魔剣による(※7度目の)英雄伝説

D_9

第1章『最強の魔剣』編 2話「2人の実力」

 現在、リーシャとレイは魔物の森の中心付近を歩いていた。今回、彼女たちが目指しているのは中心よりももう少し先に行った場所であった。
 
「………ふぅ、暑いわねぇ」
 
 手をパタパタさせながら、リーシャが言う。
 
「そうですね。夏も間近ですし、仕方がありませんね」
 
 と、いつものクールな表情でレイが返事をした。
 
「……そんな涼しい顔で言われても……」
 
「メイドですから」
 
「えっ、メイドってそういうものなの!?………っていうか、あなた私の侍女じゃないの!?」
 
「冗談です」
 
「………」
 
 たまにレイが言う冗談はよく分からないし、冗談に聞こえないものが多い。リーシャはレイが昔からちょっと不思議ちゃんなのだと知っている。昔、治そうとしたが無理だった。しかし、本人は面白いことを言った(心の中でガッツポーズをしている)、と思っているのでどうしようもない。とは言え、そんなところも彼女の長所だとリーシャは心の中で思っている。
 
(※ちなみに侍女とメイドの違いは、侍女が個人に仕えるのに対して、メイドは家に仕えるという違いがあるそうです)
 
 この世界の1年は12ヶ月360日で、1週間は火、水、雷、風、氷、無の6日。【ロイズテイル】には四季があり、現在は春と夏の間くらいである。
 
「では、少し涼しくしましょうか」
 
 そう言ってレイは、目を閉じて魔法を唱える。
 
「【氷の霧アイスミスト】」
 
 そう言うと、2人の周りに霧が発生した。この魔法は、名前の通り対象の周囲に氷の霧を発生させるというものだ。この魔法はこのように普段の生活でも使うことができ、実践でもそれなりの実力者が使えば相手の動きを封じることもできる。封じるまでは行かなくても、相手の動きを阻害することができるという非常に便利な魔法である。
 
「ありがとう。涼しくなったわ」
 
「いえ。では、先を行きましょう………っ!?……リーシャ様」
 
「…えぇ、魔物みたいね」
 
 2人の前方の草むらが揺れ、複数の魔物が飛び出てきた。
 
「ウルフ・ロード……複数体で出てくるなんて…」
 
 レイがそう言うのも無理はない。通常、Bランクのウルフ・ロードはCランクであるファイヤウルフなどを従える立場であり、決してウルフ・ロード同士で群れを作ることはない。ただ1つの例外を除いて…
 
「…どうやら、デス・ウルフがいるみたいね」
 
 少し、強張った声でリーシャが言う。
 
 デス・ウルフとは、ウルフ・ロードを従える魔物でAランクに位置づけられる。二足歩行で、獣人族のように見えるが知能は高くないため獣人族ではない。魔法は無属性しか使えないが、元々の身体能力に加え身体強化の魔法が加わり、さらにウルフ・ロードを従えて集団戦法を取ってくるため厄介な相手である。……ここで普通の学生ならば即時撤退なのだが、この2人からすると……
 
「ここは私がやるわ」
 
「いえ、この程度の相手ならば私に任せてください」
 
「この程度なら、たいしては魔力は使わないわ」

「リーシャ様の目的は魔剣なのですから、ここは私がやります」
 
 などと言っている(もし今デス・ウルフが居たとしても、あまり変わらなかったと思うが……)。しかし、ウルフ・ロードたちは2人の雰囲気から自分たちがなめられていると感じたのか……すぐさま一斉にとびかかった。

「ガウァーー!!!」
 
 ……ところが、次の瞬間
 
「ギャウァーー!?!?」
 
 などという悲鳴に変わった。見ると、2人の周りには4本ほどの氷の短剣が浮かんでいた。
 
「……いきなり、襲い掛かってくるとは……礼儀がなっていませんね」
 
 そう。この氷の短剣はレイが作り出したものである。【氷の剣舞アイスダンサー】と呼ばれる魔法で、自分の周囲に氷の剣(今回は短剣であったが、武器は自由に変えることができる)を作り、それらを操作し敵を葬るという魔法である。使用者の魔力量や技術力により、武器の数や力、範囲は左右される。この魔法は難易度としては高いなのだが、ソレを無詠唱であっさりと行使したことからも彼女の実力が分かるだろう。
 
