混じり《Hybrid》【新世界戦記】
序章 2
   ドイツ国の時間で早朝の4時を10分程過ぎている。さすがに途中の2〜3時間はうつらうつらと半分寝てはいたものの、殆ど徹夜してしまった10歳の息子に向かって父は言った。
  「だから最終調整が終わったら実験の前に起こしてやると言っただろう。今からでも少し寝たらどうだ」
  「後30分くらいで調整終わるんでしょ。待ってるよ。今はもう眠くないしね」
   決して強がりではなく、楽しみにしていた父の発明の完成を間近にして、息子はすっかり興奮してしまい、眠気など何処かに吹き飛んでしまっていた。
   父の名はマティアス・エジル。彼が今日完成させようとしている大発明はタイムマシンである。
   彼はフランクフルト大学の教授ではあるものの、その専門は理化学や物理学といったものではなく、全くの畑違いと言っていい生物学者である。
しかしながら子供の頃からの夢でもあったタイムマシンを独学によって完成させようとしているのである。
   今回、実験しようとしているタイムマシンは人が乗り込む程の大型の物ではなく、手荷物を運べる程度のかなり小さな物ではあるが、成功すれば世紀の大発明である。
   その為、幼い息子の生で実験に立会いたいという我儘も許したのだが、予定していた深夜1時の開始時間になっても調整が終わらず、押しに押して、既に4時になってしまっていた。
   どうにか後30分程で実験を開始できる目処がたったところである。
   息子の名はトマス・エジル。天才である。
   学校も飛び級に飛び級を重ね、来年には高等学校を卒業して大学へ入学しようか、という程の勢いで勉強していた。
決してガリ勉を強いられていた訳ではなく、学ぶ事が好きで堪らず、自ら勉学に励んだ結果が今の学力である。
   その吸収力は真に天才であったし、その考え方は実に柔軟で、従来の考えにとらわれず、新たな発見を生み出す事に適していた。
  将来はこの息子も素晴らしい大発明を生み出すだろうとマティアスは確信していた。
それと同時にマティアスは、息子トマスの自分では遥かに及ばない才能に嫉妬し、それ以上に畏怖してもいたのである。
   何気なく発せられたトマスの言葉で何度もハッとさせられ、その都度その才能に恐怖を覚えさせられてきた。
   事実、今回のタイムマシンにも、トマスの言葉からヒントを得て組み込まれた機能や理論がいくつもある。
   相手が大人であれば共同研究と言って差し支えない程のものであった。
   息子の我儘を叶えた裏には、そういった思いもあったのである。
   さて、今回の実験が何故に深夜に行われる事になってしまったかというと、簡単に言ってしまえば、大学側からの許可が下りなかったからである。
   理由は色々とあるが、主な理由は専門外の実験を大学の研究室で行なうという事と、彼の理論では一部時空を捻じ曲げる事となり、それが危険と判断された為である。
   しかしながら研究室以外で今回の実験を行なう事は不可能であった。なら秘密裏に深夜にやってしまおうとなったのである。
   バレれば大学側から何らかの責任を取らされる可能性が高い為、この研究に参加していた学生の中からも、リスクを承知で参加すると言ってくれた主要メンバーから、更に数人に絞って少人数で行なう事にした。
   この事も、調整が遅れた原因の一つになったのだろう。
   マティアスの理論というものも、文献が残っている訳ではないので、詳細はわからないが簡単に述べておこう。
   彼の理論では、このタイムマシンはどうやら過去にしか行けない物だった様である。
   未来は未だ作られておらず、時間も辿りついていない。
   それに対して過去は既に作られていて、その場所と時間を座標として確立する事が出来る。そして波の様に流れる時間の現在の時点と、確立した座標の時点との距離を捻じ曲げてくっつけ、移動してしまおうというものであった。
   しかしながら未来に行けないとなると問題も生じてくる。過去に飛ばしたタイムマシン実験が成功したかどうかの確認が取れないのである。
   だがこの問題もある種の矛盾が解決してくれる。
   このタイムマシンは時間を遡っている訳ではない。
   時点と時点とをくっつけ移動しているのである。つまり、時間をかけて移動している。
   時間をかけて移動した先は未来である。それがたとえ過去の時点であったとしても。
   そして時間をかけて移動する前の時点、それは過去という事になる。過去には行けるのである。
   それらを踏まえた上での今回のタイムマシン実験の全容はこうである。
   先ずはタイムマシンを過去の時点に移動させる。そこでタイムマシンに設置したカメラで過去の風景を撮影し、その後に再び、元の時点に移動させ戻してしまおうというのである。
   時間をかけて行った先は未来。
   つまり未来には行けないと言っておいてなんだが、正確にはこのタイムマシンは未来にしか行っていないのだ。
   だが過去を観測して帰って来る事でこの実験は大成功となるのである。
   見ている人達からすれば、ひどくつまらない実験と言わざるを得ない。
   タイムマシンは過去には行くが元の場所に戻るだけの事である。元の場所から見ている人達からすれば何も変わらない。
   実験を開始した後に、見た目には何も変わっていないタイムマシンからカメラを外し、確認するだけの実験となるのである。
   しかし、トマス少年はその実験が待ち遠しくてたまらない。10歳の少年が徹夜してしまう程に。
