混じり《Hybrid》【新世界戦記】

小藤 隆也

旅立ち 1

 ホワイトタイガーの襲撃を退けてから、5か月過ぎた、NW10年9月20日。ポートモレスビー行きを明日に控えた夕暮れ時である。テツは、グリード家の夕食に招かれていた。

「姉様も、テツ兄ちゃんも、いつ帰って来れるですか?」

 リンは、先程から同じ質問ばかりをし続けている。

「そんなに直ぐには帰れないわよ。さっきから何度も言ってるでしょ」

 フロンも、同じ返事を何度も繰り返している。リンの気持ちも理解しているから、いつもの強い口調にはならず、返事は柔らかだ。

 今回の旅についての話し合いは、既に終わっている。この夕食会は、単純にしばらくの間旅に出る、テツとフロンの為に開かれたものだ。
 同時に、残されるリンの為でもある。リンは冬の間に7歳になったが、近くには年の近い子供はいない。
 この時代は、世界中のどこも子供不足ではあるが、ヨースフラでは特に少ない。3歳〜20歳までの年齢が特に少なく、地方全体でも数える程しかいなかった。兄姉の旅の間は、遊び相手のいないリンにとって寂しい日々になる事だろう。

「それより、リン。あなたも明日の仕度は終わっているの?」

「大丈夫です、母様。準備万端です」

「朝になってから慌てても大変よ。もう一度確認しておきなさいね」

「はいです」

 落ち込み気味のリンではあるのだが、同時に楽しみな事もある。
 明日からの兄姉達の旅のお見送りとして、最初の宿場までの同行を許されたのだ。

 この頃のこの地方の見送りは、1・2日掛けて行う事が当たり前であった。グリード夫妻は、外せない用事が有り同行出来ないので、リンが行く事になった。リンのお供は、やはり今回の旅には同行しない、ゴサーロが勤める。

「テツ。今回のポートモレスビー行きは、君がまとめ役を勤める事になると思う」
「特に明日は、リンも同行する」
「色々と面倒掛けると思うが、呉々も宜しくお願いするよ」

「はい。グリードさん」
「事故の無いよう、充分に注意して行って参ります」

「失礼ですわねお父様。私も旅の間に12歳になりますし、テツの面倒は、逆に私が見る事になりますわよ」

「お前は、これだから不安なんだよ」
「本当にすまんな、テツ」

「いえいえ。フロンは本当にしっかりしてますし、僕も、もう直ぐ16歳になりますから、フロンには負けませんよ」

「ハハハハッ。まあ長旅といっても2か月程の事だ。道中の怪物さえ注意すれば大丈夫だろう」
「ついでに見聞も広めるつもりで、楽しんでくると良い」

「はい」

 テツとフロンは同時に返事をした。

 夕食を終え、グリード夫妻にお礼の言葉を述べて、テツは家に帰ってきた。几帳面なテツは、就寝前にもう一度、荷物の確認をする。
 フロンとリンも今頃は奥さんに言われて確認している事だろう。
 再構築から10年。テツがヨースフラ地方から出るのは初めての事である。
 テツは、色々な想いを抱きながら眠りについた。

 そして旅立ちの朝を迎えたのである。
   

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