混じり《Hybrid》【新世界戦記】

小藤 隆也

遺恨 4

「先ずは今回の旅の目的を果たす事だ。セルヒラードもリオールも自重してくれ」

 ジュラは二人に釘を刺した。彼もダビルドの事は許せないが、友を殺された二人の気持ちはどれほどのものだろう。

「ああ、分かっている。お嬢の安全が最優先だ。先ずは無事に峠越えを果たすことに全力を尽くす」

「異論はないわ。ただ、旦那様に報告は上げておかないと、私から手紙をしたためておくけれど、テツからも一筆お願い出来ますか?」

「もちろんです。僕からリオールさんにお願いしようと思っていたところでしたから」

 皆、安全に旅の目的を果たす事で、思いは共通していた。だがダビルドの事件の事は、否が応にも思い出され、神妙な面持ちである。
 当時はまだ幼く、あまり覚えていないフロンが静かに口を開いた。

「ダビルドってあの目つきの悪い人の事でしょう。あまり覚えてはいないのだけれど」

「フロンはあの頃、ダビルドを怖がって近づかなかったからね」

「峠の手前にあるという茶店の事はどうなさいますか?頼めば峠の案内人を雇えるという事でしたが」

「雇おうと思っているよ。まあ現地で詳しく話を聞いてから、最終的に判断する事になると思うけど」
「フロンもそれで良い?」

「構いませんわ」

 何か事が起これば、またそれに付随した商売も成り立つものなのだろう。峠近くの茶店で、用心棒を兼ねた案内人を紹介する店があるらしいのだ。
 現地の人が加わってくれれば心強いのは間違いないのである。

「とにかく明日は朝早くに立ちましょう。皆んな今日は早目に休んで下さい」

 一行は明日の確認をしながら旅籠に戻った。安全を第一に考え、もし山賊に襲われたとしても、なるべく戦闘は避けてやり過ごす方針である。

 しかし、この時既に危険が迫っていた事を一行は気づいていなかった。彼らの夕食の席での会話に聞き耳を立てていた者達がいたのである。


「あれが、セルヒラードとリオールか。ガキ二人がテツとフロンだな」
「もう一人はお頭の話しにはなかったな。ジュラとか呼ばれていたが」

「カクトメストが二人は厄介だな。予想通り奴らは例の店に寄るらしい。お前、お頭に報告してこい」

 どうやら下っ端らしい男に使い走りを命令する。

「あいよ。しかしリオールってなぁ良い女だな。楽しみだぜ」

 下っ端とはいえ口調は横柄だ。どちらにしてもガラの良い連中ではない。

「お前まで回らねぇよ。フロンってガキでも相手にしてろ」

「ガキに興味はねぇよ」

 下っ端の男は、チッっと舌打ちしながら消えていった。


「ゲヒャヒャヒャッ。やっぱりリオールとセルヒラードかぁ。楽しみだぜぇ」
「特にリオールの奴は、生まれてきた事を後悔させてやるぜぇ。滅茶苦茶にしてやるぜぃ」

 下卑た笑い声が響く。ダビルドである。下っ端の報告を聞き、宿敵との再会を思い舌舐めずりしている。相変わらずの逆恨み野郎だ。

「ジュラの野郎もおれぁ気に食わなかったんだぁ。ついでに殺してやるぜぇ」
「いずれハルスベル村の連中わぁ皆殺しにしてやるがなぁ」

 ダビルドは、声を荒げて周りの連中に厳命する。

「テメエらぁ、フロンってガキだけは殺すんじゃぁねぇぞぉ。グリードの野郎への大事なエサだからなぁ」
「犯りてぇ奴がいりゃぁ、犯っちまっても構わなねぇがよぉ」

「頭ぁ。んなロリコン野郎、いやしませんぜ。普段から好き勝手やってるんで、女に飢えてもいませんしね」

「リオールって女は廻して下さいよ。エサールの女なんて滅多に犯れねえんで」

「ゲヒャヒャヒャッ。そうかぃ。ならガキの方は死なねぇ程度にいたぶってやんなぁ。グリードの野郎に見せつけてやる為にもよぉ」
「ゲヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ。ヒャヒャヒャヒャ」

 山賊の首領となり、最早本性を隠す必要も無くなったダビルドの下卑た笑いが響き渡った。

 ヨースフラを脱っした後、ダビルドは各地を転々と隠れ住んだ。顔の傷は勿論だが、事件の際にセルヒラードに食らった拳は、気の力でダビルドの内部をしこたま破壊していた。
 ダビルドが傷を癒し、元の体力に回復するまでには、実に1年を要したのである。そして再びダビルドは行動を開始する。

 プランターン峠の北西の山中に大きな牧場があった。ダビルドはグリードの時と同じ様にして、この牧場に入り込んだ。1年半の間は大人しくしていたダビルドだが、ここでもまた本性を露わにする。
 当時はまだ少数ではあったが、プランターン峠を根城としていた山賊に、牧場を襲う話しを持ちかけた。そうして山賊を手引きして、牧場主の家族から牧童までをも皆殺しにしてしまう。
 その後、ダビルドは山賊の仲間となるが、今度は首領を殺して自らが首領となり、山賊を根こそぎ自分のものとしてしまう。
 牧場跡には、遺跡を利用して建てた、サイロが付随する牧場主の自宅と作業場・牧童の住居をも兼用していた大きな建物があり、山賊の根城をそこへと移し、プランターン峠を主要の狩場として、勢力を拡大していった。
 現在では、付近の村々までをも支配すべく暗躍し始めている。
 事実、テツ達がダウアン村に着く前から、ダビルドはテツ達の動きを把握していた。今やダビルドの部下達はいくつもの村々に入り込んでいたのである。

「今ぁ、例の茶店に詰めてる奴ぁいるかぁ?」

「へい。顔の知られていない新入りを一人、潜り込ませてあります」

「そいつにゃぁ、茶店の他の奴らのぉ注意を引きつけてぇおく様に伝えておけやぁ」
「距離があるたぁいえ、気づかれちゃぁ厄介だからのぉ」
「ダウアンにいる奴らぁ、連中のぉ後からぁ尾行させときぁ」

「わかりやした。あたしらわ?」

「テメエらぁ、先ずは伏せといてからぁ………」

 ダビルドは、明日、テツ達が向かう街道の茶店までにも既に手を伸ばしていた。
 テツ達は万全の体制で待ち構える山賊と、相対する事になってしまうのである。

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