「相変わらず便利な魔法ね、それ。私はあまり空間認識能力が高くないからここまではできないのだけれど」
 
「リーシャ様にはそれをカバーできるほどの魔力量と4属性の魔法を使えるという強みがあるのですから、あまりワガママを言わないでください。……むしろ、羨ましいくらいですよ」
 
 ここで言う4属性というのは、非常に珍しいものである。基本的には、人族は魔法を5属性使えるものの、適性が無ければ属性レベルが上がることは無い。平均的に見れば、2属性の適性があるのが普通である。しかも、属性レベルはよくて4〜5程度。ところがこの2人。特にリーシャは4属性で属性レベルもすべて6を超えている。これこそ、まさに天才と言うやつなのであろう。
 
「私なんて適性が2属性だけなのに…」
 
 本人は気にしているようだが、それでも属性レベルが2つとも6を超えており、普通の学生レベルではないのだが……隣の芝生は青く見えると言うやつなのであろうか。
 
「あなただって十分すごいと思うけど……まぁ、いいわ。それより、デス・ウルフは私がやるから」
 
「なんでですか。先程も行った通り、リーシャ様の目的は魔剣で……」
 
「だからよ……一応、調子の確認はしておきたいから」
 
「…はぁ、もういいです。お好きにしてください」
 
 昔から、リーシャは決めたことは絶対に曲げなかった。しかし、レイはリーシャのこういう頑なところを好ましく思っていた。その頑固さに彼女は救われたのだから。…しかし、彼女はそれをリーシャには絶対に言わないようにしている。彼女の唯一のストッパーである自分が、彼女を応援してしまっては元も子もないことを分かってるからだ。
 
「ありがとう、レイ。……っと、来たみたいね」
 
 2人の前方から、先ほどとは明らかに格の違う魔力量の魔物が現れた。……デス・ウルフだ。現代のイメージでいうと、狼男の上半身と腕が熊のように太く、目は怪しげに光っている。
 
「さてと…やりますか!」
 
 そうして、リーシャは詠唱を始める。
 
『森羅万象、この世のすべてを焼き尽くし、薙ぎ払い、存在を脅かすものよ!その力を我に与えたまえ!【豪爆風刃ヴァレーヒテンペスト】!!』
 
 そう唱えると、炎を纏った風の刃がデス・ウルフとウルフ・ロードたちに迫る。刃が当たると、斬撃とともに爆発が起こる。
 
「ギャウーン!?!?!」
 
「ガァアー!?!?!」
 
 などと、魔物の悲鳴が聞こえる。
 
「【豪爆風刃】……相変わらず恐ろしい複合魔法ですね。風刃の速度の斬撃で敵を切り、もし避けても爆風に巻き込まれる…絶対に食らいたくない魔法です…」
 
「そう?詠唱が必要だし、なんだかんだで消費魔力も多いし…まだまだね」
 
 複合魔法は属性レベルが8に達していなくても使える。この魔法の利点は、2つの属性の長所を活かせるところである。逆に短所としては、消費魔力が激しく扱いが難しい。リーシャですら、無詠唱は避けたいと思うレベルである。
 
「まぁ、とりあえずこれで一旦途切れたかしら?」
 
 Aランクの魔物をあっさりと倒したリーシャはそんなことを言う。
 
「……そうですね、周囲に敵らしき気配もありませんし」
 
「じゃあ、急ぎましょうか」
 
「はい。では、次は私がやります」
 
「えっ、まだ私やりたいんだけど!」
 
「交代です。順番です。…その次は任せますから」
 
「むぅ……ま、分かったわ」
 
 明らかに場違いな雰囲気のまま、2人は歩みを進めていった。
 
 


 
 
 
 ……自分たちに待ち受けているものが、全くの予想外のものであることを知らずに……



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コメント

  • D_9

    →勇者ヒイラギさん
     そうなんです。自分も今回初めて知りましたw

    1
  • 勇者ヒイラギ

    侍女と、メイドに違いなんてあったんですね!w

    3
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