やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~

魔法少女どま子

魔王なんて神から見ればゴミみたいなもの

 案内された先は、やたらと装飾過多な部屋だった。

 陽光の差し込む窓を背景に、書類がうずたかく積まれた長机がひとつ。 

 部屋のあちこちで宝石やら指輪やらがそれぞれの光を放っており、僕としては正直うざったかった。なにが良いのかまったくわからない壁画や像までが飾られている。

「ふうん。君、ずいぶんと変な趣味してるんだねえ」 

 言いながら、僕はそこらへんにあった椅子に腰を下ろし、ふんぞり返ってみせた。

 ちなみに、近辺には誰もいない。
 魔王の威厳を気遣う必要もないから、ここではタメ口である。

 ところが魔王はなにを勘違いしてか、僕の真向かいに座ると、変わらず砕けた口調で話してきた。

「これが余の趣向であるからな。金が嫌いな奴がおるわけが……」 

「…………」

 僕が睨みをきかせると、魔王は一転して萎縮した。

「し、失礼しました。これが私の趣味でありまして、その……」

「勘違いしてもらっては困るね。いまは君を《生かしてあげている》だけに過ぎない。僕の機嫌次第で、君なんかすぐコレだよ」

 右手を首元にあてながら言うと、魔王はぶるっと身を震わせた。

「す、すると、エル様はもう……十年前のことを思い出していらっしゃる……?」

「とっくにね。君への殺意も明確に覚えているよ」

「うう……」

 縮こまりながらも、魔王はすこしホッとした表情をしていた。

 ――やはりそうだ。
 魔王が僕を呼びつけた理由がわかった。

 奴は不安なのだ。
 僕にいつか殺されるかもしれないと、怖くて怖くて仕方がないのだろう。

 だから僕を呼び出し、記憶が戻っているのかどうかを確かめた。

 僕は魔王をも超えた大魔神だ。
 その気になりさえすれば、魔王なんかいつでも始末できる。

 それなのに僕が一向に魔王城に攻め込まないということは、すなわち魔王を《いまのところ》殺すつもりがないと……そういうことになる。

 奴はそれを確認したかったのだ。だから僕が記憶を取り戻していて、それでも一ヶ月間、なにもしてこなかったことに安心していたのである。

 ――変わってないな。
 臆病者ではあれど、頭のまわる奴であることは間違いあるまい。

 僕は両腕を後頭部にまわすと、背もたれに体重を寄せた。

「安心しなよ。いま君を殺したら、魔物界はかなり混乱に陥る。そんな馬鹿なことはしないつもりさ」

「そうですか……それはまあ、私としては助かりますが……しかし、なんでまた学園に? 正直、魔神様にとってはかなり薄い授業内容ですが……」

「わかってるよ、そんなこと」
 僕は姿勢を元に戻すと、真っ直ぐ魔王の眼孔を見据えた。
「取引だ。いま君を殺さない代わりに……僕とコトネを学園に入学させること。あと、またコトネをダシにしようとしたら、そのときは問答無用で君を殺す」

「わ、わかりました。それくらいはお安い御用です」

「あと、もうひとつ」

 僕は声のトーンを落とした。

「教えてくれ。……なんで人間なんかと癒着しているのかを」

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