようにいたぶって構わないと命じたが、部下達はまだ子供のフロンに対して興味が湧かなかった。結局自分から拷問に加わろうとする部下は現れず、ダビルドはシラけてしまった。
 ダビルドは先に戻っていたガレン人とカクトメスト人一人を指名して、やはり先に戻っていた2頭のケルトースを使い拷問するように命じた。テツ達が来た時に見せつける為に、死なないギリギリまでのきつい拷問を命じたが、同時に決して殺しはしないように厳命した。
 テツ達の反撃はまだまだ先になると決めつけていたダビルドは、他の部下達にはとりあえず1時間程休息してから、屋上に集まるように命じていた。
 今はようやく、待ち構える為の部下達の配置についての指示を出していたところである。

「おうぅ、おまぇらぁ。さっきまでぇの指示ぁいいからぁ、全員でぇサイロのぉ入り口にぃ向かえやぁ」
「どうせたいしたぁ人数じゃぁねぇからよぉ、ボコボコにしてやれやぁ」

「頭はどうしやすんで?」

「俺かぁ。まぁ暇ぁだしなぁ。ちったぁ高い所でぇ見物にでぇもぉ行くかぁ。ゲヒャヒャヒャ」

 余りにも早くテツ達が進入してきた為、ダビルドは舐めきっていた。今や彼の興味は、捕まえた後のリオールへの制裁くらいしか無いのである。


 山賊達のアジトに使われている巨大な建物は、特殊な造りになっていた。再構築時に人口の建造物の大半は再構築されることなく消失しているが、遺跡のように使われずに放置されて、自然と一体になってしまっている物等は、再構築され、残っている場合もあった。この建物の土台部分は、そのような遺跡を利用して建てられている。
 この時代にはまだ、高く大きな建物が建てられる事は稀であったが、この建物は遺跡を利用する事で容易に巨大な建物を建てる事が可能であった様である。大部分は石積みによる組積造で造られ、必要に応じて建増しを繰り返してこの大きさになったのであろう。

 現在テツのいる牛舎から見て、一番手前に建っているのがサイロ部分で、真ん中に作業場、再奥には住居部分が建っている。
 サイロとは穀物や飼料を貯蔵する為の建物で発酵も行える。このサイロは八角形のタワー型で高さは4階建て相当であった。内部は吹き抜けになっているが、3階の高さに点検用と思われる、人一人が歩ける廊下の様なスペースがあり、ぐるりと一周廻れる様になっていた。ダビルドの言う「高い所」とは、ここの事であろう。
 真ん中の作業場部分も天井が高く、2階建て相当の高さの建物で、中2階に倉庫として使われていたと思われる、広いスペースがある。この作業場で常時10人山賊の下っ端の者達が寝泊まりしていた。
 住居部分は4階建てである。最上階は牧場主が家族で使用していた階で、現在はダビルドが使っている。1〜3階には3部屋づつあり、現在は1・2階に山賊の中堅クラスが1部屋に2人づつ、3階は幹部クラスが1人1部屋づつ使用していた。住居部分には屋上があり、今までダビルドが部下達を集めていた所がここである。牛舎から最も遠い位置にあり、その為にテツの牛舎での戦闘中には気付けなかったのである。
 この屋上から、外階段を使って3階にも4階にも降りられる。3階に降りると作業場の屋根にも出る事が出来、この屋根の一部が渡りの外廊下になっていて、サイロまで続いている。外廊下の突き当たりにドアがあり、このドアを開けるとサイロの点検用の廊下に直接出る事が出来るのである。


 三つ目の牛舎のケルトースの群れを倒したテツが、表口まで辿り着いた。アジトの巨大な建物の中では、隣接しているサイロが一番近い。その距離50メートル。そしてそのサイロの入り口は開いたままであった。当然テツは一番にここを目指すしかなかった。
 その時、サイロの入り口から一人のカクトメスト人が顔を出した。最後のケルトースの断末魔を聞き、外の確認に現れたのだ。カクトメスト人は小走りで牛舎の方に向かってくる。
 直ぐに他の山賊達も集まって来るだろう。テツには一刻の猶予もないのである。

 カクトメスト人が牛舎まで残り15メートルの距離まで近づいた時、テツの方からカクトメスト人に向かって駆け出した。

「おい、こぞ…」

 速い!テツが鎌を一閃すると、呆気なくカクトメスト人の首は落ちた。テツはそのまま首のないカクトメスト人の横をすり抜け、サイロに飛び込んだ。

「えっ!」

 一声だけ漏らしたテツの動きがピタリと止まってしまった。目の前の光景を見て、テツは自分の眼を疑った。

「おいガキ、どっから入りやがった!」

 ガレン人の怒鳴り声も耳に入ってこない。呼吸をする事すら忘れてしまったかの様に、テツは身動きが取れなくなっていた。

『フロン?』

 フロンがそこにいた。思わず目を覆いたくなる様な姿で、そこに立たされていたのである。

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