やっと封印が解けた大魔神は、正体を隠さずに凡人たちに力の差を見せつけます ~目覚めた世界はザコしかいない~

魔法少女どま子

大魔神も昔馴染みの美少女には弱いです

 しばらくの間、静寂が周囲を包み込んだ。

「う、うぅ……」

 コトネが僕の胸で肩を震わせている。

 嫌いだった。他人から頼られることが。期待されるということが。

 でも、彼女だけは別だ。
 コトネは僕の初めての《友人》であり、《恋人》でもある。

 彼女は戦いに向いていない。
 さぞ大変な苦労をしてきただろう。
 それでも諦めなかったのだ。大魔神エルという、誰も近寄ろうとすらしない魔物を助けるために。

 そんな彼女を突き放すことなど、どうしてできよう。

 僕は片手をあげ、小さな頭を優しく撫でてやった。

「それにしてもねえ……」
 ため息まじりに僕は微笑んだ。
「まさか本当に十年も気が変わらないなんて。一途にも程があるよ」

「だ、だって……」
 声にならない声が彼女から発せられる。
「エ、エルくんは……わ、私のはつこいの……ひ……」

 そこまで言いかけたところで、コトネはまた泣き出してしまった。

 何年も植物状態だった苦しみ。
 ずっと僕に会えなかったもどかしさ。
 それらが急に解放されたのだから、さぞ多くの感情がせめぎ合っていることだろう。
 いまはそっとしておくか。

 彼女の頭をもう一度撫でると、僕はいままでの出来事を脳内で整理した。

 もはや考えるまでもない。

 ――魔王ワイズ。

 こいつこそが、僕の封印に一役買っていた。

 魔王は僕を殺そうと画策していて、だからコトネを《魔神の神殿》に派遣したのだ。

 そして彼女が使い物にならなくなると、ボロ雑巾のように捨てた。

 だがそうすると、いくつか謎が残る。
 魔王ワイズは確かに強いが、記憶を操作する能力までは持っていなかったはず。

 それだけじゃない。
 前述のように、僕は生来ずっと神殿に引きこもってきた。
 だから《下界》に干渉したことなど一度もない。また今後、魔王たちに手を出そうと画策したこともない。

 たしかに僕は魔王より強いものの、鬱陶うっとうしがられる存在ではなかったはずだ。

 僕を排除するくらいなら、勇者や人間軍に注力したほうが余程いい。
 人間のほうが悪意を持って魔王を殺そうとしていたのだから。

 ということはやっぱり、あの赤ローブが言っていたことは真実だったのか……

「いいかい、コトネ」
 僕は彼女の耳元で囁いた。
「いまから話すことは内密にしてほしい。――魔王と、人間の国王が裏で通じている」

「……えっ!?」

 一転してコトネが素っ頓狂な声をあげる。

 そんな彼女の額を、僕はぺちんと叩いた。

「あいたっ」

「内密に、と言ったろう。なんの目的かは知らないけど、人間と魔王で手を組んでいる可能性が高い。この街に襲撃が立て続いたのも、そのあたりが原因かもね」

「そ……そうなの?」

「まあ、間違いないだろうね」

 理由まではわからない。
 だが、なにかを企んでいるのは確実だろう。

 赤ローブにコトネを襲わせたのも、僕の記憶が戻るのを恐れたからかもしれない。 

 もしかすると、僕やコトネに再び何者かが襲ってくる可能性がある。

 僕は問題ないとしても、コトネには戦闘力がない。僕が毎回そばにいてやりたいところだが、さすがに限界がある。

 なんらかの策を講じる必要があるだろう。
 そこまで考えて、僕は言った。

「でも心配ない。君は必ず守ってみせるから」

「…………うん」

 そう言って、コトネは嬉しそうに僕の胸に顔を埋めた。

「あ、あの……」

 ふいに、いままで沈黙を保っていたコトネの両親が声を発した。

「お取り込み中すみませんが……あの、もしかしなくても、コトネ、動けるようになったんです……?」

 戸惑ったように目を白黒させる父親に、コトネは改めて向き直った。
 まだ平常心を保てていないのだろう。目を充血させ、ふらついた動作ながらも、コトネは両親に小さく頭を下げた。

「ごめんなさい……あと、いままでありがとう。お父さんとお母さんがいて、私、幸せでした。大事に介護してくれてたの、私知ってます」

 その言葉に、両親もまた目頭を抑えた。

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