魔剣による(※7度目の)英雄伝説

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第1章『最強の魔剣』編 21話「これからのこと」


 トントントン、と心地よいリズムで包丁の音がする。音のする先を見ると、猫耳の生えた銀髪のメイド姿の女性と、もう一人のこちらもまたメイド姿の白髪の少女が並んで夕食を作っている。ご存知の通り、クロとレイである。二人は同じような色の髪をしており、クロのほうが少し背が高いのでこうして並んでみると、姉妹のように見える。


「……それにしても」


 と、レイが口を開く。


「どうかしたの、レイ?」


「今日のことで改めてリュート様の異常さが分かりました……。伝説の魔剣なのですから、当然なのだと思うのですが、やっぱりこうして実際に見てみるとどうしても同じことを思ってしまって」


「なるほど……。確かにそうですね。普通の人間からしたら魔剣は人外の存在ですし。それもしょうがないとは思いますけど。それにすぐに慣れると思いますよ?」


「…………アレ・・に慣れるというのも、ある意味恐ろしいのですが………」


 レイがそう言うと、


「フフッ」


「……クスッ」


 そう言って、二人は笑ってしまう。この二人は、何処かしら共通点が多いため気が合うのだ。


「あぁ、でも」


「?」


 クロが言葉を続ける。


「リュート様からご指導いただければ、あの程度・・・・はレイもすぐに出来るようになりますよ?まぁ、身体能力などを考慮するとどうしても互角とはいきませんが…」


「……………」


 共通点が多いとは言え、魔剣と人間。残念ながら、こういうところの認識の違いは明確に現れてしまう。


「(………クロも大概ですよね!?)」


 と、内心レイが叫んでいたのは言うまでもないだろう。残念ながら、それは苦笑いとして彼女の顔に表れてしまっていたが……。






「リュート様。お食事ができました」


 クロは夕食の準備が出来たため、リュートを呼びに来ていた。彼らが現在いるのは、リュートの異空間の家である。リーシャたちは、リュートから話があるということで彼に付いてきたのだ。


「分かりました、クロ。美味しい食事をいつもありがとうございますね」


「い、いえ!私がしたくてやっていることなのですから!リュート様がお気になさることなどありません!!それよりも、美味しく作れているかどうかが心配です」


 クロが少し自信なさげに俯いてしまう。そんな様子にリュートは、苦笑いをして彼女の頭に手を置く。


「はぅっ!?!?」


「大丈夫ですよ、クロ。いつもお世話になっている身で言うのはおこがましいとは思いますが、私はクロの料理、とても好きですよ。私の好み通りに、細かいところまで丁寧に作ってくださっているのですから。美味しくないわけがありません」


 そうして、彼は(※殺人)笑顔スマイルをクロに向ける。


「は、はい!!ありがとうございます、リュート様」


 そう言って、クロは大輪の花のような笑顔を彼に向ける。それを見ていたギャラリー二人は、


「………ホント、スゴイわね」


「………はい。アレを天然でやっているのがまた罪ですよね」


 そんなことを言い合っていた。






「「「「いただきます」」」」


 そう言って、四人が食事を始める。その量は、四人では少し多いように思えるが意外なことに、


「このスープはとても美味しいですね。あまり見ない料理ですが……」


「………あ、えっと。そ、それは私が作ったものです。王宮でも出されていた料理なんです。お気に召しましたか?」


「はい。あっさりしているようで、しっかりと旨味があります。これは、いいですね」


「クロにも教えてあるので、いつでも作れると思いますよ」


「はい!しっかりと覚えましたので、いつでも言ってくださいね、リュート様」


「では次回はよろしくお願いますね、クロ」


 そう言うと、リュートは食事を再開する。今回二人が作った料理の六割方は、リュートの胃袋に入っていた(魔剣に胃袋があるのかは知らないが)。その細身からは、誰も想像できないだろう。


