混じり《Hybrid》【新世界戦記】

小藤 隆也

怪物 4

  「フロンとテツについてなんだが」

   グリードが話し始めて直ぐに、ゴサーロがグリードに逆に尋ねる。

  「混じりではないかという件ですか?」

 前々から言われていた件なので、フロンとテツに関わる事と聞いて察しがついた様だ。

  「ええ。お嬢様ももう10歳になられましたし、そろそろ一度、領主様の元に報告に行かせた方が良いのではないか、という意見が出まして」

 グリードと共に会合に出席していたリオールが説明した。

 この二人、ゴサーロ・アグアリンとリオール・メツは共にファル人のエサール種である。

 NW10年のこの時代に生き延びていたファル人は少ない。
 その中でもエサール種となると、1000万人いたかどうかというくらいなので、一つの家の使用人として、二人のエサールがいるという事は大変珍しい事だっただろう。

 その身体的な特徴は耳が長く尖っていて、髪の色は緑系か金系の2種類・目の色も同様である。
 ゴサーロは男性で髪と目は金系、リオールは女性で髪と目は緑系であった。

 ガレン人とはまた違った頭の良さを持っていて、文明度は低いが(定義的には文明ではなく思想の分類に定義される)大変秩序の高い社会的生活を再構築前には営んでいた。

 マウルションタ人と同じような言語による精霊魔術の技術も持ち合わせていて、平均寿命も300年前後と非常に長い種族である。

   「そうね。フロンとテツが混じりであるのは間違いないでしょうし、フロンも大きくなったからには、報告の義務を果たさせないといけないでしょうね」

 オソーンも渋々ではあるが、同意せざるを得ない事だった。


 ここで《混じり》と領主について説明しておこう。

 《混じり》は《Hybrid》とも言われている。
 様々な世界が再構築される際に、全ての生物、いや、物質は一度分解され、その後に再構築されている。
 その際に、他の一つ、或いは数種類の生物や物質を構成する要素と混ざり合った状態で再構築されてしまった人、或いは物を指す言葉である。

  一言で《混じり》といっても、実際にはその混ざり具合は様々で、身体的・能力的な現れ方も様々である。
 その多くは、殆ど影響を及ぼさない程度の物であっただろう。
 ただし、中には著しく身体的・能力的に影響する場合がある。
 プラスに影響する場合も、マイナスに影響する場合もあるが、特にプラスに影響した場合には、国や地域にとっては、得難い優秀な人材になる。

 この時代の領主や指導者的な立場の者達は、その把握と確保に躍起になり始めていた。

  また《混じり》のマイナス面には、性格が酷く攻撃的になったり、内向的になったりする場合もあった。
 故にこの地方の領主も、《混じり》の影響を強く受けていると思われる者には、報告の義務を課し、又、直接領主の元に赴いて、面談するように布告していたのである。


 さて領主である。
 領主様といっても正式に領主として認められ、地方の豪族達から税を取っている人物ではない。
 ガレン人のゴールド種で名前をドラーガ・ストーコビフという人物である。

 再構築の時、このインドネシア大陸の東端に飛ばされたドラーガは、いち早く人々が集団で暮らしてゆける様に、集落を整備し、市を開き(当時は市といっても物々交換が基本)基本的な社会ルールを決めた。
 それにより、彼の周りには次々と漁村や農村、更には建築や服飾を特産とする村までもが誕生した。
 その頃には、その周辺の地方にもドラーガの名は広まり、既に豪族としての地位を確立し出していた者達も彼の元に集まった。

 ヨースフラ地方の豪族達も、何度か会合を開いた末に、全員で彼の傘下に入る事を決めた。

 こうしてドラーガは領主的立場に祭り上げられた。
  ただ、ドラーガはあくまで全体を見通して指導する立場に留まり、税を取って自衛の為の集団を作ったりはせずに、町の治安も各々の自発的な自警団に任せていた。
  その事が後に、彼には禍いとなって降りかかるのだが、この頃はまだ、領主的立場を善意でこなしてくれている、気の良い親父であった。
 正式な領主ではないとはいえ、彼の傘下の村では彼の事は、尊敬と敬意を込めて、領主様と呼称していたのである。
   

 テツとフロンの話しに戻ろう。
 フロンは、外見は一般的なガレンシルバーと変わりがないが、先にも述べたように、信じられない程に頭が良い。混じりの影響を受けていると思わざるを得なかった。

  テツの方はどうかというと、外見からして一般的なアースイエローとは違っている。
  再構築前のテツは、真っ黒な黒髪の持主であった。
  今も黒髪は変わらないが、14歳の年齢とは思えない程、白髪が混じっている。さらには、アースイエローに生える筈のない黄色い髪が、まるで模様の様に一部に生えているのである。

 更に、テツの身長はアースイエローの14歳男子の身長としては158センチで、かなり小さい方だが、それに不釣り合いな程に手足がデカイ。
 長さは普通なのだが、手のひらと足のサイズだけが不必要にデカかったのだ。

  ついでに言うと、フロンの身長は152センチで、こちらは逆にガレンシルバーの10歳女子としては大きな方である。
  因みにアースイエローとガレンシルバーの平均的な男女の身長差と平均身長は、ほぼ同じである。

  そして、テツの最も人と違っていたところが、身体能力の高さである。
 アースイエローどころか、再構築後の世界で、どの人種よりもずば抜けて身体能力が高かったカクトメスト人よりも更に高い身体能力を備えていた。
 そのような理由から、二人共に混じっていると見て間違いなかったのである。


  「フロンを領主様の元に行かせるのに、テツも一緒に行って貰えるのは心強い。その為にテツにはポートモレスビー行きを待ってもらっていたのだし」

 グリードの意見を聞きながら、オソーンも口を開く。

   「そうね。でも子供達だけでは心配だし、ゴサーロ一緒に行ってくださる?」

   「いや、私はここを離れる訳には行きませんし、セルヒラードに行ってもらうのが良いでしょうね。テツの方からも小作人を一人連れて行ってもらいましょう」
   「どちらにしても、もう直ぐ冬になりますし、旅立ちは春になってからが良いかと思いますが」

   「そうだな。それが良いだろうな」

 グリードが小さく頷く。

   「テツにはこの事を今日伝えるのですか?」

  オソーンの問いかけに、グリードが、

   「いや、今日の会合で話しあった議題で、もっと急を要する議題があるので、今日のところはその事だけを伝えるよ」
   「ポートモレスビー行きの件は、彼とも話し合わないといけない事だし、冬の間にでもゆっくりと煮詰めていくよ」

 グリードがそう結論づけた丁度その時に、子供部屋のストーブの調整を終えたテツが居間に入ってきた。
  後ろからリンもくっ付いてきている。 

   「ゴサーロさん、リオールさん、お久しぶりです」

 テツが挨拶を交わす。

   「やあテツ君。うちの小作人がお世話になっているね。ありがとう」

 使用人頭のゴサーロが代表して、ネフラ栽培の手ほどきを受けている事に関してのお礼の言葉を述べた。

 テツはニコッと笑顔を返してから、グリード氏に向き直り、

   「居間のストーブの調整を始めても良いですか?」

  と、尋ねる。

   「ああ。お願いするよ」
   「作業しながらで構わないので、さっき話した会合の報告を聞いてくれるかい?」

 と、グリードはテツに返した後、テツの返事も待たずにオソーンとゴサーロの顔を見回して、

   「みんなにも一緒に聞いて欲しい。リン。リンも一緒に聞いておきなさい」

  と、リンにまで念を押して話し始めた。
   


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