魔剣による(※7度目の)英雄伝説

D_9

第1章『最強の魔剣』編 3話「まさかの遭遇」

 リーシャとレイが歩き始めてから数時間。2人は着実に目的地に近づいていた。ここまでの道中、デス・ウルフ以外の魔物も出てきてはいたが……
 
「【氷の剣舞アイスダンサー】」
 
「グガァーー!?!?」
 
「【炎の槍フレイムランス】」
 
「ギュワァーーー!?!?!」
 
 などと、出てきた瞬間2人によって文字通り瞬殺されていた。最初に出てきたデス・ウルフレベルでさえ瞬殺した2人である。

それ以下の魔物がいくら群がろうが、彼女たちの敵ではないのは明白だろう。
 
「……ふぅ。大分進んだわね」
 
「そうですね、このまま行けば夕方までには帰れそうです」
 
「えぇ、あんまり強い魔物出てきてないし、この調子で進めば…」
 
 しかし、次の瞬間………
 
「「っ!?!?」」
 
 2人の【気配察知】(無属性魔法の1つ。魔力を広範囲に薄くのばし、魔力を持つものに反応することで偵察用の魔法として使用される)が今までとは比べ物にならない魔物を探知した。
 
「……リーシャさま。この気配は…」
 
「…えぇ。確実にAAAランクはいってるでしょうね」
 
 魔物のランクは、下からC、B、A、AAダブルエーAAAトリプルエー、S、SSダブルエスSSSトリプルエスZゼットというふうに分かれている。
しかし、1つのランクが上がるごとに討伐難易度は隔絶したものとなる。
 
 もちろん、属性や戦い方の相性もあるが基本的にランクが1つ上がるごとに戦闘力は10倍以上に跳ね上がると言われる。それを考慮すると彼女たちの反応も当然である。
 
「…………来るっ!!」
 
 その言葉と同時に、目の前から急に【炎の弾ファイヤバレット】が飛んできた。
 
「【水の壁ウォーターウォール】!!」
 
 とっさにレイが叫ぶ。
 
「ドォン!!!!!」
 
 激しい爆風と衝撃が2人を襲う。2人はすぐに距離をとり、相手の様子を見る。すると、【炎の弾】が飛んできた方向からある魔物がこちらに向かってきた……
 
「……炎獅子……」
 
「こんな森の中にいるなんて……」
 
 それはAAAランクの魔物、炎獅子であった。現代風の言い方をすれば、ライオンに鬣や尻尾などの各部分が炎に覆われている。
名前からも分かるように火属性魔法を使う魔物で、他の属性の魔法は使えないが属性レベルは7にも達すると言われる。
 
「厄介な相手ね。しかも、結構でかくないかしら?」
 
「はい。通常の炎獅子の2倍以上はありますね」
 
 そう、通常の炎獅子のサイズは2〜3メートルだが、目の前の炎獅子は少なく見積もっても4メートル以上はあるだろう。これらのことから…
 
「…少し手こずりそうね」
 
「………」
 
 2人は警戒心をさらに高め、相手を見つめる。炎獅子もまた2人を見つめる。先手をうったのは………レイだ。
 
「【聖水雨天ウォーターレイン】!!」
 
 レイがそう叫ぶと、空に雨雲が集まり豪雨が降り始める。【聖水雨天】、この魔法は結界魔法と呼ばれる魔法の種類である。
 
 この魔法の場合、一定の範囲に雨を降らせる。効果範囲を小さくすれば、その分雨量は上がる。今回は、炎獅子の能力を低下させるためと炎が木に燃え移らないようにするために行使した。
 
『グワッ!』
 
 突然の雨に一瞬戸惑いを見せたが、すぐに臨戦態勢に移る。そして、
 
「!レイ、来るわ!」
 
「!」
 
 先ほどと同じ、【炎の弾】を複数打ってきた。
 
「くっ!」
 
「ふっ!」
 
 2人はすべて避けきる。後ろで、爆発が起きているが今は気にしている余裕はない。
 
「レイっ!時間稼げる?」
 
「どのくらいですか?」
 
「2分くらい!」
 
「問題ありません。おそらく、私の攻撃では致命傷を与えるのは厳しそうなので…リーシャ様がトドメをお願いします」
 
 そう言いながら、詠唱を始める。
 
『氷結せよ、我が刃!我が命に答え、敵をなぎ払い給え!【氷の剣舞】!!』
 
『我が身、我が武器に纏え!【水の衣アクアドレス】!!』
 
『水竜の牙よ!其は飛散せし水柱となれ!!【水の棘アクアニードル】!!』
 
 3つの魔法を同時に発動した。【水の棘】は、水を操り棘にして相手を刺す魔法である。この魔法の恐ろしい点は、周りに水があるなら本人の技量さえあれば、それらをすべて棘にすることも可能である。今、ここには【聖水雨天】により、雨が降っている。つまり……
 
『グガァー!?!?!?』
 
 360度からの攻撃が可能なのである。いくつかの条件はあるが、この2つの魔法の組み合わせは恐ろしいものである。こうしている間にも、炎獅子の体に少しずつ傷がついていく。
 
