混じり《Hybrid》【新世界戦記】

小藤 隆也

旅立ち 3

 モロア村から先の予定は以下の通りである。先ずは港町のパラマまでの約280キロメートルを8日間かけて陸路を歩く。途中、いくつか峠を越えるが、基本的には海岸沿いを行く。
 パラマまでの道程で、気をつけなくてはならないのが、怪物との遭遇だが、今回の旅のメンバーは、戦闘において優秀な人材が揃っているので心配はないだろう。
 だが途中、勢力を伸ばしている山賊があるという噂を、いくつか耳にしている。その中に怪物・魔族の類いを飼いならしているという噂もあるので、充分警戒しなければならないだろう。
 詳しい事は山賊勢力に近づいてこないと、わかってはこないので、途中の村々で情報を集めながら、進む予定である。

 パラマからは海路で5日間を予定している。
 だがこの時代、ポートモレスビー行きの定期船はおろか、定期航路も確立されていない為、パラマに到着したら、先ずは船を雇わなくてはならない。
 ポートモレスビーまで直行出来るのか、或いは幾度か寄港しなくてはならないのかも、交渉次第という事になる。
 又、テツ達は海の怪物に慣れていない。パラマでは、海の怪物に通じた護衛も雇わなくてはならないだろう。

 最終的に、ハルスベルからポートモレスビーまでの道程に15〜20日間程度掛かるとみている。
 ポートモレスビーの滞在期間は1か月を予定しているので、全行程で2か月〜2か月半になる。以上がハルスベルからポートモレスビーまで、距離にして約850キロメートル、往復で1700キロメートルに渡る長旅の全容である。


 さて一行は問題なく、初日の目的地モロア村にたどり着いた。
 宿を決め、夕食は宿屋近くの飯屋で済ませた。宿屋に戻るとリンが寂しがった為、テツは女達の部屋を訪れ、夜更けまで語り明かした。


 次の日の朝がきた。リン達はハルスベル村に戻り、テツとフロン達はパラマに向かう朝である。

「姉様、テツ兄ちゃん。なるべく早く帰ってくるですよ」

「わかってる。リリンも気をつけて帰るんだよ」

 テツとリンが別れの挨拶を交わす。リンの左耳の上辺りに可愛らしい髪飾りが光っている。冬に7歳になった誕生日プレゼントに、テツが贈った物である。
 ネフラは夏に白く小さな花を咲かせる。リンはその花が大好きであり、髪飾りにはその花があしらわれている。
 手先が器用で、農耕具も自作してしまう、テツの手作りの品である。

 以降、リンはこの髪飾りがお気に入りとなり、大人になっても着用し続けた。思えばリンの「○○です」というしゃべり口調も、ある日テツに「そのしゃべり方、可愛いな」と言われて気に入り、定着したものである。

「ゴサーロ。リンの事を呉々もお願いします」

「お任せ下さい。お嬢様も無茶は控えて下さいね」

 帰りの道中を案じてフロンがゴサーロに念を押したが、逆にやり返されて苦笑いしている。

「じゃあね、リリン。お土産いっぱい持って帰るからね」

「楽しみに待ってるですよ、テツ兄ちゃん」

 これがテツとリンが最後に交わした言葉となる。二人がその後に会話する機会は二度と訪れる事はなかった。
 この時この場にいた誰もが、将来リンが英雄を育て上げる事になる事も、夢にも思っていなかっただろう。

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