魔剣による(※7度目の)英雄伝説

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第1章『最強の魔剣』編 18話「怒りの理由」


〜ラルフside〜 
 オレは最初は自分の耳を疑った。何故ならこのオレ、ラルフ・ローレンに歯向かうやつが現れたからだ。
 
 
 転校生が来た、と聞いたときはどんなやつが入ってくるのか、少し楽しみだった。いい女だったら、オレのモノにして可愛がってやろう。そんな風に思っていた。しかし、それは二つの意味で予想外に終わる。一つ目は、女はいい女どころの話ではなかったことだ。この学園の四大美女と比べても遜色ないほどの美少女だった。そして、オレは彼女を自分のモノにしようとした。だが、

 
『………申し訳ありませんが、それは出来ません』

 
 そう。コイツだ。コイツがこのオレに歯向かったのだ。しかも、コイツは
 
 
『私にとって、お金などよりも彼女の方が大事ですから』

 
 と言った。オレの言うことを聞かないだけでなく、このオレに歯向かい、このオレをコケにしやがった。ふざけるな。絶対に許さない、許してなるものか!絶対にアイツを倒して、あの女を奪って、アイツに絶望を与えてやる!!






「『それでは、決闘開始!!』」


 ファナの言葉と共にラルフが魔法を放つ。


「【炎の槍】!!」


 すると、ラルフの周りに五本の炎の槍が出現する。【炎の槍】の最大生成数は使用者の魔力量に比例し、魔力量の限界値までならば、数をコントロール出来る。


「喰らえっ!!」


 そう言って、リュートに向かって【炎の槍】を放つ。それに対してリュートは、


「…………」


 【炎の槍】を眺めながら立っていた。そして、


『ドゴォーーーーン!!!!!』


 激しい音が鳴り響く。生徒たちは一瞬にして終わってしまった戦闘にポカンとしている。


 その様子を見て、


「ハハハハハッ!!」

 
 ラルフは勝ち誇ったように笑っている。ところが、


「デカイ口を叩いたわりには大したこと……」


 突然彼が言葉を止める。生徒たちは彼の様子に戸惑いを覚え、彼の視線の先を追う。その先には、
 

「…………」


 まるで何もなかったかのように立っているリュートがいた。
 




 
〜愛望side〜
「『それでは、決闘開始!!』」


 その言葉とともにローレンくんが魔法を構築して、そのまま魔法をリュートくんに向かって放つ。これに対してリュートくんはその場にただ立っていた。私はそれを見て、


「ちょっと!!何してるの、あの子は!!」


 思わず、叫んでしまう。


「彼の【炎の槍】は相当な威力があるぞ!」


 フォンくんがいう通り私たちと比べたら劣るるものの、彼の【炎の槍】は十分な威力を持っている。次の瞬間、


『ドゴォーーン!!!』

 
 激しい爆発音がした。
 

「「「…………」」」
 
 
 私たちは思わぬ結果に思考が止まってしまった。
 

「……ね、ねぇ!クロちゃん!アレって大丈夫なの!?」
 

「?何がですか?」

 
 私は思わずクロちゃんに聞いてしまう。でも、クロちゃんは何を言っているのかわからない、と言うような表情をする。


「だ、だから!彼のことよ!!」

 
「?………何かありましたか?」


 クロちゃんは可愛らしく、コテンと首を傾げる。………って、そうじゃなくて!!


