それでも僕はその愛を拒む

Kanon1969

される側からする側に

1
僕は詩音のマンションを出た後、適当に近辺で時間をつぶした、昼食もまた花恋には要らないと伝えてあるため、そこら辺の飲食店で済ませた後に帰宅した。

家に着くと、僕は鍵を鞄から取り出して扉を開けて家に入った、用心のために基本的に玄関のドアの鍵は掛けてある。

「ただいま」

...あれ、いつもなら花恋から返事が返ってくるのに、今日は返ってこない、靴はあるから出掛けている訳ではなさそうだ、まぁ聞こえなかっただけか...

その後、僕は荷物を置くために自室へ向かった、そしてドアを開けると、

「...は?何で花恋が僕のベッドで寝てるんだよ」

妹の花恋が僕のベッドで寝ていた、本来であれば、こんな事など、有り得ないのだが、事実、花恋は僕のベッドで寝ているのだから、受け入れる他に仕方ない。

「それにしても珍しいな、花恋が僕のベッドで寝ている事もそうだが、こんな時間になっても起きないなんて、もう昼過ぎなのに」

でも、たまには良いか...このままにしておこう、きっと花恋も疲れている筈だ、家の家事を一人で全部こなしているのだ、無理もない。

僕も手伝おうとするが、少ししか手伝わせてもらないため、家事は全て花恋がやっているようなものになってしまう、だが、それでも以前よりはマシで、以前までは何一つとして手伝わせてもらえなかった...

「だからこんな時くらいは、僕が家事をやらせてもらうか」

「スゥー、スゥー」

「それにしても、気持ち良さそうに寝ているな...まるで起きないし、それなら花恋が寝ている間に出来る家事は全て終わらせてしまうか」

そして、僕は自分の荷物を降ろして家事に取り掛かった。


2
掃除、洗濯と特に何の問題も無く終わったが、割と時間がかかった、まぁ、ほとんど掃除に時間をとられた訳だが、この家は一軒家なので、二人で暮らすには少し広く、ゆえに時間がかかってしまった、本当にこれを一人でやっている花恋には頭が上がらない。

1時頃から始めて、今出来る家事を全てを終わらせた頃には3時過ぎになってしまっていた、ようやく終わったので、僕は一度、自室に戻った。

「まだ寝てるのか...これは本当に無理をさせていたのかもしれないな」

自室に戻ると、花恋は未だに寝ていた、こんなにも疲れが溜まっていたとは思いもしなかったため、兄として非常に申し訳ない。

「ごめんな、気付いてやれなくて」

僕は花恋の側に行き、そっと頭を撫でた、優しく、優しく... 

すると、
 
「ん、ん~、え...?にい、さん?」

「起こしちゃったか?ごめんな」  

花恋は目を覚ました、目覚めた時は寝ぼけているのか、少しぼんやりとした声音だったが、

「え!兄さん帰ってたの!?って、今何時!?」

「今は、もうじき4時になる頃だと思うぞ」

僕が目の前に居る事を自覚すると、慌てた様に声を上げて焦り出した。
 
「4時?午後の?」

「ああ」

「...もしかして花恋、兄さんのベッドでずっと寝てたの?」

「ああ」

「...っ!どうして起こしてくれなかったの!?」

少し落ち着いたのかと思ったら、今度は何故か赤面して怒り出てきた、何か花恋の気に触るような事を僕はしたのだろうか?

「それは、花恋があまりにも気持ち良さそうに寝ていたから、起こすのも気が引けて、それに花恋も疲れていると思って」

「いいよ!そんな気つかわなくて!起こしてよ!まだ、今日分の家の仕事してないんだから」

「家事なら、出来る事は全部しておいたから大丈夫だぞ、掃除とか洗濯とか」

「え?しておいた?兄さんが?」

「ああ」

今度は、ポカーンとした表情で僕を見てくる、凄いな、こんな短時間でこんなにも表情が切り替わるなんて、何だか面白い。

「も~う!何で起こしてくれなかったの!そしたら花恋がやったのに!兄さんが家事なんてする必要ないんだよ!」

「そう言う訳にはいかないだろ、今日、僕は気付いた、花恋がいかに疲れているのかを、そして決めた、花恋にほとんどの家事を頼るのはやめようと」
 
「だから!そんなのいいって何回も言ってるじゃん!」

「僕だって何回だって言っている、手伝うって、確かに最近は少しは手伝わせてもらえるようになったが、そんなの全体の一割にも満たないじゃないか!それにさ...何よりも花恋には無理をして欲しくないんだよ」

