やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~

魔法少女どま子

ルイスの部 【紳士な息子】

 ――トクン、トクン。

 ルイスは、自身の高鳴る鼓動を聞いた。 

 鼻先には、誰もが羨みを持つであろう美少女――ユイが、恥ずかしそうに顔を赤らめている。目を閉じ、ルイスからの《次》を待っているかのようだ。

 その可愛らしさ。あどけなさ。艶やかさ。

 こういう経験に疎いルイスにはやっぱり刺激が強くて、もう一度ごくりと唾を飲んでしまう。

 この儚げな唇を、思うままに塞いでやりたい。俺の好きなようにいじってやりたい。そんな衝動に駆られるが、しかし他方で、心のどこかではまったく別の声があがっていた。

 ――やめろ。こんな乱暴なことをやっていいものではない――

 わからなかった。
 魔王の息子として、自分はどうすればいいのか。父上だったらどう言うのだろう。乱暴に押し倒せとでも言うのだろうか。持てる限りの力を振りかざし、でかい顔をするのが果たして《権力者》としての務めなのか。 

 どうすればいい。
 魔王の息子たる俺は、次の一手になにをすればいい……?

 悩むルイスにしびれを切らしたのか、ユイの桜色の唇から吐息が漏れた。

「……どう、されたのですか?」

「え……」

「年頃の男女が、二人きりで、同じ部屋に入る……。この意味もわからず、私はついてきておりませんよ」 

「…………」  

 ルイスはしばらく逡巡しゅんじゅんした。
 大きく息を吸い、深呼吸をすると、ゆっくりとユイから手を離す。上半身を起こし、彼女から距離を置く。

「……乱暴をしてすまなかった。私も最悪だな。不埒な真似をしないと言っておきながら、おまえを押し倒すなどと」 

 そこでユイも同じく上半身を起こすと、さきほどと似た、どこか切なげな笑みを浮かべた。 

「驚きましたわ。まさか身を引かれるだなんて……ルイス様って紳士なのですね」

「いや、私の不手際だ。お互いのこともわからず、しかも今日会ったばかりの相手にこんなことをするべきではない」

「は……?」
 ユイは目をぱちくりさせると、今度はくすりと笑った。
「ふふ、本当に稀有けうな方ですわね。学園では強そうな態度を取られていたのに、実は真面目な面もお持ちだったとは。信者さんがいるのもわかる気がします」

「だ、誰が真面目なのだ、誰が!」
 顔を真っ赤にして反論するルイス。
「私は魔王の息子なのだ! それに見合う風格は必要だろう!」 

 これまでも名門貴族の子息ではあったが、父親が魔王に就任したとあっては訳が違う。

 魔王。すなわち、魔物界を牽引けんいんする最高者。

 父がそれほどの大役を背負っているのだから、息子たる自分もそれに見合った魔物にならねばなるまい。

 ただ、それだけのことだ。

 ルイスはこほんと咳払いすると、気恥ずかしさを懸命に抑えながら言った。

「おまえも知っているだろうが……一週間後には、三大国で平和会議が開かれる。私も出席する予定だ。……まあ、議論そのものには参加しないが」

「まあ。それは晴れ舞台ですわね」  

「まあ、その、なんだ。よかったらおまえも来ないか。滅多にない機会だしな」

 かっこつけた手前で非常に言いにくいことながら、正直、ユイとの接触を断念したのはもったいなかったという気持ちも多少ある。健全なる男子として、やはり性欲にはあらがいがたい。でも無理やり事を進めるのもルイスの好むところではない。 

 だから、すこしでも距離を詰めていけたら……
 そんな思いを込めた、いわばデートの誘いであった。

「うーん、一週間後ですか……。申し訳ありません、魅力的なお誘いなのですが、生憎その日は予定がありまして……」 

 ユイは悲しそうに眉の両端を下げる。 

「その代わり、いつかまた、城下町を一緒に回らせていただけたら嬉しく思います。あなたと二人で」

「ふ、二人で……」
 会議に来られないのは寂しいことだが、その一言でルイスの気持ちは嘘のように晴れた。
「わかった。またよければ、二人で城下町を見て回ろう」
 

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