「………リュートはよく食べるのね?」


「そうですか?」


「えぇ、とっても。…………その様子だと、いつもあんな感じなのよね?なんであんなに食べてあの体型なのよ……私は食べるのを必死で我慢してるのに」


「リーシャ様?」


「………そういえば、あなたもソッチ・・・側だったわね」


 更に意外なことに、今日の食事の三割方はレイの胃袋に入っている。もちろん、今日だけではなく毎日この量を食べている。にも関わらず、彼女はスレンダーな体を保っている。


「へ?な、何がでしょうか?」


「あぁ、気にしないで。ごめんなさい。それより、一つ聞きたいことがあったのだけど」


 そう言って、リーシャはリュートの方を向く。


「何でしょうか」


「イザナミさんのことよ」


「………あぁ、なるほど」


 リュートは彼女の言いたいことをすぐに理解して、その答えを述べる。


「確かに、私はリーシャの魔力量ではクロしか現界できないと言いましたが、実は別の方法もあります」


「そうなの?」


「はい。まぁ、あまりこの手は使いたくはないのですが」


 そう言って、リュートは説明を始める。


「今、クロしか現界出来ないのは魔力が足りないからです。だったら、足りない魔力を補えばいいだけの話です」


「補う?………もしかして」


「おそらく、ご察しのとおりだと思いますが、私です。私は、リーシャの魔剣でもありますが、同時にクロたちの契約者でもあるのでリーシャの魔力量以上の魔力も扱えるのです。まぁ、普通に魔力を消費するよりも倍近くの魔力を消費してしまいますので、あまり使いたくはないのですよ」


 と、そこでレイが何かに気づいたようにハッと顔をあげる。


「もしかして、今リュート様が現界しているのは……」


 そこで、リーシャも気づいたようだ。


「………リュート自身の魔力を消費してる?」


「まぁ、そうなりますね」


「………そう、なんだ」


 リーシャの顔に少し影が落ちる。よく考えてみれば、すぐにわかることだった。『クロしか現界出来ない』と彼自身が言ってたのに。ならばなぜ彼は現界しているのかと普段の彼女ならば疑問に思ったであろう。しかし、彼女は少し浮かれていたのかもしれない。絶剣リュートと言う、人外の力を手に入れたことで。それに加え、自分の無力さから彼に無理をさせているのだから、優しい彼女からしたら衝撃の事実だったのだろう。


「……………」


 リーシャは黙って、悔しそうに手を強く握りしめている。レイもなんと声をかければいいのか分からないといった表情を浮かべていた。そんな彼女の様子を見ていたリュートは、


「………私はこれまで生きてきた長い時間の中で、多くの偉人を見てきました」


 ポツリとそんな言葉をこぼし始めた。


「農民から王になった者、奴隷から騎士になったもの、大国から国を守った者……。私はそんな何人もの偉人たちを見続けてきました。そんな彼らには必ず強い信念がありました。その信念は、全員が大きな失敗を経験したときに立てられたものです」


「………失敗?」


 リーシャは思わず聞き返す。


「もちろん、失敗をしない人間などありえないのですが。彼らは、その後が普通の人間とは違いました。彼らは決して諦めなかったのです」


「諦めない………」


「はい。失敗を失敗として認め、それでもなおもがき続ける。偉人としての華々しさなど、そこには一切ありません」


「…………」


 リーシャは彼の目を見て、彼の言葉を一言一句聞き逃さないようにしている。


「だから、リーシャも決して諦めないでください。もがき、苦しんで、それでも前に進もうとしてください。その途中で止まってもいい。誰かに助けを求めてもいい。あなたは必死に前を向いて進んでください。そうすることが、きっとあなたの夢に繋がるでしょう」


 そう言われて、リーシャはハッとした。そうだ、自分には夢がある。そのために彼に会って、彼と契約したのだ。……だったら、やることは簡単だ。反省はした。もう二度と、同じような失敗はしない。そう心に誓って、彼女は顔を上げる。


「………ありがとう、リュート」


「いえ、お気になさらないでください。私は、あなたの魔剣なのですから」


 そう言って、リュートは笑顔を浮かべる。


「っ!!!」


 その笑顔を向けられたリーシャは反射的に彼から目を逸らす。


「(な、なんなのよ!今のは!!)」


 あまりにも、綺麗な笑顔に胸がドキッとしたようだ。


「どうしましたか、リーシャ?まだ、不安ですか?」


「へ?あ、いや大丈夫よ!」

 
[(そう、大丈夫。いきなり、曇りのない綺麗な笑顔を向けられて少し驚いただけよ。大丈夫、大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈……)」


