やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~

魔法少女どま子

コトネの推理

「あ、エルくん」

 廊下に出ると、コトネが壁に寄りかかる形で待っていてくれていた。

 トイレがあるとかなんとかで、彼女が先に教室を出ていたのである。

「どうしたの? ちょっと遅かったけど」

「……ま、取るに足らないことで時間を取られてね」

 それから僕は、ルイスの傲慢すぎる誘いについて説明した。

 コトネは最初不愉快そうに眉をひそめていたが、数秒後には表情を和らげ、ため息をついた。

「ルイス君も性格どうにかしてほしいけど……でもこのご時勢だからね。彼も不安なのかな」

「……ま、それはあるだろね」

 ――魔王ワイズとの戦いから三日。
 たったそれだけの期間で、魔物界は混沌に包まれた。

 あれほど賑わっていた城下町にもかつての華やかさはない。人通りも減り、商店も何件かは門戸を閉ざしてしまった。その状況で不安にならないほうがおかしい。

 だが。

「ルイスは大丈夫だよ。僕には一撃で負けたけど……あれでも、そこそこの使い手さ」

「そ、そうなの?」

「……まあ、《学生にしては》ってレベルだけどね。貴族だから剣をしこたま習わされてきたんだろう」

 それよりも、僕にはコトネのほうが大切だ。
 世界がどんな局面を迎えても、彼女だけは守らねばならない。絶対に。

 そんなことを話しているうちに校舎を出た。壁面に掛けられている時計を見ると、まだロニンとの待ち合わせには余裕がありそうだった。あと二時間ほど、どこかで時間を潰す必要があるだろう。

 僕は隣のコトネを見下ろした。

「どうする? どこか行きたいところはあるかい?」

「う、うーん」
 コトネは難しい顔をした。
「いまは部活もやってないもんね。なにもないかな……」

「そうかい……」
 僕がため息をついた、そのとき。
「あ、それじゃ」
 コトネが頬を赤らめ、僕の手をぎゅっと握った。
「いったん、家に帰ろ」




 小さなアパートの一室。
 ただでさえ狭い部屋に無理やりベッドを二つ置いているので、スペースとしては不充分な部屋である。あとは机やその調度品を設えると、ほとんど歩ける場所がない。

 ゆえに、部屋そのものは整理整頓が行き届いている。ただでさえ狭い部屋に、教科書やら服が散らばっていたら悲惨なことになるからね。

 ……ま、掃除はほとんどコトネがやってくれているんだけど。

 そんな自宅に、僕とコトネは帰ってきた。

 部屋の明かりをつけ、僕とコトネはそれぞれのベッドに腰掛ける。

 二時間後には魔王ロニン夫妻との待ち合わせだ。そんなにゆっくりできないのに、いったいなぜ家に帰ろうなどと言い出したのか。

 改めてそれを問いかけようとしたが、それより先に、コトネが口を開いた。

「……エルくん、大丈夫?」

「へ?」
 きょとんと目を見開く。
「質問の意図がわからないな。大丈夫かって、いったいなんのことだい?」

 コトネの目つきは真剣そのものだった。僕の両手に静かに手を重ねあわせると、呟くように言った。 

「……だってエルくん、なんだか様子が変だもん。今日だってロニンさんと会いにいくんでしょ? ストレイムと、ナイゼルを止めるために」

「……それがどうしたのかな」

「だって、エルくんは……そんなヒトじゃない。そんな……厄介なことに、自分から首を突っ込むなんて……」

「…………」

「やっぱり、責任を感じてるんじゃないの。自分のせいで……魔物界が混乱しちゃったって」

「……ふん。どうだかな」

 そう言って僕はコトネから目を逸らした。

 正直――驚いた。
 口でははぐらかしてしまったが、コトネの推理は的確に僕の心境を言い表していた。

 創造神ストレイム。

 奴の狙いは定かではないが、奴は確かに、《計画の第一段階は完了》と言っていた。

 つまり、魔王ワイズが失脚し、魔物界が混迷を極めている現状こそが、奴の計画の一部だったのだ。
 僕はまんまとそれに荷担してしまった。

 誘拐事件を解決するため――とはよく言ったものだ。
 僕はまんまと創造神の誘導にはまり、魔王を殺し、世界を《激動の時代》へと導いた。

 そういう意味では、僕は戦犯なのだ。
 自己満足のために、世界を混沌に陥れた張本人なのだ。

「違う。違うんだよ」
 僕のそんな心理を見透かしたのか、コトネの手に力が込められた。
「エルくんは悪くない。悪いのは創造神たちでしょ」

「はは。そうだといいんだけどな……」 

 僕にはそれしか言えなかった。


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