今日、分かってしまった、僕がいかに花恋に無理をさせてしまっていたのかを、それを理解した以上、花恋に頼り続ける訳にはいかない。

「はぁ、本当に兄さんは優しいんだから...分かりました、それじゃあ、膝枕してくれたら許してあげましょう」

「ありがとう、花恋」

「それで、してくれるの?くれないの?」

「分かったよ、膝枕だったな、でも...そんなので良いのか?」

「それが良いの!」

「はい...」

そして、僕は花恋に言われた通り、ベッドに腰掛け、花恋はそんな僕の膝の上に自分の頭を乗せた。

今度はする側か...

「ねぇ兄さん、ありがとう、気遣ってくれて」

「良いんだよ、それに、感謝しなきゃいけないのは、僕の方だ、ありがとう、いつも家の事をしてくれて」

妹の事を気遣うなんて兄として当然の事だ、別にわざわざ感謝される事でもない、本当に感謝しなきゃいけないのは僕の方だろう。

「クスッ、それこそ別に良いのに...でも、どういたしまして!」

今の花恋はとても嬉しそうに見えた、それを見ているこちらも嬉しくなってくる。

「あっ!でも、ごめんね、勝手に兄さんのベッドで寝ちゃって、急に昔の事を思い出して...何か寂しくなってきちゃって、それで...」

「そうだったのか...良いよ別に、僕もごめんな、また花恋に寂しい思いをさせて」

「兄さんが謝らないでよ!こんなの私の我儘だもん、こんな事なんかで兄さんに迷惑はかけられないよ!」

「...だが」

「いいの!じゃあ兄さん、頭撫でてよ」

「あ、ああ」

僕は花恋の頭をまた、そっと撫で始めた、出来るだけ優しく、まるでとても繊細な物を扱うかのように。

「やっぱり気持ち良い...さっきも、花恋の頭撫でてたでしょ?」

「気付いていたのか」

「ううん...何かね優しい感じがしたんだ、寝ていて凄く心地良い感じがしてね、目を覚ますと兄さんが居て、暖かくて、そして今確信した、兄さんに頭を撫でてもはらってたって、だって凄く心地いいもん!」

「それは良かった」

こんな事でこんなに喜んでもらえるとは思わなかったが、花恋に喜んでもらえるなら、僕としても素直に嬉しい。

「兄さん」

「ん?」

「お泊まり、楽しかった?」

「...まぁ、そこそこに」

「そぅ...」

泊まりの時の事を持ち出した瞬間、花恋の声のトーンが急に低くなった気がする。

「それとさ、さっきから気になってたんだけど、兄さんの首元、赤いよ、どうして?」

首元が赤い?...っ!気づかれた、何故か消えないけど、こんなの別に目立たないから大丈夫だろうと思ってたのたが、まさか気づかれるなんて、まぁ良い、適当に誤魔化そう。

「何か痒くてさ、かいちゃただけだよ」

「...嘘、だってそれ、腫れの赤色じゃなくて、口紅の赤色じゃん」

え?口紅?どうりで消えない訳だ!ちくしょう、詩音の奴、だがどうする?どう誤魔化すか?

「すみません、罰ゲームでこうなりました」

これでどうだ!?

「罰ゲーム?じゃあ何で初めからそう言わないの?」

「だって、恥ずかしいだろ、罰ゲームで首元にキスマーク付けられたんだぞ」

「...はぁ変なお友達を作らないでよ、分かったよ罰ゲームね」

良し!何とか切り抜けた、実に危なかった。


「あっ!早く夕食の支度しないと」

「今日は僕が...」

「絶対ダメ!」

「はい...」

「宜しい!じゃあ兄さんは部屋でゆっくりしててね」 

やっぱり、食事作りは絶対に出来ないか...

花恋は飛び起きて、台所に向かってかけて行ってしまった。

「ちくしょう、詩音の奴...こればかりは絶対に文句言ってやる、つまり僕は口紅の赤色が首元についた状態で出歩いてたって事だろ、キスマークは擦れて崩れていたが、だとしても、ふざけんな!」

思い返して見ると、とても恥ずかしい1日を僕は過ごしていた。

だけど、何故だろうか?花恋が泊まりの時の事を僕に聞いてきた時、あんなにも声のトーンが低くなったのは?いや、深く考えるのはやめよう、どうせ考えてもろくな答えが出て来ないだろうし...

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