  タイムマシンは今や遅しとその時を待っているのである。
  
  「だから最終調整が終わったら実験の前に起こしてやると言っただろう。今からでも少し寝たらどうだ」
  「後30分くらいで調整終わるんでしょ。待ってるよ。今はもう眠くないしね」
   決して強がりではなく、楽しみにしていた父の発明の完成を間近にして、息子はすっかり興奮してしまい、眠気など何処かに吹き飛んでしまっていた。
   父の名はマティアス・エジル。彼が今日完成させようとしている大発明はタイムマシンである。
   彼はフランクフルト大学の教授ではあるものの、その専門は理化学や物理学といったものではなく、全くの畑違いと言っていい生物学者である。
しかしながら子供の頃からの夢でもあったタイムマシンを独学によって完成させようとしているのである。
   今回、実験しようとしているタイムマシンは人が乗り込む程の大型の物ではなく、手荷物を運べる程度のかなり小さな物ではあるが、成功すれば世紀の大発明である。
   その為、幼い息子の生で実験に立会いたいという我儘も許したのだが、予定していた深夜1時の開始時間になっても調整が終わらず、押しに押して、既に4時になってしまっていた。
   どうにか後30分程で実験を開始できる目処がたったところである。
   息子の名はトマス・エジル。天才である。
   学校も飛び級に飛び級を重ね、来年には高等学校を卒業して大学へ入学しようか、という程の勢いで勉強していた。
決してガリ勉を強いられていた訳ではなく、学ぶ事が好きで堪らず、自ら勉学に励んだ結果が今の学力である。
   その吸収力は真に天才であったし、その考え方は実に柔軟で、従来の考えにとらわれず、新たな発見を生み出す事に適していた。
  将来はこの息子も素晴らしい大発明を生み出すだろうとマティアスは確信していた。
それと同時にマティアスは、息子トマスの自分では遥かに及ばない才能に嫉妬し、それ以上に畏怖してもいたのである。
   何気なく発せられたトマスの言葉で何度もハッとさせられ、その都度その才能に恐怖を覚えさせられてきた。
   事実、今回のタイムマシンにも、トマスの言葉からヒントを得て組み込まれた機能や理論がいくつもある。
   相手が大人であれば共同研究と言って差し支えない程のものであった。
   息子の我儘を叶えた裏には、そういった思いもあったのである。
   さて、今回の実験が何故に深夜に行われる事になってしまったかというと、簡単に言ってしまえば、大学側からの許可が下りなかったからである。
   理由は色々とあるが、主な理由は専門外の実験を大学の研究室で行なうという事と、彼の理論では一部時空を捻じ曲げる事となり、それが危険と判断された為である。
   しかしながら研究室以外で今回の実験を行なう事は不可能であった。なら秘密裏に深夜にやってしまおうとなったのである。
   バレれば大学側から何らかの責任を取らされる可能性が高い為、この研究に参加していた学生の中からも、リスクを承知で参加すると言ってくれた主要メンバーから、更に数人に絞って少人数で行なう事にした。
   この事も、調整が遅れた原因の一つになったのだろう。
   マティアスの理論というものも、文献が残っている訳ではないので、詳細はわからないが簡単に述べておこう。
   彼の理論では、このタイムマシンはどうやら過去にしか行けない物だった様である。
   未来は未だ作られておらず、時間も辿りついていない。
   それに対して過去は既に作られていて、その場所と時間を座標として確立する事が出来る。そして波の様に流れる時間の現在の時点と、確立した座標の時点との距離を捻じ曲げてくっつけ、移動してしまおうというものであった。
   しかしながら未来に行けないとなると問題も生じてくる。過去に飛ばしたタイムマシン実験が成功したかどうかの確認が取れないのである。
   だがこの問題もある種の矛盾が解決してくれる。
   このタイムマシンは時間を遡っている訳ではない。
   時点と時点とをくっつけ移動しているのである。つまり、時間をかけて移動している。
   時間をかけて移動した先は未来である。それがたとえ過去の時点であったとしても。
   そして時間をかけて移動する前の時点、それは過去という事になる。過去には行けるのである。
   それらを踏まえた上での今回のタイムマシン実験の全容はこうである。
   先ずはタイムマシンを過去の時点に移動させる。そこでタイムマシンに設置したカメラで過去の風景を撮影し、その後に再び、元の時点に移動させ戻してしまおうというのである。
   時間をかけて行った先は未来。
   つまり未来には行けないと言っておいてなんだが、正確にはこのタイムマシンは未来にしか行っていないのだ。
   だが過去を観測して帰って来る事でこの実験は大成功となるのである。
   見ている人達からすれば、ひどくつまらない実験と言わざるを得ない。
   タイムマシンは過去には行くが元の場所に戻るだけの事である。元の場所から見ている人達からすれば何も変わらない。
   実験を開始した後に、見た目には何も変わっていないタイムマシンからカメラを外し、確認するだけの実験となるのである。
   しかし、トマス少年はその実験が待ち遠しくてたまらない。10歳の少年が徹夜してしまう程に。
  タイムマシンは今や遅しとその時を待っているのである。
  
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