混じり《Hybrid》【新世界戦記】

小藤 隆也

襲撃 1

 ーー翌早朝ーー

「眠そうだなあフロン。朝は早い方じゃなかったっけ?」

「別に眠くなんかないわ。いいから早く出発しましょ」

 元々早起きのフロンが、昨夜は早目に寝た筈なのに眠たそうな様子に、不思議に思ったテツが声をかけた。
 フロンはいつもの様に、ツッケンドンな返事を返して濁したが、実際のところ確かに眠い。実は、旅に出る少し前から夜更かしが続いているのである。
 この夜更かしについて、リオールはその理由を知っているが、テツと他の二人は知らなかった。

 一行は予定通り早朝に出発した。
 プランターン峠は、サイバイ半島に入って直ぐに登り始める。例の茶店は、登り口の手前500メートル程の所にあるらしい。一行の今日の最初の目的地である。ダウアン村の宿からは約8キロメートルといったところか。

 一行が出発して5キロ程進んだ頃、フロンが小声でリオールに話しかけた。二人共、馬上で小声で話している為、他の者達には何を話しているかわからない。

「どうしようリオール」

「一度荷物を開けて確認してみましょうか?」

「それだと見つかっちゃうかもしれない」
「いや、間違いないなく宿のテーブルの上だと思わ」

「すいませんお嬢様。私が確認しておけば」

「最後に出たのは私だもの、リオールは悪くないわ」

 どうやらフロンが何か忘れ物をした様だ。確認して見つかったら困るというのは、よくわからないが。

「ごめんなさい、テツ。私、忘れ物したみたい」
「リオールと取りに戻りたいのだけど」

「おっちょこちょいだなぁ、フロンわ」
「構わないけど、女性二人で怪物が出たら困るし…」

 話し合いの結果、テツとリオールとで馬でもって宿に戻る事になった。フロンは、セルヒラード・ジュラと共に先に茶店まで行って話しを聞き、良ければ護衛契約まで済ませておく事になった。

「お願いね、リオール」

「わかってます。心配いりませんよ、お嬢様」

 テツとリオールは三人と別れ、来た道を急いで戻った。駆け出して直ぐに、旅人にしては軽装な三人組とすれ違った。テツは少しだけ不思議に思ったが、たいして気には止めなかった。


「奴ら、分かれたぞ。気付かれたか?」

「いや、それはないだろ。何故、分かれたかは分からんが、先にいる連中に伝えなきゃならんぜ」
「予定の地点まで、直ぐそこだからな」

 テツ達を尾行してきた山賊の一味だろう。彼らに予測していない動きをとられ、対応すべき事態となったのだ。

「おい、お前。先に行って伏せてる連中に伝えろ」
「予定変更だが、フロンってガキ捕まえとけば問題ないだろ。馬で戻った二人は、後でガキを餌におびきだせば良い」
「奴らの後ろは俺ら二人で良い。奴らの人数も減ってるし、問題ないだろ」

「ああ、わかった。だが逃げられんなよ」

「そんなヘマするか。さっさと行け!」

 三人組の一人のファルホビーが街道の端を走り出した。そのまま、先を行くフロン達の脇を通り過ぎだが、真っ直ぐ前を見て、視線は動かさなかった。
 ホビー人は、力は弱いが小柄ですばしっこく、体力はかなりある。街道で走っている姿もたまに目にする事があり、フロン達も不信には感じなかった様である。


 テツ・リオールと分かれたフロン達三人は、街道を1キロメートル程進んだ。ここから先の1.5キロメートル程は鬱蒼とした森の中を街道は曲がりくねりながら伸びている。その森を抜け、500メートル進んだ先に目指す茶店がある。
 フロン達は更に600メートル、森の中を進んだ。ひと際大きくカーブした道を曲がり切る直前、街道の左側の森の中から突然多数の人影が三人の行先を遮った。

「お嬢、退がって!」
「ジュラ!」

 セルヒラードの声に反応し、フロンが後退り、ジュラは前に出る。

「セルヒラード!」

 後退りながら後ろを振り向いたフロンが声を上げた。後ろからも二人、武装した男達が近づいてくる。尾行してきていた男達である。武器は隠し持っていたのだろう。  
 前を塞いでいる連中は10人。総勢12人に対して、フロン側で戦えるのはセルヒラードとジュラの2人だけである。二人の戦闘力はカクトメスト人の中でもかなり高い。二人共に長きにわたり、グリード氏やテツの農場を怪物から守り抜いてきた。だが、それでも今回は多勢に無勢であり、逃げる事すら困難であると思える。

「お嬢、中へ」

 フロンを中央やや後ろに置いて、左側をセルヒラード、右側をジュラが守る形に変わったが、苦肉の策である。一行は、襲撃はプランターン峠に入ってからと決めつけていた。明らかな油断であった。
 山賊側からは、万全の体制で待ち構えていたところへ、人数までも勝手に減らしてくれたのである。勝利は間違いなかった。

「ゲヒャヒャヒャヒャ」

 笑い声と共にひと際デカイ人影が、集団の後ろから前に出てきた。カクトメスト人特有の長身に、異様に長い右腕の持ち主が。

「久しぶりだだなぁ、セルヒラードぉ」

「俺はお前の顔など見たくもなかったがな、ダビルド」

「まぁそぉ言うなやぁ、セルヒラードぉ。俺ぁ会いたかったぜぃぃ」
「お嬢ちゃんも大っきくなったなぁ。まぁまだぁガキだがよぉ。ゲヒャヒャヒャ」

「私は忘れていたわよ。その嫌な目つきを見て、少しだけ思い出したわ」

「ゲヒャヒャヒャヒャ。思い出してくれてよぉ何よりだぁなぁ。しかしよぉ〜セルヒラード」
「お前一人でよぉ、どうやってお嬢ちゃん守るつもりだぁ!」

『ひとり?』

 その瞬間に街道の右腕の森の中で、いくつもの不気味な目が妖しく光った。

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