それでも僕はその愛を拒む

Kanon1969

唐突な提案

僕は約束通りに今週もまた詩音の家にいる。家と言っても詩音が住んでいるのはマンションなのだから、詩音が住んでいるマンションの部屋にいると言った方が良いかもしれない。細かく言えば、その中の詩音の自室いる訳だが、詩音の部屋は必要最低限の物しか置いておらず、家具等のデザインも無機質な物ばかりで、女の子らしさはほとんど感じない。

「ねぇ無月君、あなた土日は暇よね?」

「何故お前にそんな事を言われなければならない。僕が暇かどうかなんて分からないだろ」

詩音はいつもの人を見下すような表情で僕に話しかけてくる。そして、その声もまた冷たい印象を受ける。僕はこうしていつ此処に来るかと言う予定しか詩音には教えていない筈だから、詩音が僕の土日の予定なんて知る訳がない筈だ。

「あら、学校では空いてる時間は勉強か読書しかせず、友人はいない訳では無いのに自分から話しかけには基本的に行かないような人が土日に予定があるようには思えないのだけど」

「……チッ、お前の言う通り僕は暇だよ。だから何なんだよ。まさか要件も無いのに予定を聞いてきた訳じゃないんだろ?」

真衣と同じ様に詩音も僕を見ていたと言う事か……。だが、学内では互いに無干渉と言う約束を既に聞いてもらっている以上、あまり文句も言えない。下手に文句を言って詩音を怒らせても僕には結果的に何もメリットは無いだろうから何も言わないようにするしかないか。 

「えぇ勿論。要件があるから予定を聞いたのよ」

「いいから早くその要件を教えてくれないか?」

「言われなくても教えてあげるわよ。次の土日に私の家に泊まりに来なさい」

何を言っているんだ? 僕に自分の家に泊まりに来い? 何で僕がそんなことしなければならない。そもそも、こいつの家は僕が泊まりに来る事が可能なのか? 年頃の娘がいるのに男である僕が泊まるなんて普通じゃ考えられん。

「そもそも男である僕が年頃の娘が居るのに泊まれる訳ないだろ、お前の両親が承諾する筈がない」

「それなら何の問題も無いわ。だってこのマンションの借りてる部屋で私は一人暮らしなのよ。泊まりに来る人が男でも両親の許可なんていらないわ」

確かに、一人暮らしであれば、わざわざ両親の許可なんてとる必要も無いだろう、ばれる事もまず無いだろうし……。

「何でお前はこの年で一人暮らしなんてしてるんだ?」

「私の両親は二人とも海外で働いているのよ。ちょうど私が高校に上がる時からだったかしら。二人とも同じ会社だし転勤先の国も一緒だったから着いてこないか? って言われたけど、いきなり周囲の環境が変わるのが嫌だったから、私だけこの国に残ったのよ。だからこうして一人暮らしをしている訳、それにこのマンションのセキュリティって馬鹿みたいに凄いでしょ? ここに住むのが私がこの国に残る条件だったのよ」

それで一人暮らしをしている訳か、確かにこのマンションのセキュリティは僕の知っている限りでも凄まじく、部屋の解錠はカードをスキャンした後に6桁の暗証番号まで入力しなければいけない、しかもオートロックだ。住人の部屋以外には監視カメラが至る所に設置されていて警備員が24時間体制で監視しているらしいし、部屋の扉の前にもカメラがあって、そのカメラを通じて住人は自分の部屋に訪ねてきた人間を全て確認出来るらしいのだから僕にはマンションが監獄のように思えた位だ。

「それなら確かに僕がお前の部屋に泊まる事は可能かもしれないが、断る。週一以上お前の家に来ると言う約束は守っている。だから僕はお前の所に泊まりに行くメリットなど何も無いからな」

「週一以上って、毎週絶対に一回だけしか来ないじゃない……。でも無月君にもメリットはあるのよ」

「僕にもメリットがある? どう言う意味だ?」

「無月君が知りたい私の事を何でも一つ、教えてあげる」

僕が知りたい詩音の事を何でも一つなら聞けるのか!? それはつまり、詩音が持っている僕の秘密が記されているノートのありかを知ることができる! ならば、承諾するしかない。仮に詩音の策略にはまる事になったとしても……。

「分かった……。此処に泊まりに来てやる」

「ありがとう。土曜日までに家の人に話しを通しておいてね」

そうか、花恋に伝えておかないといけないのか……。まぁ友達の家に泊まりに行くと伝えれば良いか。多分大丈夫だろう。

「だが、今日はこんな時間だし僕は帰る。話は伝えておく、土曜日の何時に此処にに来れば良い?」

「午後の2時位には来て」

「分かった。じゃあな」

「えぇ。さようなら。楽しみにしてるわね」

詩音の部屋を出る際に詩音の方を見ると、彼女は嬉しそうな表情をしていた……。そこに人を見下すような表情は無かった。ただ、純粋に嬉しそうに見えた……。

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