 しかし、今彼女は4つの魔法を同時に行使している。しかも、【氷の剣舞】という高難易度な魔法に【水の衣】を纏わせ攻撃力、体に纏わせ防御力を上げ、さらにどの魔法も彼女にとっての全力を出し切っている。いくら、詠唱をわざわざ唱え、魔力の消費量を抑えたところでそう長くは保たないだろう。
 
 しかし、彼女はそれを行った。なぜなら、自分が最も信用している人間から頼まれたのだから。それに応えることが出来なければ、侍女としても、彼女の親友としても失格であろうと、レイは考えていた。
 
 そのおかげもあり、確実に炎獅子はダメージを受け、動きが鈍くなっていた。レイは、トドメはリーシャが確実にさすと信じていたので、自分は足を狙い、少しでも相手の敏捷性を落とそうとしていた。しかし…
 
「っ!?………ハァハァ…」
 
 ついに限界が訪れる。【氷の剣舞】が強制的に解除され、【水の棘】も狙いが粗くなって、【聖水雨天】の雨量も少なくなっている。
 
 そして、炎獅子が好機と見たのか、レイに突進してくる。予想外の攻撃に対処できず、炎獅子の巨大な体がレイの細い体を吹き飛ばそうとしたとき………
 
「伏せて!!!」
 
 自分が最も信頼する声が聞こえ、咄嗟に身を地面に伏せた。
 
「喰らいなさい!!【電風の濁流ヴォルトエアロストリーム】!!!」
 
 そう叫ぶと、リーシャの手から雷を帯びた濁流が風に乗って炎獅子の方に向かった。【電風の濁流】。実はこの魔法、リーシャのオリジナルである。しかし、彼女の風、雷は属性レベル7、水はレベル6でレベル8に至っていない。にも関わらず、彼女はオリジナルの魔法を放った。 
 
 これには、ある魔法が関わっている。それは、精霊魔法である。これは、精霊魔法の中でも難易度の高いもので、精霊の力を借り自身の属性レベルを一段階あげる、というものである。
 
 これにより、彼女は【水竜の濁流アクアストリーム】に風魔法と雷魔法を組み合わせ、オリジナルの魔法を作ったのである。
 
 何故、こんなにも時間がかかったのかと言えば、精霊魔法を使ったからである。確かに難易度自体は低いものの、魔力の消費が激しく、これだけの魔法を打ってしまったら、しばらくは動けないだろう。
 
 いや、平均的な魔力量の持ち主であれば、魔法を行使することすら困難だろう。そんな、強力な魔法を喰らった炎獅子は、
 
『グガァーーーー!?!?!?!?』
 
 今までにないほどの絶叫をあげる。濁流により周りの炎が消え、そこに電流と風刃が本体にダメージを与えている。そして、ついに…

『ガアァァァーーーー!?!?!?』
 
 と、最後の咆哮を上げその場に倒れた。同時に2人もその場に座り込んだ。
 
「……………ぷはぁっ、はぁっ、はぁっ」
 
「ハァ、ハァ。っ、なんとか、なりましたね。はぁ」
 
「そうね。はぁ……ふぅ、流石に疲れたわ…」
 
「そうですね。……あ、これポーションです。どうぞ」
 
「ありがとう。あなたの分は?」
 
「いえ、実は在庫が一本しか無かったので…」
 
「はぁ、それを先に言いなさいよ。じゃあ、半分こね。先に私が半分飲んじゃうから」
 
「い、いえ!大丈夫ですから。私よりもリーシャ様のほうがお疲れですし…」
 
「そんなことないでしょ。さっき魔力切れ起こしそうだったじゃない」
 
「うっ!」
 
「ほらほら、じゃあ飲んで。それにこれは、【ロイズテイル】の王女としてではなくて、あなたの親友として言っているの!だから、ね!」
 
 綺麗な笑みを浮かべながらそんなことを言う。相変わらずだ、なんて思い苦笑しながらも内心ではそんな彼女の気遣いをとても嬉しく思い、
 
「………分かりました。ありがたく、頂戴いたします」
 
 リーシャに負けないほど、綺麗な笑みを浮かべながらレイはそう言った。
 
「えぇ、どうぞ」
 
 つかの間の休息で2人はお互いの体の調子の確認をしたり、傷を治していた。こんな森の奥地には相応しくない、和やかな雰囲気が漂ってきていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 



「…………ん?」
  
 ある洞窟の中で、1人の黒髪の少女が怪訝そうな声をあげる。
 
「………炎獅子がやられた、じゃと?」
 
 少し驚いたような表情をする少女。炎獅子はそれなりの実力を持っている。それを知っているこの少女は少なからず驚いていた。例え、それが模倣コピーしたものであっても…
 
「ふむ。せっかく、わしが創ったのにのぉ。……まぁ、よいか。久しぶりに少し期待できそうじゃしな」
 
 少女は口を三日月のように曲げて笑う。それは、少女の歳には不似合いな笑い。………あたかも悪魔のような笑いだった……




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