「い、いやだってあの爆発……」


「…………あ、そういうことですか」


 クロちゃんはようやく合点がいったと言わんばかりの表情を浮かべる。


「ご主人様にあの程度の魔法は通じませんよ」


「え?いやありえな………っ!?」


 私は【気配察知】も発動させる。すると、あの爆発があった中心に反応があった。爆発による砂埃が消えると、会場の生徒からも驚きの声が聞こえた。


「ば、バカな!?オレの【炎の槍】が当たったのに何故倒れていない!!」


 ローレンくんは、信じられないと言わんばかりに声を荒げている。正直、私も同じ気持ちだった。それに対し彼は、


「いえ。当たってませんよ?」


 なんでもないかのように答えていた。


「な、何を言っている!!………ま、まさか!お前みたいなクズが無詠唱の魔法を使ったというのか!?」


「いえ。私は【魔力障壁】を使っただけですが……」


「なっ!?」


 ローレンくんの顔が驚愕の色に染まる。それは私たちも同じだった。


「……【魔力障壁】?」


「……あんなもの・・・・・で?」

 
 フォンくんと麻衣ちゃんがそういうのも無理はないと思う。【魔力障壁】とは文字通り魔力を操り、魔力の壁を作る魔法のことだ。でも、自分の魔力をわざわざ自分の体から出して発動させるので、魔法の規模の割に消費魔力量が激しい。そのため、魔法の基本としては習うものの、実用には向いていないとされている魔法なのだ。


「フフッ。ですから、皆さんは分かっていないと言ったのです」


 クロちゃんは上機嫌な様子でそう言った(………あれだけ尻尾がすごい勢いでふられていれば、誰だって分かるわよ
)。


「えっと……。私達にも分かるように説明してくれないかしら?」


 私は素直にクロちゃんに説明を求める。


「そうですね……。おそらく西園寺様ならば、すぐに分かってしまうと思いますよ」

「私?」

 私は少し考える。私ならって言うことは私にしか出来ないことって言うことよね。試しに魔眼を発動させると、

「!?………なに、アレ?」

「会長?どうされたのですか?」

 希美ちゃんが心配してくれるが、私はそれどころではない。なぜなら、彼が行っていることが目に見えてしまったからだ。


「ね、ねえ?クロちゃん?………もしかして、彼は大気中に含まれる魔力、魔気を操っているの?」


「はい。その通りです」


「大気中の魔気……?」

 
 この世界の空気には魔気と呼ばれる、いわば魔力の元となる物質が存在する。リュートはその魔気を操り、【魔力障壁】を発動させたのだ。


「【魔力障壁】は魔法の中では、初歩中の初歩とされています。しかし、簡単だからこそ使用者の魔力制御の技量がはっきりと分かるのです。そして、その魔力制御は自身の中だけでなく、自分の体の中以外の魔力、魔気を扱うこともできます。………こんな風に」

 
 そう言うと、クロちゃんは手の平を上にして魔力を創り出した。


「「「っ!?!?」」」

 
 私たちは思わず席を立ってしまう。リーシャちゃんたちも立ち上がるまではしなかったけどその魔力量に驚いているのが分かった。


「この魔力をご主人様は【魔力障壁】として使っているのです。もちろん、コレにも才能の差はありますが、ある程度扱いが上達すれば中級くらいの属性魔法には対抗できるでしょう」


「「「…………」」」

 
 私たちは唖然とするしか無かった。先ほどのクロちゃんの言葉通り、簡単に私たちの常識が崩されてしまったのだから。


「(リュートくん……。あなたは一体何者なの?)」

 
 私はそう思わずにはいられなかった。






「………さて。そろそろ、こちらも攻撃に移らせていただきます」


 あれから、リュートくんはローレンくんの攻撃を【魔力障壁】で受け続けていた。


「ハァ、ハァ、ハァ……!ふ、ふざけるな!!今まで防戦一方だったお前に何ができる!!」


 息を切らしながら、ローレンくんはそう言う。ローレンくんは遠距離魔法だけでは埒が明かないと思ったようで、近接戦闘魔法を使ってリュートくんを倒そうと思ったみたいだけど、残念ながら【魔力障壁】と彼の動きに翻弄され一撃も与えられなかった。その時、リュートくんの華麗な動きによって、会場の女子生徒の黄色い声援が聞こえたのは言うまでもないだろう。


