混じり《Hybrid》【新世界戦記】

小藤 隆也

農園 5

  「どんな調子だい?」
  
  「別に〜。まあ順調よ。それより、あの2人ほって置いていいの?」

  「遠くにいるわけじゃないし、大丈夫だよ」

   二言三言の言葉を交わした後、テツもフロンの脇について作業を始めた。

   フロンが、何か無茶な事をやりだしやしないかと、心配はするものの、今更作業のやり方で、彼女に教える事は何も無い。
   彼女からすれば、去年も散々手伝った作業であるし、1年前の1シーズンだけしかやってない事とはいえ、彼女が忘れてしまっているわけがないのだ。

   何故なら彼女は天才だから。恐ろしく頭が良い。更に言えば勘も鋭い。
   フロンに一つの事を教えれば、教えた以上の事をこなしてしまう。物事の本質を理解し、その先の事を想像し、実践してしまうのだ。

   元々、ガレン人は頭が良い。再構築により融合された世界の人種の中でもズバ抜けている。

   再構築前においてガレン文明は、月面に1000万人規模の都市を2つ持っていて、3つ目の都市も建設中だったと言われている。
   更に言えば、金星と火星にテラホーミングの為の研究チームを送り出していて、その為の作業員も常駐させていた程である。
   次に発達していたと言われるアース文明が、一度だけ月に人を送った事がある程度だった事を考えても、当時のガレン文明の科学力の高さが伺えるだろう。

   そういったガレン人の中でも、フロンの頭の良さは抜きん出ている。異常と言える程だ。しかし、その事が後に彼女に不幸を招いてしまう事になるのだが・・・。

   ついでと言ってはなんだが、彼らが順調に刈り入れ作業をこなしている間に、もう少しフロンについて語っておく事にしよう。

   フロンは強運でもあった。
   彼女は再構築前から、このヨースフラ地方に住んでいた。そしてそれは彼女の母親も同様にである。
   つまり、彼女は実の母親と共にこの地に留まり、そのまま実の母親と共にあり続ける事が出来たのである。

   確かなことは今現在も解明されてはいないが、再構築の際、先ず八割の生物は再構築される事なく消滅したと言われている。
   運良く生き延びた人々も、地球上のあらゆる地域にランダムに飛ばされ、その地で再構築されていった。

   更には、再構築後には異常気象や天変地異が頻発した。環境の変化にも馴染めずに、生き延びた人々からも、更に三割の人間が生存競争に敗れた。そして、その消えていった人々の多くは老人や子供である。
 再構築時のフロンの年齢は、僅か1歳の赤ん坊であった。

   当時、一番人口の多かったアース人を例に挙げれば、再構築前に70億人いた人口が、NW2年の時には9.6億人くらいだったといわれ、NW10年現在では、多少安定し回復傾向にもあったが、それでも10億人には届かなかっただろう。

   そんな激動の時代である。肉親との再会を果たす事など奇跡以外の何物でもない。
 再構築前と変わらずに、同じ地域に暮らし続けている事もまた奇跡であった。

   ヨースフラ地方は確かに、ガレン文明時代の地図にも載っていた。だが、テツの出身のアースの地図では、ニューギニア島の南に広がるアラフラ海という名の海の底であった。

 地球の地形も変わっているのだ。
 世界地図を作成していた、いくつかの文明世界の世界地図と照らし合わせてみても、少しずつ食い違いがある。

   全ての世界地図は大きくは違わない。似通っている。しかし、全く同じ物はなく、再構築後もまた少しずつ、どれとも違っているのである。

 因みにアースの地図ではインドネシアは大陸ではなく、いくつもの島からなる諸島で、ヨースフラ地方は、インドネシア諸島の東にあった、パプアニューギニア国という別の国の領海内になる。

   以上の事を踏まえて考えてみると、赤ん坊だったフロンが生き残り、実の母親と共に生まれた土地で暮らし続ける現況は、正に奇跡。強運の為せる業であった。

  「ねえテツ。今日ってどの位かかるの?」

   作業を続けながらフロンが問いかける。

  「なにが?」

  「時間よ、時間」

   一度で察しなさい、とでも言いたげな口調である。

  「ああっ。今日はこの一区画刈り摂るだけだから、昼過ぎくらいには終わるんじゃないかなぁ」

   元々今日は、グリード氏の小作人達に、作業方法を教える事が目的だったので、テツの作業量自体も少なく抑えてあった。そこにフロンが手伝いに来たのである。
 2年目のフロンは流石の手際であったし、当初の考えよりも、よっぽど早く終わるであろう。

  「じゃあ、終わったら私の部屋のストーブの調子見に来てよ。どうせ暇でしょ」

   ここ、 インドネシア大陸は6月から冬になる。
    再構築前のこの地方一帯の気候は、アース・ガレンの2つの世界では共に乾季と雨季の2つに分かれていて四季はない。
   だが他の世界では、再構築前にもこの地方に四季があった記録が残っている。  気候も変わっているのだ。

   グリード氏の家のストーブはネフラを燃料に使っている。ネフラは燃料効率は良いが、ススが溜まりやすい為にマメにメンテナンスが必要になる。
   6月迄まだ1月半あるが、早目に調整しておくに越したことはない。
   テツの家も当然ネフラストーブだが、既に調整を終えてある。

   しかし、テツは刈り入れが終わっても、暇というわけではない。
   刈り採ったネフラの仕分けや加工も残っているし、やる事はいくらでもあるのである。

  「う〜ん」と、少し考えたが、グリード氏にフロンに手伝わせてしまった事を伝えるつもりであったし、いつもお世話になっているグリード家に、しばらく顔を出していなかったこともあるので、フロンの申し出を受ける事に決めた。

  「いいよ。んじゃ、チャチャっと終わらせて屋敷の方に行こうか」

   フロンは振り向きもしなかったし、作業の手も止めはしなかったが、嬉しそうにニコッと笑った。


  

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