「?」


 そこには、自分が原因なのに不思議そうに首を傾げる残念な少年と、ブツブツと小声で何かをつぶやく(リュートには聞こえているが何のことかはもちろんわかっていない)残念な少女、というなんとも不思議な図が出来上がっていた。






「……あぁ、そういえば。今日呼び出した理由を言っていませんでしたね」


 夕食が終わりに近づいていた頃に、そういえばと言うようにリュートがそう切り出した。


「そういえば、そんな話だったわね。完全に忘れてたけど」


「……私も少し忘れかけていました」


 と、リーシャとレイもリュートと同じだったようだ。


「で?話って?」


「はい。主には二つほど」


 そして、リュートはクロが入れた紅茶を少し飲み、


「リーシャ」


「?」


「どうぞ、受け取ってください」


 そう言って、指をパチンと鳴らす。すると、


「きゃっ!?!?」


「っ!?!?」


 突然光が現れる。その光はすぐに治まったが、いきなりだったためリーシャとレイは目が治るまで少し時間がかかってしまう。


「あ……。申し訳ありません。お二人とも」


 コレにはリュートも予想外だったようで、素直に謝罪をする。


「い、いえ。大丈夫です、リュート様」


「っ……もうっ!何よ今の!!」


ソレ・・が発した光です。驚かせしまい、すみません」


ソレ・・?」


「はい、ソレ・・です」


 リュートはリーシャの隣を指差す。そこには……、


「へ?…………コ、コレって」


「私です」


「へ?」


「ですから、私です」


 リーシャは状況の整理が追いつかないようだ。なぜなら、彼女の目の前には、黒色の剣が浮いていたからである。その剣にリーシャは魅入ってしまう。


「…………じゃあ、これが」


「はい。それが『絶剣』です」


「これが………」


「はい。そういえば、あなたに渡すのを忘れていたので。まぁ、私がそばにいればすぐに渡せるのですが、一応見ておいたほうが良いかと思いまして」


 その剣は、リーシャが見てきた剣とは何かが違っていた。何が、と定義することはできない。しかし、コレが人知を超えた力であると否応でも分かってしまう。そんな存在が彼女の目の前に現れていた。


「これはリーシャに預けます。能力などは、いずれ教えますのでとりあえず、それを振れる・・・ようになってください」


「………分かった」


 リュートは何か含みのある言い方をするが、リーシャにそれを気にする余裕はない。


「それと、もう一つの話ですが」


「え?……………あ、あぁ。もう一つの話ね」


 リーシャはこの剣をもっと見ていたかっようだが、リュートの話を無視するわけには行かず、改めて彼の方を向く。


「明日の朝から、本格的に訓練を始めます。場所は、ここの方がいいですかね。時間は、どうしましょうか?」


「えっと朝にも少し時間があるから、四時くらいからできないかしら?」


「…………四時ですか?」


「?えぇ、そのくらいからやりたいのだけど」


 リーシャに目には、いつもの余裕があり落ち着いた雰囲気のリュートではなく、少し引きつった笑顔を浮かべるリュートが映っていた。


「都合が悪いのなら、別に………」
 

「いえ、大丈夫です」


「……そう?」


 普段は見せない彼の姿に少し戸惑いながら、リーシャは明日の約束をする。


「…………今日は、早めに寝ないといけませんね。目覚ましも………」


「リュート?」


「なんでもありませんよ」


「わ、わかったわ」


 有無を言わせないリュートの言葉にまたもや戸惑いながら、返事をするリーシャ。


「それじゃあ、明日からよろしくね」


「………はい。明日から頑張りましょう」


 そう言って、彼は微笑む。


「………」


 それを見たリーシャは、頬を少し赤く染めそっぽを向いてしまう。その様子をレイは、微笑ましそうに見ていた。





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