「…………」

 
 リュートくんは無言で右手を前に向ける。そして、ある魔法を唱えた。


「【魔力弾マジックバレット】」


 すると、彼の周りに魔力の塊のようなものが現れた。そして次の瞬間、
 

「グハァ!?!?」

 
 ローレンくんが壁に叩きつけられる。


「「「へっ?」」」

 
 さらに、後ろの壁にヒビが入る。それはまるで、何かに殴られたかのようだった。


「「「…………」」」

 
 思わず、私たちはまた黙ってしまう。


「……ね、ねぇ、クロちゃん?アレって【魔力弾】よね?」


 私はクロちゃんに尋ねる。【魔力弾】は、戦いの中ではあくまで魔法を習いはじめの魔法師同士が戦うときに使われる牽制レベルの魔法で、相手を吹き飛ばすような威力など、普通は出ないはずなのだけど……。


「はい。ですが、ただの【魔力弾】ではありません。ご主人様がお使いになった【魔力弾】は圧縮された【魔力弾】です。さらに、それを【魔力爆散】で撃ちだしたのです」


「圧縮した?魔力を?」


「はい、では実際にやってみましょう。先ほど魔気から作ったこの魔力を制御して、全体から圧縮していきます。すると………」


「………魔力の質が上がってる!?」


「はい。こうすると、少ない魔力量でも強力な魔法にすることができます」

 
 魔法の規模は魔力量、魔法の威力は魔力の質によって左右される。簡単に言えば、魔力量が多く魔力の質が高い者が優れた魔法師とされる。でも、リュートくんが今回使ったのは魔力量、魔法の規模を捨てる代わりに魔法の質や威力を上げてる。これって………

「……ご主人様が今回の戦いで使ったもののほぼ全てが努力をすればするほど、強力にしていくことができます。ご主人様は、ご自身がその方法を実践することによって、無属性魔法しか使えない生徒に戦う術を伝えているのです」

 
 そう。彼は実際に自分でやって見せることで、無属性使いは戦えない、という私たちの常識を覆してみせた。


「………ホントに、面白い子ね」
 
 
 私は自分でも知らないうちに笑っていた。


「……ただ、一つ分からないことがあります」

 
 クロちゃんが呟く。


「どうして、ご主人様はあのような条件を付け加えたのでしょうか?」

 
 クロちゃんはわからない、と言った表情をしている。条件とは『勝利した者が敗北した者に一つだけ命令できる』と言うやつだろう。


「まぁ、ご主人様のことですから素晴らしいお考えがあるのでしょう!」

 
 ………クロちゃんはやっぱりクロちゃんだなぁ、と思った私だった。






「…………」

 
 ラルフが壁に叩きつけられてから、少し経ったが彼が起き上がってくる様子は見られない。


「『………はっ!す、すみません!あまりの衝撃に思考が飛んでいました!』」

 
 ファナは思わずボーッとしていたようだ。


「『え、えっと……。と、とりあえず!勝者はリュート選手です!!』」


「「「「「……………」」」」」
 
 
 生徒たちもファナと同じように、立ち直るまで時間がかかっていた。しばらくして、彼らが復活すると、
 

「「「「「う………うぉーーー!!!!」」」」」


「すっごーい!ほんとに勝っちゃった!!」


「いいぞー!リュートー!!」


「きゃー!リュートく〜ん!!カッコイイ〜〜〜!!!」

 
 生徒たちは大盛り上がりだ。

 
 その後、救護の教師により回復したラルフは、
 

「…………」

 
 悔しそうに、リュートを睨んでいた。もちろんリュートはどこ吹く風である。
 

「『それでは、リュート選手が決闘前に提示してきた敗者への命令権!!リュート選手は一体何を命令するのでしょうか?!』」
 

「はい。それでは………」

 
 一泊おいて、リュートはこう言った。


「………クロに謝ってください」






〜クロside〜
「………クロに謝ってください」


「え?」

 
 私は思わず呟いてしまった。ご主人様は、あの男に謝れと言った。しかも、ご主人様に対してではなく私に対して。


「……は?お前は何を言っているんだ?」

 
 あの男はそう言っています。……ご主人様をお前呼ばわりは相変わらずムカつきますね。


「何故オレがあの魔剣なんかに謝る必要がある?ふざけるのも………」


「黙れ」

 
 ご主人様のそれほど大きくはないのに、何故か耳に入ってくる一言は会場に静寂をもたらします。そして、


「っ!?!?!?」

 
 あの男に向かってのみ殺気を向けています。あの人はガクガクと座り込んでしまっています。


「………どうやら、あなたは勘違いをしているようですね」

 
 ご主人様はゆっくりと彼がいる方向に歩いて行きます。言い方こそ丁寧ですが、その言葉一つ一つに怒りが込められていることが分かりました。


「魔剣は所有者のモノ・・などではありません。魔剣は一つの命であり、所有者の力になる存在……。いわば、パートナーのようなものです。それをあなたはモノだと言うのですか?あなたこそ、ふざけるのもいい加減にして下さい」

 
 その時、私は気が付きました。ご主人様が何に怒っていらっしゃるのか。






『君が僕のモノになればいい!!』
 

『そんな奴に君みたいな高貴な存在が使われているなんて、そもそもおかしいんだよ!』
 

『だから、僕が君を使ってあげるよ!!』






 ご主人様は私のために、こんなヤツに怒ってくださっていたんだ。そのことを理解した私は、すぐにご主人様の元に向かった。






「……………」
 
 
 リュートは、その冷たい眼差しをラルフに向けている。その眼差しはまるで絶対零度のようだ。


「ご主人様!!」

 
 そんな状況の中、クロがアリーナにやって来た。


「あぁ、クロ………。ちょうど今、彼にあなたについて……」

 
 そこで彼の言葉は途切れる。なぜなら………、


「っ………(ギュッ)」

 
 クロに抱きつかれたからである。勢いがかなりあったが、落ち着いて勢いを殺す彼は相変わらずである。そのまま彼女はリュートの胸に顔を埋めている。


「……………」


「………………」


「………………」


「……………あの、クロ?」

 
 リュートは思わず声を掛ける。クロの肩が僅かであるが震えている。


「どうされたのですか?……………もしかして、私はまた何かしてしまったのでしょうか?」

 
 彼は自分が彼女に何かをしてしまったのか心配していた。もちろん、そんなことある訳がなく………


「そんなわけありません!!…………むしろ、その逆ですよ」

 
 クロが力を更に入れながらそう言う。


「このような、ご主人様にとってなんのメリットもないことを、私なんかのためなさってくださるご主人様に対してそんなこと………思うわけがないじゃないですか」

 
 女性からしたらなんとも嬉しいものだろう。自分の慕っている男が自分のために戦ってくれていたのだ。彼には何の得もないのに、である。それが嬉しくないわけがない。


「………クロ」


 リュートがクロに声をかける。


「……はい。なんでしょうか?」


 クロはまだ少し、涙声である。そして、彼はクロの頬に手を当て上を向かせる。


「あっ」


 さらに


「…………『私なんか・・・・』などと言わないでください」


「えっ」


「貴方はとても素晴らしい女性です。そして、私の大切な人です。ですから、そのような悲しいことは言わないでください」


「っ!!」
 

 クロはまた、目に涙をためてしまう。そして、


「……私はご主人様の魔剣でいられることが………一番の幸せです」

 
 そう言って顔を上げる。その目には少しの涙が残っているが柔らかで優しい微笑を浮かべ、それはまさに天使の笑顔だった。


「私も、あなたの主でいられることが………とても幸せです」

 
 そう言って、彼もまた綺麗な笑顔を浮かべた。






 その笑顔について後日、クロに聞いてみると………


「普段からご主人様のスマイル耐性の付いている私ですら、危なかったですね。……優しい雰囲気を漂わせ、凛々しく綺麗なあのお顔で、あともう少し見つめられていたら、おそらく私は胸がドキドキし過ぎて死んでしまっていたかもしれません………。女性があんな笑顔を向けられたら、一発で落ちてしまいますよ」


 ………ということだったそうだ。




                 To be continue.

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